F1オーストリアGPが開催されたレッドブルリンクは地元オーストリアとオランダから大挙して来場しスタンドをオレンジ色に染めた大観衆で熱狂に包まれた。マックス・フェルスタッペンが今季初優勝、そしてレッドブルにとって初の地元優勝をもたらしたのだ。
勝負は1周目のターン7でキミ・ライコネンに左リヤに接触しながらも前に出た瞬間から始まっていた。3周目、フェルスタッペンはリヤの挙動に違和感を覚えていた。
フェルスタッペン(以下、VER)「マシンには問題ない? リヤロックに苦しんでいるんだけど」
レッドブル(以下、RBR)「OK、じゃあブレーキバランスを数クリック前寄りにしろ」
レース序盤のレッドブル陣営は、メルセデスAMG勢に対抗できるとは考えていなかった。ターゲットは表彰台、注視すべきは後方の4位ライコネンだった。フェルスタッペンには随時、ライコネンのラップタイムが伝えられていた。
RBR「君は1.09.5、RAI(ライコネン)は1.09.4」
流れが急展開したのは14周目にバルテリ・ボッタスがハイドローリック圧を失ってスローダウンした瞬間だった。
VER「おぉ、BOT(ボッタス)がトラブルを抱えている」
RBR「BOXする。ピット入口に到達する前にVSC(バーチャルセーフティカー)が解除になったらステイアウトだ」
メルセデスAMGはルイス・ハミルトンがピットインすればレッドブルとフェラーリがどちらか1台をステイアウトさせてポジションを取りに来ると考えてピットインの決断ができなかったが、少なくともレッドブルは最初からフェルスタッペンをピットインさせるつもりだった。これで首位ハミルトンはライバルたちがVSCで稼いだ8秒をピットストップまでにコース上で稼がなくてはならなくなってしまった。
RBR「HAM(ハミルトン)がピットインせずステイアウトした。我々は彼のピットストップウインドウの中にいる」
これでレッドブルの集中すべき相手はライコネンではなくハミルトンになった。
RBR「左リヤタイヤをいたわっていこう。第1スティントではとても良い仕事をしていたよ。今集中すべきはHAMだ」
スーパーソフトで走り続けるハミルトンに対し、ソフトタイヤのフェルスタッペンは逃げを許さなかった。
RBR「まだHAMと同じペースで走れているよ。我々はHAMと同じペースで安定して走れている」
しかしリヤタイヤにはブリスターの兆候が見え始めていた。そのためタイヤを保たせるためのマネージメントも必要だった。27周目にはもうこんなやりとりが始まっていた。
VER「少しペースを落とした方が良い?」
RBR「リヤタイヤの表面温度が少し高い。ターン9~10ではペースをコントロールしていけ。後ろとのギャップは4.1秒だ。トラフィックを抜いていく中でもタイヤをしっかりといたわることに集中しろ」
チームメイトのダニエル・リカルドもブリスターに苦しむドライバーの1人だった。ペースが上がらず、一度は抜いたライコネンに再逆転を許してしまった。38周目、リカルドは堪らず2回目のピットストップに飛び込んだ。
RBR「左リヤのブリスターに苦しんでいるドライバーが多い。ブリスターに気をつけろ。ターン9~10で負荷を掛けないようにしろ」
VER「RAIがRIC(リカルド)をパスした?」
RBR「イエス。RICは左リヤのブリスターに苦しんでピットインした。君は最後まで保たせる必要がある。レース終盤に後続が迫ってくるから、その時のためにグリップを残しておけ」
40周目を過ぎると、フェルスタッペンもレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーズも慎重になる。優勝できるかどうかはソフトタイヤを最後まで保たせられるかどうかに掛かっていることは明らかだったからだ。
RBR「RAIは1.08.6。HAMもブリスターに苦しんでいるがピットインしていない」
VER「今のところタイヤのマネジージメントは可能だけど、常にチェックはしておいてくれ」
RBR「今はプッシュする必要はない。ペースをキープしていけ。残り25周だ。みんなタイヤをいたわって走っているよ、心配はない?」
VER「OK、僕は良いフィーリングだよ。心配しないで」
54周目
RBR「全てコントロールできている?」
VER「あぁ」
55周目
VER「右フロントは大丈夫?」
RBR「あぁ、我々としては問題ない。オールOKだ」
58周目
VER「タイヤはOK?」
RBR「あぁ、問題ないよ」
61周目
RBR「残り10周、オールOK?」
VER「あぁ。彼らのタイヤの状況は僕と較べてどう?」
RBR「彼らのタイヤは良いが我々もタイヤには満足だ」
そして71周を見事に走り切り、フェルスタッペンはトップでチェッカードフラッグを受けた。オレンジ色に染まった観客席は熱狂のるつぼだった。
RBR「やったな、マックス! 教科書みたいな走りだった! オーストリアで優勝だ、最高だ!」
VER「イエス! フー! ハハハ! XXX! レッドブルでレッドブルリンクで勝てて、しかも大勢のオランダのファンのみんなの前で勝てて、最っ高の気分だ!Oh、イエス!」
RBR「我々もようやく“ゲーム”の中に戻ってきたぞ!」
シーズン序盤からアグレッシブ過ぎるドライビングが批判を受け、結果にもなかなか繋がらないレースが続いた。口では我関せずとは言いながらも、担当エンジニアのジャンピエロ・ランビアーズからはレース中も「クリーンにいけ」と何度も無線で釘を刺され、影響がなかったわけがない。
しかし素晴らしいドライビングでようやく結果を手にし、重荷はなくなった。重圧から解き放たれたフェルスタッペンがこれからどんな走りを見せてくれるのか、楽しみだ。