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英ハイドパークに出現した巨大な「墳墓」 クリストの新作パブリックアート

2018年06月29日 21:11  CINRA.NET

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Christo and Jeanne-Claude, The London Mastaba, Serpentine Lake, Hyde Park, 2016-18 Photo: Wolfgang Volz ©2018 Christo
■7506個のドラム缶でできたパブリックアート

イギリス・ロンドンの公園・ハイドパークに、巨大な構造物が出現した。

クリストの新作パブリックアート『The London Mastaba』。公園内の池サーペンタイン・レイクに浮かぶ巨大な台形の立体作品だ。

この台形は水平に積み上げられた7506個のドラム缶で構成されている。大きさは高さ20メートル、幅30メートル、奥行き40メートル。使われているのは、1つ55ガロンの一般的なサイズのドラム缶で、赤や青のペイントが施されている。建設は今年4月から行なわれており、6月18日にお披露目。9月23日まで約3か月にわたってハイドパークの池の水面に鎮座する。

■ハイドパークの池に浮かぶ巨大な「墳墓」

タイトルに冠された「Mastaba(マスタバ)」は古代エジプトで作られた巨大な墳墓の一種を指す言葉だ。その建築様式は後のピラミッドの建設にも影響を与えたとされているが、確かに都市の自然の中に佇むシンプルな塊は、砂漠にそびえるピラミッドのような荘厳な存在感を湛えており、どこか宗教的なシンボルのようでもある。20メートルの高さはギザのスフィンクスと同じ大きさとなる。

一方で水鳥が泳ぎ、公園を訪れた人々のボートが行き交う水の上に浮かぶカラフルな立体からは、古代エジプトの墳墓よりも明るく、軽い印象を受ける。また太陽の光や水の反射など環境に拠る表情の変化も楽しむことができる。

「この3か月、『The London Mastaba』はロンドンの中心にあるハイドパークの環境の一部になる」と話すクリスト。本作の公開にあわせて、サーペンタイン・ギャラリーではクリストと2009年に亡くなった妻ジャンヌ=クロードの創作の軌跡を建築やドローイング、写真、コラージュなどでたどる展覧会が同時開催されている。

クリストは今回の展示について「日の光の変化によって作品の色はうつり変わり、サーペンタイン・レイクの水面の反射は抽象絵画のような姿を見せるだろう。王立公園と共に『The London Mastaba』を実現させ、サーペンタイン・ギャラリーの友人たちと共に、私とジャンヌ=クロードが作品にドラム缶を使用してきた60年間の歴史を紹介する展覧会を作ることができてとても光栄だ」と語る。

■公的資金やスポンサーの援助は受けない

これまでも世界各地で恒久的に存在しない「一時的」なプロジェクトを行なってきたクリストとジャンヌ=クロード。

セーヌ川にかかるパリ最古の橋ポン・ヌフや、ベルリンの旧ドイツ帝国議会議事堂を「梱包」するプロジェクト、アメリカ・カリフォルニアと日本の茨城に千本を超える傘を設置した『アンブレラ・プロジェクト』をはじめ、2005年にはニューヨークのセントラルパークに7千本もの布の門を立てた『ザ・ゲーツ』を実現させた。

これまでクリストとジャンヌ=クロードが自ら公的機関などと交渉を重ね、資材や資金の準備を行ない、長年の月日をかけて計画を現実のものにしてきた。『The London Mastaba』の制作は2年間という彼らの仕事にしては短い期間で実現したそうだが、本作の制作にあたってもスポンサーや公的資金からの援助は受けておらず、クリストが自身の作品を売った資金で制作費をまかなっているという。

■アブダビに41万個のドラム缶使った世界最大の彫刻『The Mastaba』を計画中

『The London Mastaba』はクリストとジャンヌ=クロードが1970年代後半から計画している、アラブ首長国連邦の首都アブダビに建設予定の進行中のプロジェクト『The Mastaba』の縮小バージョンだ。

『The Mastaba』でも『The London Mastaba』と同じく55ガロンのドラム缶を積み上げた台形の構造物を作る計画だが、使用するドラム缶の数は41万個。高さ150メートル、幅300メートル、奥行き225メートルの作品となり、実現すれば世界最大の彫刻であり、クリストとジャンヌ=クロードにとって唯一となる恒久の大型作品になる。

クリストは本作の発表に際して行なわれた「Dezeen」のインタビューで、その規模や制作にかかる時間、公共空間での許可取りといったプロセスから、自身の作品と高層ビルや橋、高速道路の建築の類似点を認めつつも、「自分たちの作品は建築ではない」と言明。

「多くの人が私たちの作品を読み解くのに苦労しているようだ。一般的な彫刻ではないし、ペインティングでもない。私たちの作品はただ見たとおり。完全にアート作品である。私たちの作品は、私とジャンヌ=クロードがその作品が存在することを望んだから存在している」と語っている。

クリストによる新作パブリックアート『The London Mastaba』は、9月23日までロンドン・ハイドパークのサーペンタイン・レイクで公開中。クリストとジャンヌ=クロードの展覧会『Christo and Jeanne-Claude: Barrels and The Mastaba 1958-2018』は、サーペンタイン・ギャラリーで9月9日まで開催されている。