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BRADIO、藤井丈司と組んで再確認した“バンドの強み” 「武器はファルセットとグルーヴ」

2018年07月04日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 答えはもちろんYES。起きたことのすべてを肯定する、超ポジティブな攻撃姿勢が生んだメジャー1stアルバム『YES』は、BRADIOの新章開幕を高らかに告げる傑作になった。古き良きブラックミュージックへの尽きせぬ愛を現代的な音色で彩った、熱々のダンスチューンと、精密極まるお洒落なミドルチューンをたっぷりと詰め込んだ全12曲。日本のロック/ポップスシーンの生き証人であり、バンドのプロデューサーとして制作のすべてを知る男・藤井丈司を迎えたトークで、アルバムのすべてを語りつくそう。(宮本英夫)


■「やってることに全部理由がある」(藤井)


――今回はアルバムの話をたっぷりしつつ、藤井さんから見たBRADIOとはどんなバンドか? というお話もぜひ聞きたいなと。


藤井丈司(以下、藤井):言えないことばっかりですよ。


真行寺貴秋(以下、真行寺):うははは。


――あとで編集するので、何でも言っちゃってください(笑)。まず、出会いは、去年のメジャーデビュー曲「LA PA PARADISE」の時ですか。


藤井:5月か6月ぐらいに電話がかかってきて、こんなおじさんに何の用が? と思ったんだけど、とりあえず行って打ち合わせをしました。「どうして僕をプロデューサーに選んだんですか?」って聞いたんだけど、何も答えないんですよ。これはあんまりちゃんと詰めてないんだなと。


大山聡一(以下、大山):そんなことないですよ!


真行寺:でも、そう言われると確かに「絶対この人だ」という感じではなかった気もする。なぜかというと、自分たちがプロデュースしてもらったことがなかったから。


藤井:ああ、なるほどね。


真行寺:そもそもプロデューサーって何をする人なんだろう? ということが全然わかってなくて、一度扉を開いてみたい気持ちがあったのは覚えてます。とりあえず会って、話してみて決めたいという気持ちはあったかもしれない。


藤井:やってみて、何をする人だったんですか。


真行寺:俺の印象としては、通りすがりに飴を置いてく人みたいな感じ。


大山:ははは。


真行寺:紳士的なイメージですよ。俺が困ってる時に、何かいいものを置いてってくれる人。


藤井:じゃあいい印象なんだ。ただの通りすがりの人かと思った(笑)。


真行寺:そういうことじゃなくて(笑)。「この人困ってるな」ということに気づいて、何を欲しがってるのかもなんとなくわかってくれて、ヒントを落としてくれる人。答えを落としてくれるんじゃなくて、ちゃんと自分たちの中で消化する時間をくれるというイメージがあります。だから最初はふわっとした感じだったんですけど、決定打になったのは、「日本でこういうことをやってるバンドはいないから、BRADIOをこういうふうにしたい」というビジョンを話してくれた時に「この人は面白そうだな」と思ったから。


――おおっ。何を言ったんですか。


藤井:全然覚えてない(笑)。


真行寺:「日本にこういうバンドはいないから、もっとここを押していきなよ」って。具体的にはファルセットやグルーヴを押していこうっていうビジョンを話してくれて。


藤井:ああ、言った言った。思い出しました。最初にシングル用に3~4曲デモを聴かせてもらって、こんなふうにファルセットを歌える奴は、貴秋と、Suchmosのボーカルと、今はその二人ぐらいなんじゃないの? と思ったので。黒人音楽はファルセットが多いから、そこをもっと押したほうがいいよねという話と、こんなにちゃんとグルーヴを精密にできるバンドはなかなかいないということ。グルーヴが大事って言う人でも、日本語で言う“ノリ”でやっちゃってる人もいるんだけど、BRADIOは綿密に解析してやってるなと感じて、その二つが武器なんじゃないの? と言いましたね。


――なるほど。


藤井:リハーサルに入っても「こんなにきちんと演奏するんだ」と思ったし、歌い方にしても、歌詞にしても、どうしてここでこういう演奏をするのか? という、やってることに全部理由があるから。それはすごいなと思いましたね。


大山:ありがたいです。


――その時点で、藤井さんがアルバムまで一緒に作ることは決まってたんですか。


藤井:全然決まってない。1曲だけ全力投球して帰る、リリーフピッチャーみたいな気持ちだった(笑)。そしたら「次にこんなの出そうと思ってるんですけど」ってマネージャーに相談されて、それが「きらめきDancin’」でした。あの曲の原型を「LA PA PARADISE」を作ってる途中で聞いて、「次のシングルはこうしたい」「アルバムはこうしたい」っていう話になって、自分がやるとは思ってないから、客観的に「この曲がいいんじゃないの?」とか言ってたんだけど。いつのまにか「じゃあ次も藤井さんに」ということなって、「あ、俺がやるのか」と。


大山:なんか、嫌そうじゃないですか(笑)。


■「“今ならできるんじゃない?”というスイッチが入った」(大山)


――それから続けて、2ndシングル「きらめきDancin’」の制作に突入すると。


藤井:12月までどの曲を2ndシングルにするか悩んでて(編集部注:シングル『きらめきDancin’』は今年4月発売)、「きらめきDancin’」で行こうと決めて。でも、年が明けたらドラマーが脱退することになって、どうするの? という状況でした。スタジオミュージシャンでも呼ぼうかって言ったら、「やってみたい人がいるんです」って、メンバーが連れてきたのがヤスくん(現在のサポートドラマー)だった。こんなこと言ったら悪いけど、ダメで元々というか、まずメンバーがレコメンドする人とやってみて、ダメだったら違う人を呼ぼうと思ってたんですね。でもヤスくんと初めて会った瞬間、「よろしくお願いします」と言った時の目を見て、これはすげえなと思った。わかるじゃないですか、雰囲気で。これは叩けるなと思って、叩いたら本当にすごいし、よく聞いてみたらニューヨークで何年間か修業したとか、すごい奴が来たなと思った時に、神様はBRADIOを見捨ててないんだと思いましたね。


大山:レコーディングの直前に我々がバタついちゃったので、申し訳ないなと思っていた時に藤井さんが電話をくれたんですけど、すごい明るい声で「あー大丈夫、大船に乗ったつもりでスタジオに来いよ!」とか言って(笑)。大きい人だなと思いましたね。あれは本当にありがたかった。


――結果的に、そこでピンチがチャンスに一気に逆転する。


大山:年明けって、今年も新たな気持ちで頑張りましょうみたいな気持ちになるじゃないですか。そういう空気の中でみんな無理やり「よっしゃー! やってまえ!」みたいなレコーディングになったんですよ(笑)。パーカッションで来てくれた朝倉(真司)さんも面白い方で、場がすごく明るくて、今までにないほどポジティブな空気感がありました。


藤井:音が出た瞬間に「イケてる!」と思ったよね。


酒井亮輔(以下、酒井):すごかったですね。


大山:そこから一気にアルバムへシフトしていきました。


――その時点で、アルバムの曲は揃っていたんですか。


大山:ネタはいっぱいあって、「きらめきDancin’」を録ったあと、アルバムのレコーディングが始まるまでの2カ月の間に詰めていった感じです。構想はあったけど、まったく音になってなくて。それこそ「きらめきDancin’」のレコーディングをきっかけに「できるんじゃね?」みたいな空気になって、スタジオで考えていった感じですね。


藤井:突然良くなるんだよね。「Funky Kitchen」や「Feel All Right」みたいな、デモの段階ではゴリゴリのファンクな曲が、あれほど都会的な曲になるとは最初は想像できなかった。「Funky Kitchen」を作るのに3年かかったってあとから聞いたけど。


大山:3年間ずっとやってたわけじゃないですけどね。この手のことをやりたいと思ったのは3年前ぐらいで、その時はできなかったんですよ。だから今回のアルバムに入ってる曲は「今ならできるんじゃない?」というスイッチが入った曲ばかりというか。


藤井:できた時はびっくりした。普通のバンドにはできないですよ。ワンコードのファンクな曲をここまで仕上げるには、相当勉強しないとできないことだし、3年かかったと聞いて「なるほど」と納得しました。


――リード曲の「Boom!Boom! ヘブン」は新規で登場して、一気にリード曲に駆け上がったわけですか。


大山:アルバムのキャッチになるような曲を作ろうということで、追加で作っていった曲ですね。


――「Boom!Boom! ヘブン」は最高です。そこはかとない、リッキー・マーティン感がたまらない。


藤井:夏だ! ラテンだ! という感じ。


大山:ホットな曲になりましたね。


藤井:間奏、良かったよね。ミュージックビデオを見て初めて「ああ、こうなるんだ」と思った。


大山:そのタイミングですか(笑)。


――あの、いきなりテンポアップするところですか。


藤井:そう、「ここでジャケット着るんだ、なるほどね」って。僕は反対してたんですよ。ダンスミュージックで、途中でテンポ変えるのはありなのか? って文句を言ってたんだけど、ミュージックビデオを見てやっとわかった。先に言ってよ(笑)。


大山:(笑)。遊び心で構成を作っていくので、無責任なんですよね。駄目なら藤井さんが「これはない」と言ってくれるし、自由な発想でアイデアを出しただけです。


藤井:そんなこと言って、ものすごく計算してるんですよ。「ここでジャケットを着て踊りだすから、テンポを変えたんだ」っていうことがあとでわかる。


――「BRADIO、こういうのやるんだ」と思って個人的にうれしかったのは、「Sparkling Night」ですね。このジャジーな感じ、めちゃくちゃハマってる。


藤井:「Sparkling Night」は特にベースがいいよね。


――あれウッドベースですか。


酒井:エレキのフレットレスに、ピエゾ・ピックアップをつけてウッドっぽくしてます。この曲はドラムがジャズだったので、ベースもそれに寄せて、結果的に歌謡曲っぽくなれたというか。


藤井:そういう楽器へのこだわりはみんなすごくて、特にこの二人(大山&酒井)は、どのアンプとどの楽器でどうやって録るか本当によくわかってるから、録音トラックがとんでもない数になっちゃって。普通は60トラックぐらいなんだけど、BRADIOは200トラックあって、一個の楽器にかけるトラック数が全然違う。200トラックって、コーラスの多いR&Bとかでは行くこともあるんだけど、それと同じぐらいだから「多いよ!」って。


大山:エンジニアさんにいつも怒られてる(笑)。でも怒ってるんですけど、エンジニアさんが一番好きっていう。文句言いながら、すごい数のマイクを立ててくれる。


酒井:そうそう。進んでやってくれる(笑)。


――共犯者ですね(笑)。


藤井:でも本当に、プレイヤーとして、ボーカリストとして、BRADIOの力量はすごいと思う。それはちょっと、ほかのバンドにはないんじゃないかな。


■「目標としていたことは、一通り決まった」(真行寺)


――貴秋さん。今回のアルバムの、個人的な達成感についてはどうですか?


真行寺:今回目標としていたことは、一通り決まったなという感じはあります。スキャット、ドゥーワップ、ラップとか、やりたいなと思っていたことが形にできたなと。


――声のバリエーションはすごいです。コーラスの厚みもとんでもない。


藤井:あの作業、飽きるんだよね。


大山:藤井さん、途中でいなくなっちゃうんだもん(笑)。


藤井:だって、同じ声をずーっと重ねるんですよ。誰かほかの人に歌ってもらう? っていう案もあって、デモでやってもらったんだけど、やっぱり全然違う。はっきり言って良くないんですよ。BRADIOじゃなくなっちゃう。やっぱり貴秋が全部重ねたほうがいいんだと思いましたね。


真行寺:でも意外と、俺が全部歌ってるって気づかれてないんですよ。


――1曲目「Funky Kitchen」のイントロから、多重コーラスが炸裂してますからね。聴きどころです。


藤井:「Funky Kitchen」は本当に成功しましたね。大成功。貴秋は細かい歌い回しがうまいんですよ。それができるかどうかがすごい大事だって、僕は大瀧詠一さんに教わったんです。「声じゃないんだ、歌い方なんだ」って。歌い方がその人らしく細かいところまで決められているか。それが一番大事なところで、人に受け入れられるかどうかもそこで決まるんだって。大瀧さんが「ミスター・ムーンライト」と、エルヴィス・プレスリーの曲を目の前で歌ってくれたことがあって、本当にうまかった。それと同じように、細かいところまで貴秋はできてるなと思う。……こいつらの前でほめるの、恥ずかしいですね。


真行寺:うははははは。


藤井:まあ、けなすよりいいけどね。でも僕は本当にそう思ってます。


――今、大瀧詠一と真行寺貴秋が並びましたよ。


真行寺:並んでないですよ! すごすぎる方ですよ。


藤井:レコーディングする時に、細かい歌い方がちゃんとできてるから、何も言うことがない。


――亮輔さんは今作を作った手応えは?


酒井:シングルカットした曲以外は、全体的にニューヨーク・サウンドというか、都会的なイメージをすごく持ってたんですね。田舎者なんで、都会へのあこがれがあるのと、ドラムのヤスがニューヨークにいたことで、最先端のサウンドに影響を受けたこともあって。シングルになった「LA PA PARADISE」と「きらめきDancin’」は古い感じの音を持ってくるコンセプトがあって、それもすごく良かったんですけど、自分が一番やりたいことはアルバムの曲でうまく出せたと思います。結果、いなたすぎずにキラキラした方向に持って行けたので、ちょっと自信がつきました。


――ベース聴いてるだけで、ご飯おかわりできます。


酒井:今まではきれいに弾こうとしてたんですけど、今回は生のグルーヴを大事にしていて、合ってないところは合ってないし、そんなに丁寧ではないんですけど、雑さの中に良さがあるというところもパッケージできたかなと思います。


藤井:そういう意味ではメジャーデビューアルバムのタイミングで、偶然ではあるけど、ここで初めてBRADIOというバンドが出来上がったのかもね。レコーディングしててもすごく楽しそうだったし。


――肯定の要素しかないですね。まさに『YES』。


大山:アルバムタイトルはみんなで話し合って決めました。レコーディングの雰囲気もすごく良かったし、よっしゃ! という瞬間もいっぱいあったし、そのパワーをそのままパッケージしたタイトルにしたかったので。


藤井:「起きたことをすべて肯定したい」と言ってたよね。いいなあと思った。


――藤井さん、BRADIOはこれから、どんなバンドになっていくとうれしいですか。


藤井:これだけ黒人音楽にこだわるバンドって、なかなかいないと思うんですよ。今の世界のポップスって、黒人、白人、ヒスパニックとかの垣根がなくなってきて、どこの国も同じ音楽になってきてる。それはYouTubeやSpotifyの影響なんだろうけど、聴く人の国のエリアがなくなってきてると思っていて。僕はいつも世界のポップスを見ながら、日本のポップスをどうやって作ろうか? と思っていて、なるべくそれが重なることを考えて作ってるんですね。そういう意味で、BRADIOの音楽は80年代、90年代の黒人音楽がベースになっていて、それが明確に表現されている。だからこそそこに日本語の歌が重なって、みんなに届けられるポップスになってくれたらなと思ってます。それは絶対できると思ってます。激励の言葉でした。


大山:ありがとうございます。今はバンドとしてすごくいい感じで、意欲的なので、やれることをどんどんやっていきたいですね。いいアルバムができたし、ツアーもありますし、その先の新作の話も当然出てくると思いますし。12曲に収まりきらないアイデアもいっぱいあるので、いろいろ試したいなと思ってます。(取材・文=宮本英夫)