2018年07月07日 10:03 弁護士ドットコム
ローマの重罪裁判所が2017年10月、HIV感染者であることを隠したまま50人以上の女性と性的関係を結んだ会計士の男性に対して、「稀代なる女性の敵」だとして懲役24年を言い渡した。
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産経新聞がこの事案について、6月10日に報じ、改めて日本でも関心を集めた。産経新聞によれば、ローマ近郊に住むこの男性が2006年から2015年までの9年間にわたり、50人以上の女性と性的関係を結んだ結果、32人をHIVに感染させてしまったという。
もし今回と同様の事件が日本で起きた場合、どのような罪に問われるのか。髙橋裕樹弁護士に聞いた。
「判決を読んだわけではないので、この会計士の方がどういう認識で女性との性交渉に及んでいたのかはわかりません。法的に検討する上では、
(1)自分がHIVに感染していることを知っていたのか (2)感染する可能性についてどう考えていたのか (3)HIVの治療などをしていたのかの3点が重要なポイントです」
高橋弁護士は「今回は詳細がわからないので、一般論として」と断った上で、日本で起きた場合について次のように話す。
「(1)のHIV感染を知っていたのか否か。もし自分がHIVに感染していることを知りながら、あえて避妊をせずに女性と性交渉に及んでいたのであれば、この会計士には傷害罪(1カ月以上15年以下の懲役もしくは1万円以上に50万円以下の罰金)が成立します。
もし相手の女性がHIV感染し、その結果、死亡させた場合は傷害致死罪(3年以上20年以下の懲役)が成立します。
そして複数の人をHIVに感染させた場合は、傷害罪の併合罪となり、法定刑の上限が1.5倍になりますので、1カ月以上22年6カ月以下の懲役となります。また死亡させた傷害致死罪の併合罪の場合は、3年以上30年以下の懲役になります」
今回のようなことを日本でもすれば、同様に重い罪に問われる可能性があるということだ。しかし、ひそかに日本でも同じようなことがあるのではないだろうか。
「この男性は自分自身がHIVに感染をしてヤケになってしまったのかもしれませんし、他の目的で不特定多数の女性と性交渉に至ったのかもしれません。
しかし、いずれにせよ日本の刑法でもかなり重い刑罰が科せられることになります。今回の件はHIV感染者が非常に多かったため、会計士による犯行が明るみになったのかもしれません。
ただしこのような問題は日本でも非常に身近な問題かもしれません。私も、交際相手や知り合いと性交渉に至って性感染症をうつされたという相談を何件か受けたことがあります」
その場合には罪に問えるのか。
「法的には、相手が性感染症への罹患を知りながら性交渉に至ったのであれば、傷害罪での告訴や、不法行為に基づく損害賠償はできます。もっとも傷害罪で告訴をしても性感染症が治癒するわけではありませんし、損害賠償請求に関しては過失相殺(あなたにも落ち度がある)と判断される可能性もあります。
HIVのみならず性感染症一般の問題として、誰かと避妊せずに性交渉をする場合には、性感染症に罹患するリスクが常にあると考えるべきだと思います。今回のローマの会計士の件は、他人事ではなく、自分にも関係する可能性のあるニュースなのだと認識していただくべきだと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
無罪判決多数獲得の戦う弁護士。依頼者の立場に立って、徹底的に親切に、誰よりも親切でスピーディな、最高品質の法的サービスの提供をお約束! でも休日は魚と戦う釣りバカ弁護士!
事務所名:アトム市川船橋法律事務所
事務所URL:http://www.ichifuna-law.com/