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『ハン・ソロ』、『ローグ・ワン』比28%減のスタート 『スター・ウォーズ』の未来を覆う暗雲の深刻度

2018年07月05日 14:31  リアルサウンド

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 先週末の動員ランキングは『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が土日2日間で動員37万5000人、興収4億9900万円をあげて初登場1位に。当然、直接の比較対象となるのは2016年12月に公開された同じ『スター・ウォーズ』のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』となるわけだが、公開初週土日2日間の成績では約24%減、オープニング3日間では『ローグ・ワン』比28%減のスタートとなっている。ウィークデイに入ってからの興行も低調で、公開4週目の『万引き家族』とほぼ変わらない数字を積み上げている状況。『ローグ・ワン』の最終興収は46.3億円だったが、そこから大きく数字を落として、興収30億円前後の興行に落ち着きそうだ。


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 念のために言っておくと、『ハン・ソロ』日本公開後の観客の評判は必ずしも悪いものばかりではない。これまでの『スター・ウォーズ』シリーズ作品にありがちだった、熱心なオールドファンほど失望を露にし、若いファンは支持する、といった評価の分かれ方でもなく、各層において賛否がまっ二つに割れているという状況。世界的にも、メディアを中心に盛んに論じられているのは作品内容の是非よりも「どうして興行的に失敗したのか?」という分析の方である。約3年にわたって連載している本コラムの主題はまさにその興行分析なのだが、これまで興行的に無敵状態が続いていた『スター・ウォーズ』シリーズは、今回ほとんど初めての失敗をした途端に、多くの人の興行分析マインドを刺激しているわけだ。


 『フォースの覚醒』から2年半で正統サーガ&スピンオフを含めて計4本という「作りすぎ問題」。『ローグ・ワン』に続いてスピンオフでは2作連続の監督交代劇が証明している「製作の統率がとれてない問題」。若きハン・ソロを演じた主演オールデン・エアエンライクが若い頃のハリソン・フォードに「全然似てない問題」。才能溢れる若手撮影監督ブラッドフォード・ヤング起用が裏目に出た「画面暗すぎ問題」。これまで『スター・ウォーズ』シリーズの中心的存在だった「ジェダイやフォースといった概念、まったく関係なくなっちゃった問題」。それと、アメリカや日本では及第点の成績を収めたものの、中国などでは早期の打ち切りが相次いでいた「実は『最後のジェダイ』から失速は始まっていた問題」、などなど。その多くは後出しの結果論であるが、『ハン・ソロ』の敗因は次から次へといくらでも挙げることができる。


 日本固有の問題としては、アメリカやヨーロッパとのサマーシーズンのズレによって日本公開が1か月以上遅れて、その間に作品の不評が知れわたってしまったことも挙げられるだろう。これは速報性と同時性が特徴であるネットメディアやソーシャルサービスが映画の情報や批評においても中心的な存在となった現在においては見過ごせない点で、実際に今作も近年の『スター・ウォーズ』シリーズ同様に世界同時公開に日本も倣っていれば、少なくとも初動の数字はもう少し良かったはずだ。


 逆に、日本の観客にはそこまで実感はないかもしれないが、今回の『ハン・ソロ』の特にアメリカでの興行的失敗の最大の理由として、自分はマーベル作品の影響が大きいのではないかと考えている。アメリカ国内で歴代興収ナンバー3となった『ブラックパンサー』の公開日が2月16日。同じく歴代興収ナンバー4となった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の公開が4月27日。2018年は歴代ナンバー3作品とナンバー4作品が連続して出現するという未曾有のメガヒットイヤーで、アメリカ、及び日本以外の世界各国の興行ランキングのトップは5月25日に『ハン・ソロ』が公開されるまで、その前週に公開された『デッドプール2』も含めてマーベル作品一色の状態が続いていた(ちなみに現時点での『ハン・ソロ』は国内で歴代181位、世界で歴代308位にとどまっている)。


 「マーベル作品と『スター・ウォーズ』シリーズは内容的には全然関係ないじゃないか?」という反論もあるだろう。しかし、本当にそうだろうか? 例えば今年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でマーベル・シネマティック・ユニバースに本格的な合流を果たした『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのキャラクターたち。同シリーズでクリス・プラット演じるピーター・クイル=スター・ロードに、往年のハン・ソロのような不良性の強いお調子者ヒーロー的キャラクターを感じるのは自分だけではないだろう。今や名実ともに『スター・ウォーズ』シリーズを上回る帝国を築き上げたマーベル作品。言うまでもなく、マーベル・シネマティック・ユニバースも『スター・ウォーズ』シリーズも同じディズニー作品である。「最大の敵は身内にあり」ということなのではないか、というのが自分の分析だ。(宇野維正)