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お寺の境内から紫陽花を手折って持ち去り…「花泥棒は罪にならない」は間違い

2018年07月04日 10:52  弁護士ドットコム

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愛知県内のある寺院が6月16日、境内に咲く紫陽花を折って持ち帰る人の映像をTwitterやFacebookで公開しました。この寺院は、四季折々の花や紅葉が美しいことで知られ、大勢の観光客が訪れます。


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ところが、以前から境内で紫陽花やもみじの枝を折ったり、クマザサを鎌で切り取ったり、花の球根を掘り出して持ち去るなどの行為が止まなかったといいます。今年の紫陽花のシーズン中も、賽銭が盗まれる被害があったことから設置されたモニターに偶然、紫陽花が持ち去られる人の映像が記録されました。


「今後、こういうことは止めていただきたい」との思いから、寺院では個人が特定できないよう配慮した上で映像を公開したそうです。


狂言「花盗人」では桜を盗もうとした男が歌を詠んで許され、今も「花泥棒は罪にならない」とも言われていますが、実際には罪に問われる可能性があります。一体、どのような罪になるのでしょうか。僧侶でもある本間久雄弁護士に聞きました。


●「他人の所有地に生えている植物を他人の許可なく持ち去る行為は、窃盗罪」

寺院の境内から動植物を許可なく持ち去る行為はどのような罪に問われますか?


「他人の所有地に生えている植物を他人の許可なく持ち去る行為は、窃盗罪に問われることになります。最高裁昭和26年3月15日判決(刑集5巻4号512頁)は、夜間他人の畑に入り込んでジャガイモを盗んだという事案について窃盗罪が成立するとしています。


紫陽花やもみじの枝を折って持ち去るといったいわゆる花泥棒は、軽犯罪法成立(昭和23年)以前は、警察犯処罰令2条29号で処罰されていました(同令は、「他人ノ田野園囿ニ於テ菜果ヲ採摘シ、又ハ花卉ヲ採折シタル者」は「三十日未満ノ拘留又ハ二十円未満ノ科料ニ処ス」る旨を規定していました。)が、軽犯罪法成立に伴い警察犯処罰令が廃止され、軽犯罪法成立にはかかる規定が盛り込まれなかったため、現在では、いわゆる花泥棒も全て窃盗罪で処罰されることになります。


もっとも初犯であるとか、被害態様が比較的軽微などといった事情がある場合は、微罪処分(警察が、被疑者を検察に送致することなく、刑事手続を警察段階で終了させること)や起訴猶予処分(検察が被疑者を起訴しないこと)となるものと思われます」


この寺院では以前より、対応に苦慮しているようです。「花泥棒」に対して、僧侶という立場からどのように思われますか?


「仏教では、草木成仏を説いています。草木にも生命がありますので、草木を痛みつけるようなことはやめてほしいものです」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。近著に「寺院法務の実務と書式-基礎知識から運営・管理・税務まで-」(民事法研究会)がある。

事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/