トップへ

PASSPO☆、グループ活動を“青春”から“生活”に変えた9年間 デビューからの歩みを振り返る

2018年07月05日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 ナゴヤドームでAKB48選抜総選挙の開票イベントが行われた6月16日、東京・キネマ倶楽部公演では、2010年以降のアイドル戦国時代を観てきた者にとって堪らないライブが開催されていた。9月に解散を控えているPASSPO☆の『歌って踊って奏でる対バンツアー』に東京女子流とベイビーレイズJAPANが出演したのだ。


(関連:PASSPO☆根岸・森・玉井が語る、結成7年目で辿りついたグループ像「自由な曲がいちばん似合う」


 PASSPO☆とロック魂を共有しているベビレは鉄板の「夜明けBrand New Days」で会場を熱気で包むと、去り行く先輩へのメッセージを「FOREVER MY FRIEND」に込めた。そして、PASSPO☆と同じ時代を生きた女子流は「ヒマワリと星屑」で“あの頃”を思い出させる曲でスタートした。


 ここで時計の針を2011年5月21日に戻したい。当時はまだ珍しいアイドルフェスが日比谷野外音楽堂で行われた(『アイドル・フェスティバル in ヒビヤ』)。風男塾やAeLL.、東京女子流といった出演者の中で大トリを務めたぱすぽ☆(当時)は、ブレーキの壊れたダンプカーのような勢いあるパフォーマンスで観る者の目を釘ヅケにしてみせた。


 ぱすぽ☆はCA風の衣装をトレードマークに、「空」と「旅」をコンセプトにした10人組ガールズロックユニットとして2009年より活動をスタート。2011年5月のぱすぽ☆といえば、メジャーデビューシングル『少女飛行』がオリコン週間ランキング1位に輝いたばかり。秋葉原UDXシアターでの9日間連続イベントをはじめ、『少女飛行』のリリースイベントは長期にわたり、クルー(メンバー)もパッセンジャー(ファン)も疲弊したが、オリコン1位という結果を生んだこと、「少女飛行」が名曲であること、パッセンが熱かったことは紛れもない事実だ。


 アイドルのメンバー紹介で「個性豊か」と常套句のように使われるが、ぱすぽ☆のメンバーはまさに「個性豊か」だった。プラチナムらしい岩村捺未、佐久間夏帆、安斉奈緒美。天然美少女の奥仲麻琴。筋トレを愛するスポーツウーマンの森詩織。最年少ながら色気がある玉井杏奈。アイドル好きアイドルの槙田紗子。クリエイティブ気質の増井みお。アイドルのロールモデル・根岸愛。イジられキャラの藤本有紀美。とくに槙田と増井は2010年代アイドルにおける“キャラ”の先鞭をつけた。


 アメリカの映像作品『glee』や『ハイスクールミュージカル』ではスクールカーストが描かれているが、その階級を乗り越えるためのツールは“歌”や“ダンス”だった。ぱすぽ☆も“歌”と“ダンス”でそれぞれの属性を超えて、ステージの上ではクルーがひとつになってパフォーマンスを見せる。機長・ペンネとアラビアータ(音楽プロデューサー・阿久津健太郎)と振付師の竹中夏海という頼もしい伴走者も重要なキャストだ。


 ぱすぽ☆から初めて卒業するメンバーとなったのが佐久間夏帆。2011年12月30日にZeppTokyoで行われた卒業ライブは、アンコールを何度も繰り返すぱすぽ☆らしいカラッとした笑顔のラストになった。


 佐久間の卒業を受けて8人の候補生の中から追加メンバーが選ばれるか注目されたが、2012年3月の中野サンプラザでパッセンが出した答えは「該当者なし」だった。改めて9人体制が強固なものになり、キャプテン根岸愛の求心力はグッと高くなった。


 2012年6月から10月にかけてリリースされた『Next Flight』『夏空HANABI』『WING』のエアライン3部作ではヘビーなサウンドに挑戦。『Next Flight』の購入者特典として行われた日比谷野音でのイベントでは、ペンネとアラビアータ率いる生バンド・ビーフorチキンをバックにパフォーマンス。野外+生バンド+ぱすぽ☆は最高の化学反応を見せた。そして、12月にはPASSPO☆に改名することが発表される。


 2013年夏頃からは、The Ground Crewをバックバンドにしたライブが定期的に行われるようになった。生バンドは普段の音源と音の表情がだいぶ変わってくるので、最初はパフォーマンスに苦戦したというPASSPO☆だが、持ち前のコミュ力でThe Ground Crewとのチームワークを高めていく。生バンドをバックにライブをするアイドルグループは多いが、PASSPO☆のように同じ体制で継続するグループは稀だろう。


 The Ground Crewは彼女たちに刺激を与え、増井がベース、玉井がドラムに挑戦するライブも行われた。さらにアーバンギャルドやHAWAIIAN6との共作やロックフェスへの出演でPASSPO☆はロック色を濃くしていく。


 ついにPASSPO☆本人たちがバンドを結成する。2014年3月にバンド版PASSPO☆として、池袋サンシャインシティ噴水広場で「Perfect Sky」を初披露。決して完成度が高いとは言えない演奏ではあったが、その青臭さが観る者の心に刺さった。結成当初に掲げていたバンド化が自然な形で達成されたのだ。


 しかも、このバンドは企画モノではなく現在まで継続しており、技術は向上し、演奏できる曲数を増やし続けている。また、増井が衣装デザインを手がけ、玉井と槙田は振りを作り、根岸と増井は作詞に挑むなど、PASSPO☆のDIY化が進んでいく。


 クルーはインタビューなどで「30歳、40歳になってもPASSPO☆を続けて、結婚しても祝福されるようなグループになるといいよね」と話すようになる。彼女たちは誰かにオールをまかせず、自身の手でPASSPO☆という船を濃いでいけるグループになっていたのだ。


 しかし2015年、PASSPO☆は苦境を迎える。1月に奥仲麻琴が卒業、5月に槙田紗子が活動休止(12月に卒業)。PASSPO☆は卒業したメンバーのカラーを現役メンバーにフュージョンするという荒業で、「7人がPASSPO☆としてベストな形」という意志を示した (2016年1月)。


 2016年2月にリリースされたレコード会社移籍後の初シングル『Mr.Wednesday』からはアメリカンガールズロックユニット路線を徹底する。


 『Mr.Wednesday』に続くシングル『バチェロレッテは終わらない』の作詞はジェーン・スー。その歌詞は「独身最後の夜に女の子だけが集まってパーティーを楽しむ『女の友情』」がテーマになっており、結婚しても、子供が生まれてもPASSPO☆の7人とパッセンの関係は続いていくという決意表明でもあった。


 2017年9月9日に行われた日本青年館でのライブで、PASSPO☆はアイドルの新しいスタイルを提示した。ダンスで見せる曲とバンドで奏でる曲を何度もスムーズに乗り替え、さらには、その場で決めた4曲をバンドとダンスに分けて軽く場当たりしてからパフォーマンスしてみせたのだ。さらに11月からは『歌って踊って奏でる(通称ててでる)ツアー2017→2018』と題して、1部はバンド体制、2部はダンス体制で全国7カ所を回った。


 「アイドル戦国時代」という言葉も聞かれないようになり、近年は解散を選ぶグループも増えるなか、PASSPO☆はこのまま10年、20年と続く例外的なグループになるのだろうと誰もが思っていたが、2018年5月18日にPASSPO☆の解散が発表された。「7人のPASSPO☆」にこだわった結果なのだろう。この解散発表はアイドル界に衝撃を与えた。


 今年6月16日、残り少なくなった東京でのライブで、PASSPO☆は女子流とベビレとコラボして「おんなじキモチ」「虎虎タイガー!!」「マテリアルGirl」をパフォーマンス。このコラボメドレーは「10年代アイドル百戦錬磨」と名付けられていた。彼女たちが駆け抜けた時代が凝縮された数分間に観客は熱い声援を送る。


 PASSPO☆のライブパートでは、新旧織り交ぜた8曲をパフォーマンス。なかでも、「Pretty Lie」から「少女飛行」という流れは“あの頃”を思い出させるとともに、アイドルを9年続けてきた気高い誇りを感じさせた。エンディングでは、戦友である女子流のメンバーが涙を流す場面もあったが、PASSPO☆クルーは彼女たちらしくカラッと笑顔でライブを終えた。


 9月22日、東京・中野サンプラザがPASSPO☆にとって最後のワンマンライブになる。9年間でグループ活動を「青春」から「生活」に変えたPASSPO☆の7人は、アイドルの聖地でどんな「終活」を見せてくれるのだろうか。(大貫真之介)