3連戦の2戦目となるF1第9戦オーストリアGPはマックス・フェルスタッペンが勝利。予選ポールポジションを獲得したメルセデスだが決勝では2台にまさかのトラブル発生。F1ジャーナリストの今宮純氏がオーストリアGPを振り返り、その深層に迫る──。
--------------------------------
F1オーストリアGP決勝で次々に消えたメルセデス――。バルテリ・ボッタスは14周、ルイス・ハミルトンは62周、メカニカルトラブルにより全滅。これは14年パワーユニット期となり88戦目に起きた初めての事態だ。というより10年新生メルセデス・チーム結成以降、見られなかった事態である。
現時点で原因はボッタス油圧低下、ハミルトン燃圧低下と発表されていて、アップデートされたパワーユニットや新エアロパッケージとの因果関係は無いと言う。3連戦の2戦目に照準を定め、「今季最も大きなアップグレード」を投入した王者、たしかに土曜までは盤石だった。
ハミルトンはフロントを軸に鋭いブレーキングからターンイン、“前”が安定しぐいぐい攻めた。ボッタスはやや違うスタイル、“後ろ”が安定するにつれて徐々に自分のリズムを整えていった。オーストリアが得意な彼は過去4年にリードラップ最多72周、ハミルトン25周を超えている。
予選にふたりは異なるセッティングで臨み、ボッタスがセクター1と3で最速タイム。全セクターをベストタイムでそろえたパーフェクトなPPアタックを決める。
とくに7コーナーの早いアクセルオン、9~10コーナーのスムーズなキャリー・スピードが見てとれた。どちらも皆が手を焼き、縁石アウト側まではらむのにボッタスはそこが巧かった。得意なレッドブル・リンク、攻略法の秘訣か……。
スパ・フランコルシャン同様にシュピールベルグも山中コースで、気象変動が大きい。16年決勝は気温15度/路面26度、17年は気温28度/路面48度、今年の金曜・土曜は低温コンディションだったが、日曜は17年なみの路面温度に急上昇(気温22度/路面48度)。
清々しい緑が映えるレッドブル・リンク、コース上には熱風が吹いていた。中東バーレーンGPより高温、今年最もホット・コンディションに。タイヤの変調ばかりか、すべてのシャシー・クーリングなど相当悩ましい変化だ……。
結果論ではなく個人的な見方として。ここに全く新しいサイドポッド(エントリー部分12CM後退)などを投入したメルセデスは、今季最高温度条件に対する“適正セットアップ”ができていたのだろうか。従来スペックならふんだんにデータはあっても、金・土曜の実走行だけでは少ない(はずである)。これが2台に起きたトラブルの“遠因?”とは言えないものの、やや気になったことの一つだ。
ポールポジションタイム62秒台寸前までいった超ショートラップ・コースだけに、レース展開で何か異変が起きた際の判断は、迅速に行わねばならない。14周目、ボッタスにトラブルが発生。メルセデス陣営は慌てた。原因究明を急ぐと同時に、VSC発令でピットストップ戦略の決断もしなければならない。
首位ハミルトンはステイアウト、上位メンバーは躊躇せずここでソフトに交換。残り56周をカバーできるはずだ(金曜データでは)。前に触れたようにハミルトンは前が安定すれば攻めのペースで行くタイプ。リヤタイヤのスライド・コントロールは絶妙でも高い路面温度なので滑る分、タイヤ内部の蓄熱状態が進む。やがてそれが表面の気泡化(ブリスター)に現れ、とくに左後輪センターが顕著に。こうなるとグリップは弱まり、さらに滑り量が増え、修正によって前輪も厳しくなる。
ハミルトンは25周目にソフト交換、さらに52周目にスーパーソフトにまた交換(27ラップしかもたなかった)。そして63周目にストップ、4位=12点を取りそこなった。
首位マックス・フェルスタッペン対キミ・ライコネン、今季初対決となった終盤は『タイヤ・マネージメント』攻防戦。明らかにライコネンよりもブリスター症状を抱えた彼は、左両輪に荷重ストレスがかかる9~10コーナーを慎重にいった。セクター3はセーブ走行、他のセクターでプッシュ走行、この切り替えが見事だ。
追うライコネンはラストスパート、65周目3.480秒、66周目2.821秒、67周目2.734秒、68周目2.551秒、69周目2.395秒、70周目2.170秒、71周目1.504秒……。今年初の最速ラップも及ばず、逃げ切られた。
――フェルスタッペンが2年前スペインGPで挙げた1勝目はメルセデス同士討ち、この日もメルセデスが消えて4勝目。ランキングでボッタスを抜きフェルスタッペンは5位へ、ベッテルはハミルトンを抜き返し1点リードの首位奪還。今月の4戦サマー・シリーズが、けたたましく始まった。