予選開始の約1時間前から雷鳴とともに降り始めたスコールが、スーパーGT第4戦タイで優勝候補に挙げられていたチーム、特にレクサス陣営の判断を迷わせ、まさかのQ1敗退という波乱を巻き起こすことになった。雨上がりで路面が乾きつつあるQ1で、各チーム/ドライバーはどのようにタイヤ選択を判断したのか。勝負の分かれ目となった予選Q1を各チームのコメントをもとに振り返る。
GT500は全車がウエットタイヤでQ1を走りはじめ、セッション中盤から路面が乾きはじめた。ここで、大きく3つの選択肢が出てきた。1:そのままウエットで走り続ける。2:新品のウエットタイヤに履き替える。3:ドライ/スリックタイヤに履き替える。
チームによって、判断するのはエンジニアや監督、そしてドライバーとさまざまだが、基本的には走行しているドライバーの判断を尊重する傾向がある。
今回のQ1ではほぼすべてのチームがピットインし、タイヤを履き替えた。その中でもドライタイヤに替えたのがもっとも早かったのがMOTUL AUTECH GT-Rだ。ステアリングを握っていた松田次生が振り返る。
「タイヤを替えたタイミングは良かった。僕たちが選んだドライタイヤは超ハードだったので、とにかくあのタイミングでピットに入らないとウォームアップが間に合わないので、賭けに出ました」(松田次生)
次生が話すように、路面の状況だけでなく、手持ちのスリックタイヤのウォームアップ性も考慮してウエットタイヤからの交換を考えなければならなかったのが、今回のQ1の難しさだった。それもそのはず、事前に予想された路面温度は50~60度だったが、実際の予選時の路面温度は35度。ほとんどのチームにとって、選んだドライタイヤの作動域にから大きく外れている路面コンディションだったのだ。
そして、MOTUL GT-Rの『超ハード』のスリックタイヤでの走行が、レクサス陣営のドライバーたちを惑わせた。
「自分の見た目と、スリックを履いたニスモを見て、それから1号車(KeePer TOM'S LC500)がスリックを履いたのを聞いて、スリックは無理そうだと総合的に判断しました」とau TOM’S LC500の中嶋一貴が話すように、『超ハード』スリックタイヤのMOTUL GT-Rの挙動を見てドライタイヤへの交換を辞めたチームが意外にも多かった。
また、去年の雨上がりの予選、そして決勝のイメージも、判断を迷わせたようだ。WAKO'S 4CR LC500の脇阪寿一監督が話す。
「去年のタイの雨上がりのスタートの、なかなか路面が乾かないイメージがあった。ただ、フェリックス(ローゼンクヴィスト)の『毎周2メートルずつドライのレコードラインが広がっている』という連絡は受けていたので、こちらの計算ミス。ドライのタイヤもハードだったのでウォームアップが心配だった。僕の判断ミスです。申し訳ない。フェリックスのベストタイムも23号車(MOTUL AUTECH GT-R)に引っかかってしまって、それもバッドラックだった」と寿一監督。
WAKO'S、そしてau TOM’S、ZENT CERUMO LC500はウエットタイヤから新品のウエットタイヤに交換したが、ドライタイヤ勢には叶わずQ1落ちしてしまった。
さらに、昨年このタイを制したKeePer TOM'S LC500においては一度ドライタイヤに替えながら、またウエットに戻すという形になってしまった。平川亮が予選を振り返る。
「僕らはドライタイヤで硬いのを選んでいて、全然、温まらなかった。見た目にもドライで行けるかなと思って、チームとしても早めに替えたいというのもあって替えましたが、思ったよりグリップしなくて、乾いていそうなところでも全然グリップがなかった」
「もう1周ウォームアップしても変わりそうな気配がなかったので、このままでは難しいと思ってウエットに戻しました。タラレバでも、ウチが選んでいたドライタイヤは温まったかどうか、もしかしたら最後は行けたかもしれないですけど、難しかったですね」と平川。
一方、レクサス陣営内でもドライタイヤに替えて、そのままQ1を突破したのがWedsSport ADVAN LC500とDENSO KOBELCO SARD LC500だ。DENSOの小林可夢偉が振り返る。
「周りがスリックに代えはじめていると聞いて、僕もスリックに懸けようかなと。最後は(中嶋)一貴に引っかかってコンマ3~4秒くらいロスしたけど、アタックはできました。この路面コンディションなので、クルマの調子も一概には言えないですけど、とりあえずフィーリングは悪くないと思います」と可夢偉。
また、NSX陣営はブリヂストン勢がすべてウエットからドライに替えて走行し、Q1を突破。ランキングトップで最重量64kgのウエイトハンデを積むRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴がQ1で4番手に入って周囲を驚かせた。
「Q1でウエットからドライに替えるタイミングは僕の方で決めました。23号車(MOTUL GT-R)が替えたという情報は聞いていましたし、その前から、ブレーキングゾーンで意外とラインが乾いていたので、ブレーキさえ踏めるようになれば最後はドライの方が速くなると思って、早めに替える決断をしましたが、チームもきっちり準備していてくれました」と山本。
「それでも、スリックでコースインしたときはちょっと早すぎたかなと思いましたが(苦笑)、結果的に路面がドライアップするのもすごく早かったですし、スリックタイヤへの熱入れも最初の2~3周は辛かったですが、その後はきちんとグリップしてくれた。いい判断ができて、きちんとQ2につなげることができたので、今日はいい仕事ができたと思っています」と、山本は満足そうに予選を振り返った。
今シーズンはホンダNSXが好調で、このタイでも結果的にMOTUL MUGEN NSX-GTが初ポールを獲得して2番手はKEIHIN NSX-GTとNSXがワンツーで最前列を独占した。だが、ホンダの佐伯昌浩プロジェクトリーダーは手放しに喜んでいるわけではない。
「たぶん、Q1で敗退したクルマはほとんどがウエットタイヤだと思いますので、ウチのスリックタイヤの選択が最後の最後にタイムアップにつながってQ2に残れたと思っています。Q1が順当にドライで行われていたら、このような結果にはならなかったと思います」と佐伯リーダー。
「なんとも言えない結果で、午前中の練習走行のタイムを見ている限りではNSX勢はキツイなと。100号車(RAYBRIG)は燃料調整が入ってデータを見てもストレートが遅いですし、厳しい戦いになるなと思っていたんですけど、まさか、レクサス勢のウエイトが軽いクルマたちがウエットタイヤを選択したのが、ウチにはいい方向に来ましたね」と冷静に予選を振り返った。
路面コンディションの変化と、タイヤ選択、ライバルの動向などなど、難しい判断と決断が詰まった予選Q1。ドライバーたちの思いも悲喜交々で、明日の決勝は果たしてどうなるのか。
「明日、走ってみてですね。タイのこのサーキットは初めてです。クセもそんなにないですし、決して難しいサーキットではないと思います。明日は3番目からのスタートは悪くないので、できるだけ上位でフィニッシュすることを目標に、明日のレースはどうなるかわからないので、最後までベストを尽くしたいと思います」(DENSO 小林可夢偉)
「ドライタイヤに代えて4~5周ウォームアップで走って、最後にグリップが来たのですが、セクター2からずっと38号車(ZENT CERUMO LC500)に引っかかってしまいました。レコードラインも1本で外すわけにもいかないので、今回はレクサス包囲網にやられてしまいました。タラレバですが、普通にアタックできていれば7~8番手のタイムでQ1は突破できていたので、悔しいです。クルマのフィーリングも悪くないですし、本当、こんなに悔しい思いをしたのは久々です」(MOTUL GT-R松田次生)
「タイヤを代えた時点ではまだウエットの感じだったんですけど、最後は思いのほか、路面が乾きましたね。僕らが選んでいたスリックが硬くて、もし替えていたら最後の1周は間に合ったかもしれないですけど、そういう考えには至らなかった。今回は雨でも晴れでも速い感触だったんですけど、唯一、ダメなところにハマりましたね。Q1も最後まで濡れていてみんながウエットタイヤを履く状況だったら問題はなかったと思います。まあ、しょうがないですね。決勝はクルマ自体のペースはいいと思うので、上がって行きたいです」(au TOM’S 中嶋一貴)
予選Q2に進出して上位グリッドを獲得したチームはもちろん、Q1落ちしたチームにもまだまだチャンスがありそうで、さらにはそして3列目までに3台ヨコハマタイヤ勢が入り、「決勝はヨコハマタイヤ勢で1-2-3を達成したい」と意気込むWedsSport坂東正敬監督をはじめ、まだまだどのチームにも勝利のチャンスがありそうなタイの決勝レース。
3日連続で夕方に降り注いでいるスコールが鍵を握るのかもしれないが、そのコンディションをどう読み、どのように対応するか。決勝レースは速さだけでなく、予選日と同じく判断力が今回のタイでは試される戦いになりそうだ。