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志尊淳になぜオファーが殺到するのか? 『女子的生活』から『半分、青い。』まで、その演技を考察

2018年07月07日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 俳優・志尊淳が絶好調だ。NHKの朝ドラ『半分、青い。』で、ヒロインの楡野鈴愛(永野芽郁)とともに漫画家を目指す“ボクテ”を演じた志尊は、本作に限らず、2018年のさまざまな活躍が認められ、ORICON NEWSが発表した『2018上半期ブレイク俳優(男優)ランキング』で見事1位にも輝いた。


参考:志尊淳演じるボクテ、秋風塾から涙の旅立ち 『半分、青い。』鈴愛がついに漫画家デビューへ


 2018年1月期に放送されたNHKのドラマ『女子的生活』で主演を務めたことも多くの人が注目した要因のひとつではないだろうか。このドラマの中で志尊は、トランスジェンダーのヒロイン・みきを演じた。心は女性、恋する対象も女性という設定で、気持ちを理解して演じるには、難しい役であったと思われるが、トランスジェンダー指導を担当する西原さつき氏の指導を受け演じきっていた。


 町田啓太が演じるみきの同級生で、彼女の部屋に転がり込んできた後藤の単純さとの対比も描かれ、みきが、世の中の出来事を後藤のように単純に見られない複雑さの中で生きているという実感が感じられたし、そんな正反対の2人が、いわゆるバディのような関係になっていくという展開も、今のドラマファンの気分に合致していたのではないか。個人的には、安易でどこかで見たことのある恋愛関係で終わるものよりも、複雑だけれど確かな気持ちが描かれているもののほうがぐっとくる。


 志尊はこの作品での演技が評価され、コンフィデンスアワード・ドラマ賞の主演男優賞を受賞したほか、作品がギャラクシー賞の月間賞にも輝いた。


 世間に「ブレイクした」と認識される俳優は年に何人も登場するが、それがそのときの瞬間最大風速的な人気という意味での評価に終わらず、そのフレッシュな魅力が、同時に演技の実績に結び付くことはそうそうない。それが、志尊がほかの俳優と違うところではないだろうか。


 ただ、そこには本人の努力も無関係ではないだろう。『半分、青い。』では、ゲイのボクテ役を演じた志尊だが、ボクテの心が男性なのか女性なのか、その結果、なぜ女性らしいと思われる言葉を使うのかなどについては、『女子的生活』で勉強した結果、制作側よりも緻密に考えていたようで、制作側にもそんな疑問をぶつけ、ひとつひとつ自分で納得したうえで、表には表れない部分での演技を固めたそうである。


 今年は、この後、NHKの特別ドラマ『太陽を愛したひと ~1964 あの日のパラリンピック~』や映画『走れ!T校バスケット部』にも出演する志尊。


 『太陽を愛したひと』では、1964年、東京パラリンピックが開催された時代に、部活中に事故で車いす生活となり、ある医師と出会って夢を抱きはじめる青年を演じ、『T校』では、バスケ部強豪校のエースでありながら、いじめに遭い自主退学した少年役だ。その時代の社会背景なども描いた意欲作から、青春映画まで、どちらかを演じるのではなく、同時にどちらも演じられてしまうところが、彼が次々とオファーされる所以だろう。


 もちろん、その間には、『探偵はBARにいる3』で、謎に強い裏社会の用心棒としてシリーズに初登場し、『トドメの接吻』(日本テレビ系)では、先輩ホストのエイトに強い執着心を持つカズマを演じ、『ドルメンX』(日本テレビ系)では、アイドルを目指す宇宙人を演じているのだ。


 強いキャラは、ふりきって演じられるが、その分、荒唐無稽な設定を見ているものに違和感なく信じてもらわなくてはいけない。もちろん、それは今の時代の要望であり、ほかの俳優にもそんな要求はつきつけられているのだが、実際に演じるときには、影の努力を感じさせず、さらっと複雑なことをやってのけているのが、志尊淳のすごさなのではないかと思う。(西森路代)