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長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生の大人の色気が彩る 『空飛ぶタイヤ』三者三様の魅力

2018年06月30日 07:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 初登場から2週続けて興行ランキング2位と、好調な滑り出しとなった『空飛ぶタイヤ』。『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』(全てTBS系)、そして『民王』(テレビ朝日系)など、手がけた小説が次々と実写化され、ことごとく大ヒットを飛ばす池井戸潤による小説初の映画化作品であるが、主演の長瀬智也を筆頭に、ディーン・フジオカや高橋一生といった面々が、大人の色気で作品を彩っている。


【写真】『空飛ぶタイヤ』長瀬智也登場シーン


 長瀬が演じるのは、主人公の赤松徳郎。運送会社の社長である彼は、従業員が運転するトレーラーが脱輪事故を起こしたことから、一歩たりとも引けない戦いに足を踏み入れていくこととなる。長瀬が映画に出演するのは、ちょうど2年前に公開された『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016)以来。監督・脚本を務めた宮藤官九郎作品らしいアッパーなノリの作風に、地獄に存在するロックバンド・地獄図(ヘルズ)のリーダーの赤鬼という特異な設定ながら見事に溶け込んでいた。それまでにも『池袋ウエストゲートパーク』(2010・TBS系)をはじめとし、『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005)などで工藤とコラボを重ねてきたたことや、TV番組で見せるフランクなキャラクター像も相まって、どちらかと言えばコミカルな印象が強かった。だが昨年の夏季クールに放送された『ごめん、愛してる』(TBS系)では繊細さを垣間見せていたように、硬軟自在な俳優であるのは多くの方が知るところである。


 そんな彼が“硬質”な演技を高めたのが、今作『空飛ぶタイヤ』だ。つねに見せる渋い表情は、彼の置かれた状況の苛酷さをダイレクトに伝え、野太い声には、前に立つ者の覚悟を感じる。覚悟というのは、仲間と家族を守るための赤松のものであり、同時に主役を張った長瀬自身のもののようにも思えてくる。間もなく40代に突入する彼だが、今後も骨太作品で魅せてくれそうな、そんな展望を予感させる好演であった。


 ディーンが演じるのは、件のトレーラーを製造した大手自動車会社・ホープ自動車のカスタマー戦略課課長である沢田悠太。赤松の存在を疎ましく思いながらも、彼は彼で社内での調査を進め、大企業内に隠されていた真実に次第に気づいていく。


 ディーンと言えば、オールインドネシアロケを敢行した主演作『海を駆ける』も現在公開中で、“海から上がってきた日本人”という浮世離れした得体の知れない人物・ラウをミステリアスに演じている。彼の持つポーカーフェイスは、ラウの持つ得体の知れなさに見事にハマり、その表情からは感情を読みとることができず、恐ろしくもあるが、同時にどこか懐かしさも感じさせる。そんなディーン自身の佇まいが活かされたラウ役とは対照的に、本作の沢田は泥臭く奔走する。その声と表情に感じるクールさが片時もぶれないディーンだからこそ、演じる沢田が起こす必死な行動とのズレが、彼の内に秘めた情熱として眼に映り、見る者の胸を打つ。


 そして高橋が演じるのは、ホープ銀行の本店営業本部に務める井崎一亮という人物。週刊誌の記者・榎本優子(小池栄子)からの接触を受け、グループ会社であるホープ自動車に対して彼もまた疑問を抱く存在だ。


 今年の高橋は、参加した映画の公開がこれで4本目。とある過去を抱えた男を演じ、長澤まさみとともに極上のラブストーリーを作り上げた『嘘を愛する女』にはじまり、斎藤工の初長編監督作に主演した『blank13』、チェン・カイコーの絢爛豪華な世界に吹き替え声優として身を投じた『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』、そして本作と、なんともバラエティ豊かなラインナップである。今作での高橋が演じる井崎は、長瀬、ディーンと比べると出番が少ない。しかし詳述は控えたいところだが、彼もまた本作の“大逆転劇”のキーマンであり、穏やかな表情に穏やかな物言いで、赤松らの追い風ともなる銀行員を飄々と演じ上げている。出番の多少にかかわらず、ほかの2人に並ぶ存在感を示すのはさすがというところ。さらに、本作の重苦しいトーンに、彼の飄々とした態度はある種の“軽さ”を与えている印象だ。


 期待の若手から大ベテランまでが名を連ねる本作で、その年齢、キャリアからして、彼ら3人はちょうど中堅どころといったところだろうか。同世代の3人である彼らだが、演じる役どころも違えば、その顔立ち、その声のタイプも違う。本作では三者三様の魅力を活かし、重厚感漂う演技を披露した。上映時間の120分間、一度も弛むことのない緊張の糸を張り、注目度の高い池井戸作品の初の映画化を成功に結びつけたのは、彼ら3人があってこそのものだろう。


(折田侑駿)