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三代目 J Soul Brothers『FUTURE』、グローバルな音楽性が示すグループの美学

2018年07月04日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 ポップミュージックの面白さは「今という時代をどう捉え、表現するか」にある。


参考:三代目JSB、ソロ作が示す“未来” CRAZYBOY、RYUJI IMAICHI、HIROOMI TOSAKA、それぞれの音楽性


 アンダーグラウンドだから実験的で先鋭的、メインストリームだからわかりやすくて保守的というような、よくある二分法はそこでは通用しない。むしろヒットチャートの頂点にいるアーティストこそが最も革新的なことをやっていたりする。もしくは一見して懐かしいテイストであっても、ルーツや過去の文脈をきっちりと踏まえ、それをアップデートしようと試みていたりする。


 もちろん、すべてを難しく考える必要があるわけじゃない。音楽はエンタテインメントなので、リスナーが感じ取るのはパッと聴いた感触で「格好いい」とか「グッとくる」で充分だ。でも、その向こう側には作り手の時代解釈がある。メロディの譜割りや、アレンジや、ビートや、歌い方や、さまざまなディティールにそれが表れる。そういうものを読み解いていくのは、とても楽しい。


 そういう意味で、ここ最近、非常に刺激的な作品だったのが、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)が発表した約2年ぶりのオリジナルアルバム『FUTURE』だ。


 新作は、三代目JSBのオリジナルアルバム、登坂広臣のソロアルバム、今市隆二のソロアルバムの3つの作品を収録した3枚組の形でリリースされている。


 まず注目すべきはそれぞれ異なる音楽性を追求しているボーカリスト2人のソロ作だ。ざっくり言うと、今市隆二はR&B、登坂広臣はEDM。しかも、それぞれ海外の第一線のプロデューサーとがっつり組んで制作にあたっている。


 今市隆二のソロ作には全世界でセールス2500万枚を誇りプロデューサーとしてもアリシア・キーズなど数々のスターを手掛けてきた正統派R&Bのレジェンド、ブライアン・マックナイトが制作に参加。シングルとしてリリースされた「Thank you」は、今市自身がLAのブライアン・マックナイト宅に滞在し共作/共同プロデュースにあたった壮大なバラード曲だ。また「Alter Ego」は、The Weekndの数々の作品を手がけてきたイランジェロがプロデュースを手掛けた一曲。浮遊感と憂いを漂わせるオルタナティブR&Bのサウンドを展開している。さらに「SHINING」ではNe-Yoをフィーチャー。90年代、00年代、2010年代のR&Bのヒストリーと今を旅するような一作だ。


 一方、登坂広臣のソロ作はアムステルダムにてAFROJACKが全曲を共同プロデュース。シングルとして発表された「WASTED LOVE」やCRAZYBOYをフィーチャーした「LUXE」を筆頭に、トラップやベースミュージックに傾倒しているここ最近のAFROJACKの音楽性が垣間見える作風だ。狭義のEDM(いわゆるビッグルーム・ハウス)を離れ、トロピカルハウスやフューチャーベースなど数々のサブジャンルを生み多様化しつつ、チルとドープの2方向に進化している広義のEDM(いわゆるダンス・ミュージック全般)のトレンドを汲み取ったサウンドになっている。


 そして、とても興味深いのは、これはR&BとEDMという単なる音楽性の違いではなく、その背景に今市隆二と登坂広臣という2人のシンガーの音楽的なルーツや価値観、時代観があるということ。先日発売された『Rolling Stone Japan vol.03』の表紙巻頭に三代目JSBが登場しているのだが、そのインタビューで2人が語っていることがとても興味深い。以下引用。


「R&Bの根本的な部分は昔から変わっていなくて、人間が持つ本質的な感情を、リズムに乗せて歌い上げる音楽。それってすごく温もりのある表現で、だからこそ好きなのかもしれません」(今市隆二)


「僕が作っているのはトレンドの音なので、それを温存する気はないというか。機が熟して出すつもりはなくて、作った瞬間に出したいし聴いてもらいたいのが本音です」(登坂広臣)


 ここでの2人の発言がハッキリと示しているのは、今市隆二は「普遍性」を、登坂広臣は「旬」を追い求めているということだ。対照的だが、どちらもポップミュージックの重要な要素である。そして、こうしてボーカリストである2人の狙いや方向性の違いが明らかになったことで、当然、グループとしての表現にも奥行きが生まれる。それが三代目JSBのアルバムにも反映されている。


 タイトルトラック「FUTURE」は、ジャスティン・ビーバーやレディ・ガガとの共作でも知られるBloodPop®がプロデュース。歌詞は全て英語で、ボーカルドロップの手法を用いたダンス・チューンとなっている。また、リード曲「RAINBOW」はオランダの2人組Yellow Clawが楽曲提供し、登坂広臣とELLYが7人をテーマに共作詞を手掛けた一曲。一方で、「恋と愛」や「蛍」のようなバラード曲も収録。ヒップホップとR&Bとダンスミュージックのトレンドが渾然一体と混じり合うグローバルなポップミュージックの潮流を踏まえつつ、それをJ-POPとして昇華してきたグループの美学を示すものになっている。


 リーダー小林直己がリドリー・スコット製作総指揮のハリウッド映画『アースクエイク・バード』(公開時期未定)への出演が決まるなど、メンバーそれぞれの「個」の活躍のフィールドが広まりつつある三代目JSB。この先、グループは、それぞれの経験や実績を「持ち寄る場」としての意味合いがより強くなっていくはずだ。


 さらに、BTS(防弾少年団)が米ビルボードのアルバム・チャート1位を記録したことが象徴するように、2018年以降は音楽シーンの力学も一層変わっていくはずだ。アメリカを中心に北米と欧州のアーティストがトレンドを牽引する構図自体は揺るがないだろうが、これまで以上にアジアとアフリカはカルチャーの「辺境」や「周縁」ではなくなっていくはずだ。


 そういう時代環境に、三代目JSBは、LDHはどうアプローチするか。そういう意味を踏まえても、今作がグループにとっての一つのターニングポイントとなっているのは間違いない。先行きがとても興味深い。(柴 那典)