前戦の第3戦鈴鹿から約1カ月、車両の船便による輸送を終え、ひさびさのスーパーGTがタイのブリラムにあるチャン・インターナショナル・サーキットで開催される。今季のGT500はホンダNSXが好調で大型新人ジェンソン・バトン擁するRAYBRIG NSX-GTがランキングトップ、そしてレースでの強さを活かしたMOTUL AUTECH GT-Rがランキング2位と、この2台が抜けている状況だが、このタイ戦のGT500はどのような展開になりそうか。
まず見逃すことができないのが、今回のタイ戦は昨年の11月に行われた第7戦から、今年は6月開催の第4戦として行われることになったことだ。
昨年のタイ戦は予選、決勝ともに雨上がりのコンディションで気温28度と、タイにしては低気温と言える天候だったが、6月のタイは11月より暑くなることが確実。金曜搬入時の本日も、太陽が出ているときの日差しは目映く、「この状態なら路面温度のピークは50度を超えて60度近くになるだろう」とチームのエンジニアはつぶやくほど、これまで例のない暑さとなった。
11月から6月への変更は、気温の変化だけでなくレース内容にも大きな影響を及ぼす。昨年の第7戦はシーズン終盤戦でウエイトハンデがポイント×1kgで、通常の×2kgから半分のいわゆるハーフポイントで開催。そのため、レース展開はシーズンを通して好調なチームが上位を占め、チャンピオンを争う上位陣による戦いとなった。
実際、GT500クラスはKeePer TOM'S LC500がポール・トゥ・ウイン。最終戦の第8戦もてぎを優位に迎え、見事シリーズチャンピオンを獲得する流れを、このタイ戦から作った。
その点、今回の第4戦目での開催はランキング上位はウエイトハンデが重いため優勝争いは厳しくなりそうな気配だが、その一方、ランキング中位以下のチーム、ドライバーにとってはどのマシンにもチャンスがあり、優勝候補を絞るのが難しい状況だ。
これまでの行われたタイ戦の実績を考えると、レクサスが4戦中3勝を挙げており、レクサスとサーキットの相性が良さそうだ。タイヤメーカーではブリヂストン2勝、ミシュラン1勝、ヨコハマ1勝と分かれているが、2位以下の順位などを考慮するとヨコハマタイヤとの相性が良いことが挙げられる。
以上の流れからも、今回はウエイトハンデ4kgと軽く、しかもヨコハマタイヤを装着するWedsSport ADVAN LC500が優勝候補の一角であることは間違いないだろう。WedsSportの国本雄資も、優勝の可能性を自覚している。
「タイは毎年、成績が良いサーキットでヨコハマタイヤもチームも強さを見せられているので、今年もしっかりと自分たちの力を発揮できればと思っています。僕自身も、チームルマン時代に表彰台に上がって、そして一昨年WedsSportで勝っているので好きなサーキットのひとつ」
「ただ、急に雨が降ったり、トラフィックの処理が難しいコースで、GT300からはミラーで見にくいコーナーがあったり、レースでは結構、接触も多いので巻き込まれないようにしつつ、しっかり走りたいと思います」と国本。取材直後には炎天下の中、コースをランニングしに行く元気の良さを見せた。
チームメイトのGT500ルーキー、山下健太もこのタイへの期待は高い。「チームが得意としているサーキットなので、やっぱり今週末の目標は優勝です。僕自身、GT300時代はこのタイのコースにまったくいい印象がないのですが(苦笑)、そんなことも言っていられないので、頑張りたいです」と山下。ランニングする国本に続くように、自転車でコースウォークに向かった。
そのWedsSportと同じく優勝候補の本命と言えるのが、ウエイトハンデ28kgで並ぶWAKO'S 4CR LC500とau TOM’S LC500のレクサス2台だ。au TOM’Sの東條力エンジニアが話す。
「今回は優勝しないとマズイですね。このタイ、そして次の富士で勝たないとチャンピオンの可能性はないと思っています」と背水の陣で臨む東條エンジニアとau TOM’S。
「テストができないコースだけど、走行時間は充分にあるのでタイヤの見極めをしっかりとして、どこまで持つ、持たないの判断をしたいと思います。タイヤ無交換をするクルマもあると思いますが、その可能性を含めて考えたいと思います」と、東條エンジニアは今週末のポイントを続ける。
また、WAKO'Sのチームルマンもタイとの相性はすこぶる良い。これまで4回行われたタイ戦で2位2回、3位1回の3度表彰台を獲得。今年は4年連続表彰台の連続記録が懸かっているが、もちろんチームとしては初の表彰台の最上位を狙う。WAKO'Sも優勝候補の一角であることは間違いなく、2戦目となる田中耕太郎エンジニアとスタッフの関係も深まってきており、チームの雰囲気は良いようだ。
このタイのチャン・インターナショナル・サーキットは路面のミュー(摩擦係数)が低く、気温が高い割にタイヤの摩耗は低く、タイヤ無交換作戦を選びやすいコースでもある。事前のテストができないサーキットだけに、練習走行でのタイヤの見極め、エンジニアの判断がいつも以上にレースの結果に影響を及ぼすことになる。
また、このタイのサーキットと相性の良いヨコハマ勢としては、前述のWedsSportを含めて3台ともウエイトハンデが軽いだけにフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R、MOTUL MUGEN NSX-GTの2台も上位進出の可能性も高い。
「相性的にはいい方だと思うので、今回こそはいい結果を残したいですね。自力で表彰台以上の成績を獲りたいですね」と話すのはフォーラムエンジニアリングの高星明誠。MOTUL MUGENの手塚長孝監督も「今週はウチも重量が軽いですし、ヨコハマタイヤにとってもチャンスですので、なんとか表彰台を目指して頑張りたいです」と、期待を語る。
現地のサーキットでは木曜、金曜と両日、夕方に文字どおりバケツをひっくり返したようなスコールとなり、雷鳴が轟いた。事前の予想ではレクサス陣営、そしてヨコハマ勢が優勢な流れだが、海外戦はこれまで大番狂わせが多いのも事実。接触やクラッシュ、スコールに雷鳴などなど、不確定要素は少なくない。