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K-POPグループの中国進出の歩みと今後 JYPからは“全員中国人”BOY STORY登場も

2018年07月02日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 JYPエンターテインメント初の中国人メンバーのみのボーイズグループ・BOY STORYが、2018年6月に4曲目のシングル曲「Handz Up」をリリースした。大手IT企業・テンセントとの合同企画で、9月に本格的なデビューが予定されている。


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 内需が小さいため常に外需を意識している韓国のエンターテインメント業界にとって、中国は日本と並ぶ魅力的なアジア市場であり、K-POPアイドルも過去に様々な方法で進出を試みてきている。


 中国でのライブやファンミーティング開催という活動の枠を超え、最初に中国進出を明確に打ち出したのがSMエンターテインメントのSUPER JUNIORだ。初期のメンバーには中国人であるハンギョンが所属。いわゆる“韓流”という言葉が根づく前の2008年から中国人メンバーのチョウミと香港&台湾系カナダ人のヘンリーを加えたSUPER JUNIOR-Mという、中国での活動をメインとしたサブグループを結成して活動している。また、EXOも元々は中国と韓国での活動を並行して行うことを目的としたKとMというユニット別メンバー構成だった。JYPでも中国支社を置き、WONDER GIRLSのヘリムやmissAの中国人メンバーだったジアとフェイ(この3人は元々中国内でSistersという5人組で活動していた)のように、JYPチャイナの練習生をデビューグループに組み込むようになった。


 このように、最初から中国での活動を見越し中国系メンバーを入れたグループをデビューさせるスタイルは今では珍しくなくなっている。当初は画期的であり、実際中国内で一定規模のファンドムを形成することができていたこのスタイルだが、やがていくつかの問題が出てくることになる。まずひとつは、韓国内での契約期間の長さや芸能活動に対する文化的価値観の相違など、様々な理由から脱退する中国人メンバーが続いたこと。特にEXOは中国で主に活動することを目的に作られたEXO-Mのメンバー6人のうち3人の中国人メンバーが訴訟からの脱退という結果になり、これによりデビュー当初の活動形態やコンセプトを途中で変更せざるを得なくなった。もう一つが中国と韓国の芸能システムの違いにより、メンバーの中国内でのソロ活動とグループ活動の並行が難しいという問題だ。韓国のアイドルグループ所属の中国人メンバーが中国で本格的に活動する際にはそれぞれが個人事務所を設立して活動するのが一般的であるが、これにより結果的に他国でのグループ活動のスケジュールよりも中国内での個人スケジュールが優先される傾向に。中国人メンバーだけが他国のスケジュールに参加できないケースが多くなる、という事態が常態化しつつある。f(x)の中国人メンバー・ビクトリアやEXOのレイ、SM以外ではJYPのGOT7所属の香港人メンバー・ジャクソンなどがこのパターンだ。


 こうした問題を解決させるため、次に試みられたのが中国の芸能事務所と韓国の芸能事務所が共同で双方の所属練習生をデビューさせるという方法である。特に『PRODUCE 101』シリーズにも多くの練習生を送っているYUEHUAエンターテインメントはこの手法に積極的で、過去に関わったグループとしてはNU’EST-M(SEVENTEENなどを手がけるPLEDISとの合同企画で、既存メンバーにYUEHUA所属アーティストのジェイソンが加わった中国活動限定ユニット)、UNIQ(一定期間トレーニングのみYGが担当し、元々YG練習生だった韓国人メンバーが含まれている)、宇宙少女(STARSHIPとの合同企画)などがある。


 また、元々中国内でBIGBANGの人気が高かったYGエンターテインメントは、グループメンバーに語学を習得させてそのまま日本と同じような中国活動をさせることを予定していたようだ。実際ヤン・ヒョンソク代表は当初、WINNERは日本と中国での活動を並行させ、iKONは韓国での活動を通じて基盤を整えた後に中国市場に進出させると言っており、2015年~2016年にかけては中国語が堪能なBIGBANGのスンリと共に、両グループとも中国でのライブやファンミーティング、バラエティ番組への出演を積極的に行なっていた。しかし、2016年に起こった韓国へのTHAADミサイル配備に不満を持った中国が、その後、韓国エンタメをわかりやすく市場から排除する、いわゆる「限韓令」を行うことになる。これにより撮影していた出演番組が放送中止になったり、予定されていた中国での公演が中止されたりという事態になった。ここに来て、韓国人アーティストが中国内で活動すること自体が難しくなるケースがあり得るという問題が出てきてしまったことも事実ではある。


 このようなK-POPアイドルの中国進出の歴史を顧みると、先述のBOY STORYは今までの進出方法とはまた違ったやり方だ。メンバーの選出はJYPの中華系メンバーであるジャクソンとフェイの2人が中国各地をスカウティングしてまわる番組『おかしなおじさんが来た』(百度贴吧)を通して行われた。メンバーは弘大でバスキングを行ったり、韓国の練習生とも交流がある。共同で事業を行なっているテンセントは中国トップ3の音楽配信サービス・Kugou Music、QQ Music、Kuwo Musicを全て所有しており、韓国のKakaoTalkやCJグループ傘下の大手ゲーム会社・ネットマーブルの大株主でもある。YUEHUAとは異なり芸能事務所ではないため、育成自体はほぼJYPが行ない、そのほかの広報はテンセントが担当するという役割分担ができているのではなかろうか。


 また、平均年齢13歳と韓国のアイドルに比べメンバーの年齢が非常に若いことも大きな特徴だ。他の中国の男子アイドルグループを見ても、現在トップ人気である2013年デビューのTF BOYSはデビュー時の平均年齢13.5才、昨年YUEHUAからデビューしたYH BOYSも平均12.5才、同じく昨年デビューした中国初の2.5次元アイドル(ウェブコミックとコラボ)易安音楽社もミドルティーンであり、10代前半のアイドルが一般的になっている。


 中国のアイドル市場はここ数年で急激に拡大しているが、そのきっかけのひとつがSNH48とされている。また、昨年放送された中国版『PRODUCE 101』と言われる男性アイドルサバイバル番組『偶像練習生』(愛奇藝)は中国内で高い人気を博した。以上の流れから今の中国では“成長を見守る系アイドル”が人気で、それが結果的にグループの低年齢化に繋がっているようだ。このように、今の中国アイドルが“育成スタイルは韓国のアイドルに近く、アイドルのスタンスは成長を見守る系の日本のアイドルに近い”と考えると、BOY STORYは中国特有のニーズに合わせて作られたグループであり、“韓国のアイドル事務所が全面的に育成する中国のアイドル”という新しいスタイルの海外進出方法と言えるかもしれない。


 他国への進出に比べて政治的問題などの難しさもある中国での芸能活動であるが、売上規模の大きさから見ると魅力的な市場であることは間違いなく、今後も韓国エンタメ業界が目指す場所になりそうだ。(DJ泡沫)