リクルートキャリアが6月25日に発表した2019年卒の就職内定率は68.1%(6月1日時点での大学生)。多くの学生が内定をとる一方、思うようにいかず精神的に参ってしまう人もいるようだ。はてな匿名ダイアリーには6月下旬、病んだ様子で「就活つらい」と書き込んだ人がいる。
投稿者は相当疲れ切っており、明日締め切りのエントリーシートを書こうにも、何が正解かわからなくなり手が止まってしまったという。かなえたい夢があり頑張ってきたが、志望業界を次々と落ち、「夢のない友人が適当な企業にどんどん内定をもらう」ことに、苛立ちと焦りが募っている様子だ。(文:okei)
「合う合わないはどうでもいい。やりたいかどうか、なんじゃないの?」
接客業のバイトでコミュニケーションには自信があり、周囲にも「就活大丈夫そう」と言われてきた投稿者。自分でもプライドが高いことはわかっているが、どうすればいいかわからない。
ネットでよく見る「合う、合わないがあるから、落ちた企業は合わなかったんだよ」というアドバイスには敵意すら抱いているようで、
「合う合わないはどうでもいい。やりたい、やりたくない、なんじゃないの?合わなくても、やりたい仕事ならそんなの乗り越えられるんじゃないの?」
と心の叫びをぶつけている。起業や留学をする気はなく、「新卒の、正社員としての人生がほしい」と切実に訴えるのが痛々しい。
はてなブックマークの反応は、ほとんどが経験者の励ましやアドバイスで、「私もしんどかった」など、苦しくても過ぎてしまえば単なる通過点だったと振り返る人が多い。「新卒で就活に成功しなければ人生終わり」という思い込みはやめたほうがいいと諭す声も多数ある。
しかし、ものごとを客観視できるのは大抵終わってからで、渦中にあるときに言われてもなかなか受け入れられないかもしれない。
投稿者は、就活生の人間模様を描いた小説『何者』(朝井リョウ/新潮社)を引き合いに出し、いくつ受けても内定がでない主人公と自分を重ね、どんどん苦しくなっているようだった。
就職氷河期に「何者でもない」と突きつけられる苦しみ
『何者』は、2012年出版の直木賞受賞作で、2017年に映画化もされている。投稿者も2年前に読んで「怖くなった」と吐露していたように、就活生の苦しみがありありと分かるのがつらい(時代背景が、リーマンショック後の就職氷河期であるため殊更厳しい)。こんなセリフがある。
「就活の辛さはふたつあって、拒絶される経験を繰り返すことと、自分をたいしたもののように見せなくてはならないこと」
「内定って、その人がまるごと肯定されてるって感じ」
面接に落ち続けることを、社会に拒絶されていると感じる人もいるだろう。自分が個性的で有能な「何者かである」と思っていたのに、希望の業界にことごとく落ち続け、「何者でもない」自分を突きつけられている点で、投稿者は自分が主人公と同じ状況に置かれていると考えている。これは相当にしんどい。
小説はさらに、SNSで自分を何者かであるように演出したり、お互いをそれとなく監視し合う、いまどきのネットユーザーの明暗が生々しく描かれていた。ラストは就活生でなくとも胸が痛くなるような人間の弱点を暴く構成の妙があり、ホラーかと思うほど恐ろしい。
就職活動は人間相手で、「絶対の正解」というものは無く、根を詰めると精神的に参ってしまう。このエントリーが注目を集めたのも、そんな経験をした人が大勢いるからだろう。投稿者は、この本を今は怖くて読めないと語るが、今だからこそ、就活を客観視するために読み返してみてはどうだろうか。