トップへ

オダギリジョーが語る、“少し異質”な演技論 「『役になりきる』という言葉は大きな勘違い」

2018年07月06日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 映画『ルームロンダリング』(監督:片桐健滋 脚本:片桐健滋、梅本竜矢)は『TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM FILM 2015』で準グランプリを受賞した企画の映画化。ワケあり物件に住み込んで事故の履歴を消す“ルームロンダリング”をしている御子(池田エライザ)を主人公にしたコメディタッチの作品だ。


参考:オダギリジョー、土屋太鳳主演ドラマ『チア☆ダン』出演決定 「自分の中の可能性を感じる作品」


 リアルサウンド映画部では、御子をワケあり物件に派遣する不動産屋であり、御子の叔父である雷土悟郎を演じたオダギリジョーにインタビュー。「映画に対する思いが強い自分にとって、喜びの多い作品だった」という本作について聞いた。


ーー本作の脚本を初めて読んだとき、どう感じましたか?


オダギリジョー:漫画のようなポップな世界観、ストーリー展開のスピード感を含めて、とても読みやすかったです。ユニークな作家性を感じたし、作りたい世界がしっかり伝わってくる脚本でしたね。僕は映画が好きだし、良質な映画に関わりたいという気持ちが強いので、こういうオリジナル性の高い作品に出会えたこと、こういう台本を書ける人がいることがうれしいですね。


ーー片桐健滋監督にとっても長編第1作ですからね。


オダギリジョー:そうなんですよね。片桐監督といっしょに脚本を書いている梅本くんはサッカー仲間で、もともと仲が良かったんです。台本についても率直に意見が言えたし、早い段階からやりとりする時間を持てて。他の作品だったらここまで言わないかなということも言わせてもらった気がします。僕が演じる役(池田エライザ演じる主人公・御子の叔父役)のことから始まって、台本の疑問点を整理したり、「このシーンを直せば、こっちが活きるんじゃない?」ということだったり。友達のデビュー作だし、僕自身も「少しでも良い作品にしたい」という気持ちが強かったんでしょうね。


ーーオダギリさんが演じる雷土悟郎は、主人公・御子をワケあり物件に手配する不動産屋の叔父。この役についてはどう捉えていますか?


オダギリジョー:そうですね……。たまに「どうしてこの役のキャスティングが自分なんだろう?」というオファーがあるんですよね。理由を聞くと95%が「だからこそ(いままでにやっていない役だから)やってほしい」と言われるんです。でも、それではこっちの心は動かないんですよね。いままでやっていなかったということは、興味が持てなかったから。やらない理由があるんです(苦笑)。そういう役を持ってこられても……というか(笑)。何が言いたいかというと、今回の悟郎という役には興味があったし、監督、プロデューサーを含めて、僕がやりたいことやできること、個性みたいなものをしっかり捉えてくれているなという信頼があって。何の問題もなく、すぐにやりたいと思いました。即決でしたね。


ーー正しく捉えてもらってるという感覚は、この映画のなかに自分が存在していることが想像できるということですか?


オダギリジョー:それもあるし、初日を迎えたときに「自分が関わったことで、この映画がどうなったか」「自分にとってどんなところが良かったのか」というところまで想像して決めてます。具体的なことは内緒ですけどね(笑)。ひとつ言えるのは「自分が関わることで少しでもいい結果になる」と思えることが大事というか。


ーー御子と悟郎の関係も、映画の軸になっていると思います。池田エライザさんとはどんな話をしてたんですか?


オダギリジョー:役のことではなくて、池田さんのこれまでの人生についていろいろ話を聞いたんです。「その役者さんがどういう人生を送ってきたか」ということに興味があるし、それは感性の部分だったり、引き出しの多さにもつながってることなんです。そういう意味で池田さんは十分に面白い人生を送ってこられて、表現者としても伸びしろの大きい方だと思います。


ーーどう演じるかよりも、人間性や経験が大事だと。


オダギリジョー:もちろんそうですね。どんな役であっても、その人が根本的に持っているものしか出てこないと思うので。「役になりきる」という言葉がありますけど、あんなの大きな勘違いですよ(笑)。そうじゃなくて、その人自身の感性と役柄をいかに繋げるか、繋げた時に何が滲み出るかーーそこで役者としてやっていけるかどうかが決まるので。池田さんの感性には期待してしまいますね。


ーーでは悟郎にもオダギリさん自身の何かが滲み出ている?


オダギリジョー:そうだと思います。と言うのも、僕は“感覚をいかに使うか”という方法論を学び、やり続けてきたので。日本の演技論からすると少し異質だとは思いますが。


ーー完成した『ルームロンダリング』を観たときも「自分の判断はまちがえてなかった」と思えた?


オダギリジョー:想像以上におもしろかったです。監督がやりたかったことが具体的に見えたし、僕がイメージしていたのは表面的なことに過ぎなかったんだなと。僕は監督になりたい気持ちが強かったから、「もし自分が撮るなら」ということも考えるんですけど、「なるほど、片桐監督はこうしたかったのか」というものが随所に見えたんですよ。カメラワークや編集を含めて、監督自身のアイデアがしっかり感じられたし、それを可能にしたスタッフもすごいなと。こういう作品を制作したTSUTAYAさんも素晴らしいですよね。


ーーオリジナル脚本の映画の数は決して多くないですからね。


オダギリジョー:危機的状況ですよね、それは。新しい感覚を持った才能が表に出てこられなくなるんじゃないか? という危惧もあるし、このままでは日本の映画がダメになってしまう気がして。そういう意味でもTSUTAYAさんの意志はすごくありがたいし、これからも続けてほしいなと思います。(取材・文=森朋之)