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“タマシイのぶつかり合い”でよりよい作品を…「消滅都市」原作スタッフが明かす、アニメ化企画の裏側

2018年07月04日 18:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

左から大桑哲也氏、下田翔大氏、濱坂真一郎氏
2018年5月27日に開催されたリアルイベント「PROJECT消滅都市発足発表会」にて、アニメ化が発表された人気スマートフォン向けゲーム『消滅都市』。

間口の広いゲーム性とドラマチックな物語が同時に楽しめることから幅広い層の支持を集め、すでに全世界で900万ダウンロードを達成。アニメ!アニメ!で2016年に行った“アニメ化してほしいゲームランキング”でも1位を獲得している人気ぶりだけに、アニメ化発表はファン待望といっても過言ではないだろう。
>「アニメ化してほしいゲームは?」アンケート、アプリ部門1位は『消滅都市』

そこで今回は、原作の制作を手がけるWright Flyer Studiosから、シリーズディレクター兼シナリオライター下田翔大氏、アート面を取りまとめるリードデザイナーの濱坂真一郎氏、アニメ化への取りまとめを行った大桑哲也氏の3名へのインタビューを敢行。アニメ化を進めていく中での舞台裏エピソードを語ってもらった。

すでに大勢のファンがいる原作の物語を大事にしつつも、制作を託すアニメスタッフとの交流を重ねていくうちに“喧嘩をしつつも背中を任せられる関係”となったという、熱いエピソードの数々をお楽しみいただきたい。
[取材・構成=馬波レイ]

TVアニメ『消滅都市』
https://shoumetsutoshi-anime.com/

■脚本を巡っては喧々囂々の話し合いが!?
――アニメ化がスタートした経緯をお聞かせください。
大桑
1年半ほど前に、今回アニメ制作を担当していただくポニーキャニオンさんのプロデューサーからお話をいただいたのがきっかけです。そこから社内での調整や製作委員会といった陣容を整えて、プロジェクトがスタートしました。
弊社内でも『消滅都市』をアニメ化したい意向はずっとあったのですが、なかなか一社だけで動かせるようなものではないので、お声がけはありがたかったです。

下田
グリー(※Wright Flyer Studiosの親会社)としては過去に自社IPのアニメ化で、反省点のあった作品もありました。ただ作ればいいというわけではないと思っていたので、今回の座組ができるまでは、アニメ化に対してかなり慎重な姿勢でした。

――ポニーキャニオンさんとの制作がきまってからは、アニメとしてどういう方向性を打ち出そうとされていたのでしょう?

大桑
『消滅都市』はゲームとしての知名度がある程度あるとはいえ、テレビ放送でより広い方々に知ってもらううえでは我々はチャレンジャーの立場にあります。
今回、アニメーション制作はマッドハウスさんが担当されるのですが、制作プロデューサーと最初に相談したのは、どのような制作スタイルを取るかです。
今回は、原作の我々が強いイニシアチブを取るのでもなく、完全におまかせするのでもなく、議論を重ねていきながら両者が一緒に進めていくスタイルを取りたいと考えました。

大桑哲也氏
――アニメ側のスタッフと、一緒になって制作をしていくスタイル。

大桑
ええ。下田が言ったように、過去にアニメ化した際は、言い方は悪いですけど"ゲームの宣伝媒体"みたいな形になってしまったこともありました。当然アニメファンにもそれが分かってしまい多くの方に楽しんでいただくことができなかった。一方で完全にお任せしてしまうと原作の良さは活かせませんから今回は疑問や不明点はみんなで議論して、一緒に解決していくことを強く意識しました。

下田
ゲーム制作でもそうなんですけど“ものづくりの場”が機能していないと、不幸な結果になりがちです。
決してなあなあではなく、お互いが本気になって意見をぶつけ合いながらも、最後には手を取り合っている関係でないといいものは作れない。そういった“場”を作ることはすごく重要だと考えました。

――同じクリエイターの立場としてともに作り上げていったと。具体的にはミーティングを重ねていくことで?

大桑
そうですね。週に一度夕方から深夜まで本読み(脚本チェック)の場を重ねています。

下田
最初こそお互いの顔色を伺いつつだったんですけど、回数を重ねるごとに意見交換が活発……というよりヒートアップしていきましたね。

大桑
スタッフ全員が“地に足の着いたドラマを作りたい”という意思のもと、物語の中で「こういうことは起こらない」「こういう言い方はしない」といった部分に、とことんこだわっていました。ときにはかなりヒートアップしたりもありましたけど、それがあったからこそ方向性が定まったと言えます。

左から下田翔大氏、大桑哲也氏、濱坂真一郎氏
――ゲームとアニメでの表現の違いによる摩擦なのでしょうか?

大桑
いや、そういう対立構図ではないんです。『消滅都市』をアニメ化するんだったらこういう方向性だろうというのは、最初からおおよそ同じ方向を向いていたんです。その中でどのような表現にしたほうがよりいいのかが、おのおの違っていました。
面白かったのは、監督はもちろんのこと、脚本家、下田、プロデューサー、マッドハウスのプロデューサーの方も、脚本から明確に“どんな画ができあがるか”をイメージできるスタッフの集まりだったんです。なので、脚本上はいいのだけど、細かく詰めていくとイメージしている画が違うということでのぶつかりが結構あったなという感じです。

下田
特に議論が白熱したのが“タマシイ”(※ヒロインの少女ユキに召喚されるキャラク
ター)についてですね。
設定がどうこうというよりは、タマシイを目の前にした登場人物たちが、どういう気持ちで向き合ったらいいのかということ。タマシイは幽霊ではないのですが、肉体はすでに滅んでいるかもしれない存在。生きて戻ってくる可能性が1パーセントでもあるのか、あるいは生きていると信じたいだけなのかと、“この世界を生きる人がタマシイとどういう気持ちで向き合っていくのか”という尺度を巡ってはかなり話し込みました。

――タマシイは原作の物語でも重要な要素です。

下田
アニメにおける表現に関しては、プロのみなさんですし当然100パーセント信頼しています。だからこそ、伝えたいこと、表現したいことについて、根っこの部分について意識をひとつにすることが大事だと考えました。お任せするための大事なポイントをガッツリ論議したということですね。
それだけあって、完成した1話の絵コンテを見たら「(激論を交わして)よかった~!」という気持ちでいっぱいでしたね。

大桑
たとえば、みんなが煮詰まっているときに制作プロデューサーの方の提案で、一気に解決への道が開けたりすることも何度もありました。喧々諤々の議論を交わしつつも、それぞれのスタッフの職能がパズルのピースのようにカチッとハマっていきましたね。
なので、本読みの後半になっても遠慮せずに意見が言い合える関係が続いて、最終的にはお互いが背中を預けあっている、よい信頼関係が結べたと思っています。

■ゲームのキャラクターを紹介するだけのアニメにはしたくなかった

――アニメ化するにあたって原作の魅力をどう落とし込もうとされたのでしょうか?

下田
これはすごく不思議なことなんですけど、あるとき脚本の話をしながら、スタッフのみんなが「この物語って、辛いこともあったけど頑張って生きていこうという話ですよね」と言いあっていたんです。
それがゲームの初期キャッチコピーである「だけど、生きていく。」と自然と一致していたんですね。自分たちが進んできた方向は間違ってなかったんだなと感じられた瞬間でした。

下田翔大氏

――入り組んだゲームのストーリーが、TVアニメとしてどのように展開していくのか気になっているファンも多いかと思います

下田
ゲームで語られている物語をそのままになぞっているわけではありません。ゲームでの1~3章ではロスト(消え去った都市)という目的地に向かうのですが、「じゃあ東京のどこからどこまでを移動するのか」といった具体的な場所や距離感の部分を、アニメでは無視できない。「2時間のツーリングを終えたらロストに到着しました」となってもしょうがない(笑)。アニメにはゲームにない実在感、距離感、重力が発生しますので、新しいキャンパスにもう一度物語を描くようにシリーズ構成を練っていきました。

大桑
幸い、原作の物語の中から「この部分を使いましょう」というのは、脚本家さんや制作プロデューサーの方とほとんど意見が一致しました。
事前にゲームをかなり遊びこんでくれていて作品に対しての理解があったので、ミーティングを進めるうちに相互の意見も一致するようになっていったんじゃないかと思います。

下田
自分が書く脚本はあくまでゲームに向けての言葉なので、アニメやドラマなど声を伴うセリフと向き合いつづけてきた方々には、それを活かすための手段が染み付いている。だから、自分が(脚本を)書いてはダメだ、プロの方と一緒に作れなければダメだと、はじめから考えていました。

――登場キャラクターが多数いる『消滅都市』ですが、アニメにはどれくらいの人数が出てくるのでしょうか?

下田
ドラマに必要なキャラクターを必要なだけ出そう、というコンセプトで作っていますが、現代社会で起こっていることを多角的に描くにあたって、多様な目線が必要となるので結果的に少なくない数になっているかなとは思います。
ただ、ゲームに登場するキャラクターを紹介するだけのアニメにはしたくなかったので、全員がまんべんなく出ているということもありません。


大桑
すでにキャストが発表になっている主要キャラクターは確実に登場しますが、物語としてのダイナミズムを一番大事にしているので、その中で泣く泣くアニメには登場させないというキャラクターもいます。
――キャラクターのお話が出たところで、原作ゲームでアート面を担当された濱坂さんにお聞きしたいのですが、アニメ化にはどの程度関わられているのでしょう?

濱坂真一郎(以下、濱坂)
キャラクター設定やティザービジュアルなどすべてのアートには目を通して、世界観に一致しているかを監修させてもらっています。
とはいえこれまで見させていただいたものは、『消滅都市』の世界観から大きく外れていることはなかったですね。

濱坂真一郎氏

――ビジュアル面からのアドバイスなどはされたのでしょうか?

濱坂
マッドハウスさんはアニメ制作のプロフェッショナルなので、我々が作っているモノがアニメで活きるかどうかを意識して監修しています。

下田
キャラクターデザインの方の手腕が絶妙で、上がってきたものを見るたびに「大事にしてくださってありがとうございます」という気持ちにさせられるんですよね。

濱坂
複数いるこちらのアートスタッフそれぞれの個性を、うまくまとめてくださっているんです。デザインが上がってくるたびに「こうきたか!」と唸らされることは多かったです。画力だけじゃなく、仕事に向き合う姿勢も含めて尊敬できるスタッフの方たちです。

■原作ゲームファンも初見のアニメファンもワクワクできる物語展開を
――原作ゲームのエピソードを描く際に、アニメで意識されていることは?

下田
原作のファンも、アニメから入る新規の方も楽しめるようにと意識しました。原作をなぞっただけだとゲームユーザーには展開が読めてしまうし、とはいえ原作を無視したストーリーも見たくないと思います。なので、原作ファンが見ても「次はどうなるんだろう?」と期待を持てるように心がけています。

大桑
原作を知っているが故に「おお、ついに来たか!」というシーンもあれば、知っているが故に裏切られる展開の両方が織り交ぜられています。

――骨太なストーリーですが、最終話までに物語の決着はつくのでしょうか?

下田
ドラマの決着はちゃんと付きます。でも、どういう展開なのかは、皆さんに想像してほしいです。僕らも「全12話でどこまでやる!?」という話し合いがすごく楽しかったので。
毎回敵が出てきて倒して「やったー!」みたいなお決まりの展開にはなっていません。人生に予測がつかないように、物語を見ながら予測のできない体験をしてほしい。そうして感情移入していくことで、主人公たちの生き方から、何か大切なものを受け取っていただけたらうれしいなと思います。

■ファンの期待感を裏切らない仕上がりになるはず!

――原作を知らないアニメファンに、どういった部分を楽しんでもらいたいですか?

濱坂
ゲームやマンガ、小説は読む人次第で時間をコントロールできるメディアですが、アニメは作り手の時間に身を委ねることになるので、すごく新鮮な『消滅都市』体験になるのではないかと思っています。
原作ファンの方も初めて見るアニメファンの方も感情移入できるドラマになっているので、そこを楽しみにしていだけるとありがたいです。

下田
もちろん、タマシイを使ったバトルなど、アクション面をとっかかりに見ていただいてもいいかと思います。

――ゲームとの連動はあるのでしょうか?

下田
具体的なことはまだ考えている最中ですが、アニメが展開するタイミングにあわせてワールドワイドへの展開も試していけたらという展望はあります。また、原作のアクションゲームより、ストーリーを体験しやすくした新作アプリを準備中なので、それでもっと多くのお客さんに『消滅都市』を知ってもらいたいですね。

――ところで、イベント内にてアニメ化が発表されたとき、ファンの反応はどうでしたか?

下田
(感慨深げに)ヤバかった……。

濱坂
ファンの方の期待感が半端なくて、プレッシャーに押しつぶされそうでした(笑)。

大桑
「やっと言えた」という開放感と、「これからだぞ」と襟を正すふたつの気持ちがありました。発表会後のホワイエで号泣しながら、アニメ化を喜んでくださるファンの方の姿を目の当たりにすると、下手なモノは作れないぞという覚悟がさらに強まりました。

下田
会場を埋め尽くしただけでなく、泣くまで感激してくださるファンの方の姿を見ちゃうと、やっぱりね。それだけ待ち望んでくださっていたわけで、ひと言では言えない感慨深さがあります。
ファンの皆さんだけじゃなく、今回のアニメスタッフの方々に出会えたことも奇跡だと思うし、ここまでこれて本当によかったです。時々、これは夢なんじゃないかと思うくらいです(笑)。

5月27日イベント出演時のお三方
――また、この記事と同時に新しいティザービジュアルが公開されました。アニメのタクヤが初公開ですね。


下田
はい。ティザーということでまだ全身絵での公開ではないですが、アニメという映像媒体で映える新しいタクヤの姿ということで、個人的にもかなり気に入っているキャラクターデザインです。
今後もティザービジュアルを順次公開していきたいと思っていますので、楽しみにしていてください。

――では最後に、『消滅都市』のアニメを楽しみにしている読者の方々へのメッセージをお願いします。

濱坂
原作を制作している僕自身も、出来上がった脚本や絵コンテを見るオドロキがあるんです。昔からの『消滅都市』ファンの方はきっと楽しめるものになると思います。
もちろん、原作を知らない方に対しても、見る人を突き放した作りでないので、プレーンな状態で楽しんでいただければと思います。

大桑
『消滅都市』の良さってドラマの体験なのですが、今回のアニメもそれがしっかりと形にできていると思います。今日お話した脚本、コンテの話もそうですし、これから行われる作画の部分とが合わさることで、いいドラマ体験ができると思うので、そこを楽しんでいただければと思います。

下田
今自分は、監督や脚本、制作プロデューサーさんをはじめとしたスタッフの方々をめちゃめちゃ信じていて、この人たちと一緒に仕事ができて本当によかったと思っています。この幸せな状況をきちんと活かせるよう、これからも気を抜かずに頑張っていきたいと思っています。