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「最初は断るつもりだった」神風動画の初となる長編映画「ニンジャバットマン」での挑戦とは…水崎監督インタビュー

2018年06月29日 20:23  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

水崎淳平氏
バットマンといえば1939年にアメリカンコミックヒーローとして誕生して以来、今なお世界中で愛されている超有名ヒーローだ。TVドラマやアニメ等様々なメディアに展開してきたが、特に映画では『バットマン』『ダークナイト』『ジャスティス・リーグ』など、時代ごとの洋画の世界を彩ってきた。
そのバットマンシリーズの映画最新作が”戦国タイムスリップ・アクション・エンターテイメント”のアニメ映画『ニンジャバットマン』という驚愕のスタイルで誕生した。海外では既に数々の国で上映されいずれの国でも高い評価を受け、日本でもついに6月15日(金)より公開となった。

『ニンジャバットマン』
2018年6月15日(金) 劇場公開

この全く新しいバットマンを手掛けたのは、TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのオープニング映像や『ポプテピピック』などの作品で都度話題をさらってきた鬼才ディレクター集団・神風動画とその代表である水崎淳平氏だ。加えて脚本に『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の中島かずき、キャラクターデザインは『アフロサムライ』の岡崎能士という強力な布陣となっている。

今回、アニメ!アニメ!では『ニンジャバットマン』で監督を務めた水崎氏に直撃し、本作の見どころとなる豪華クリエイター陣についてはもちろん、日本のアニメ業界で本作を作った意義やアニメーターの労働環境問題など、神風動画が目指すものについて広く深くお話を伺った。
[取材・構成=いしじまえいわ]

※インタビュー内にて、『ニンジャバットマン』の重要な部分に触れています。予めご了承下さい。

――まず、どういった経緯で本作の制作を受けることになったのですか?

水崎淳平監督(以下、水崎)
バーナムスタジオの里見哲朗プロデューサーに、ワーナー・ブラザースさんから「日本を舞台にしたバットマンを作りたい」という相談があったそうで、そこからオファーをいただきました。里見さんの中では最初から映像は神風動画、脚本は中島かずきさん、キャラクターデザインは岡崎能士さんというメインスタッフ構成はイメージしていたそうで、その中から最初に神風動画にお話をしてくれました。
また自社が手がけた『ジョジョの奇妙な冒険』のオープニング映像が、そのパッケージを担当していたワーナーさんから好評だったようで、それも後押ししたのかもしれません。

――里見プロデューサーから直接ご指名を受け、それを快諾したのですね。

水崎
いいえ、最初は快諾とはならず、珍しく慎重に検討しました。

――え、何故ですか?

水崎
神風動画はオープニング映像やPVなどの短編映像でこそ実力を発揮するスタジオだと思っていましたし、その分野で高いクオリティを出すことが業界内で神風動画が果たすべき役割だと考えていたからです。
それに長編作品はほぼ未経験でしたので「長編ならもっといいスタジオありますよ」などと言って断ったのですが、里見さんは神風動画に長編を作らせようと決めていたようで、かなり根気強く何度もオファーを受けました。
普通、断られたら他を当たりますよね? でも里見さんは「ほら、中島さんが脚本やるって言ってるよ?」「まずは5分のパイロットフィルムでいいから作ってみない?」といった感じであの手この手で何度もオファーをしてくださり、根負けして本作に取り掛かる決心をしました。

――プロデューサーの熱意あってのスタッフィングだったんですね。一方、バットマンという歴史ある作品を手掛けるということについては、どう思われました?

水崎
ティム・バートン版の映画『バットマン』は好きでしたし、何よりバットモービルが好きでしたので、そこは抵抗なかったです。バットモービルにフォルムがちょっと似ているという理由でRX-7に乗っていたくらいですし、近所のアメリカントイ屋さんに参考展示されていた1/6スケールのティム・バートン版バットモービルをいつも欲しいなあと指をくわえて見ていましたからね。決まった時は「これであのバットモービルが堂々と買える!」と思いました(笑)。

水崎氏が憧れていた1/6バットモービル。現在神風動画本社のエントランスに展示されている。
――メカがお好きなんですね。

水崎
バットマンに限らず、ガンダムシリーズではモビルスーツ、『戦闘メカザブングル』ならウォーカーマシン、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ならデロリアンといった感じで、メカやガジェットが好きなんです。
メカデザインやフィギュアなどの立体物が好きだからそれが登場する作品を見るということもよくあります。最近はフィギュアの出来がものすごくよかったので『テクノポリス21C』(82年公開のアニメ映画)を見ました。

■ひとりひとりが監督級! 超豪華スタッフ陣で世界に示す日本のアニメのスゴさ
――メカがお好きということですが、今回は戦国時代が舞台ということで一見メカ的な見どころは少なさそうな印象を受けますが、そこはどうでしょう?

水崎
現代装備のガジェットごとタイムスリップするという展開を中島さんが提示してくださったおかげで、バットモービルもちゃんと登場しますよ。その他のメカデザインもこだわっていて、たとえばバイクが変形してアーマーとして着込むパワードバットマンのメカデザインは荒牧さんにお願いしました。

――荒牧さんとは、映画『APPLESEED』等で有名な、あの荒牧伸志監督のことですか?

水崎
その荒牧さんです。「バイクを着込んでアーマーにする」といったら『機甲創世記モスピーダ』のライドアーマーや『メガゾーン23』のガーランドをデザインされた荒牧さんしか考えられない! と思って直接お願いしに行き、お忙しい中デザインしていただきました。


荒牧伸志氏によるモトバット・パワードバットマン
――無茶苦茶豪華ですね!

水崎
荒牧さんだけでなく、スタッフは僕のお願いできる限りの方々にお願いしました。
少し話は変わりますが、荒牧さんは映画制作においていきなり1000カットにも及ぶコンテを切る前に、100枚のストーリーボードを描いて映画の構成の骨子を作ると伺いました。
監督自身が10カット分の情報を入れ込んだボードを100枚描いて全体を見通すことで、作品全体を監督の意図や演出で統一できるんですね。今回『ニンジャバットマン』では荒牧さんリスペクトでその手法を取り入れさせていただきました。

――100枚のイメージボードを全てご自身で描かれたんですか?

水崎
いいえ、ひとりでは大変ですので、岡崎さんに『アフロサムライ』の木崎文智監督をご紹介いただき、ご協力いただきました。それと、後半の展開のボードは、社内のバットマン好きスタッフも参加しています。

――バイクデザインに続いてここでも監督級の方が協力されているんですね。ボードの作業はどういった手順で行われたんですか?

水崎
イメージを一緒に練り上げて共有することが必要なので、木崎さんとふたりでフィギュアを机の上に配してキャラクターの位置関係やカメラアングルを作り、そこから具体的な演出やアイデアを練り上げてストーリーボードとして描くという手法をとりました。
またメカの話になりますが、五城合体のシーンや巨大バットマンとの格闘シーンでは、トランスフォーマーのデバスター(全高45センチの合体ロボット玩具)という大きなロボットのフィギュアを使いました。
合体システムも、戦国時代の城が空を飛ぶはずがないので各城が浮かずに合体できる仕組みにするなど、細かいところですがこだわって設計しました。

デバスター。伝統的な合体ロボットの遺伝子が『ニンジャバットマン』にも受け継がれている


水崎氏と木崎氏によるイメージボード

――城の合体から後は畳みかけるような怒涛の展開でしたね。誰のアイデアでああいう形になったのですか?

水崎
まずプロデューサーの里見さんに「城がロボットになったらどうか」というアイデアがあったのですが、アメコミに巨大ロボットが出てくるのは東映版『スパイダーマン』のレオパルドンという前例があるので、折角だからヴィランたちの城と五城合体させよう、と言ったのは僕です。
そこに「対抗する相手がいるよね、猿の方も合体させよう」と言ったのは脚本の中島さん。さらに「コウモリも合体してボブ・ケイン版の巨大バットマンにしよう」と言ったのはキャラクターデザインの岡崎さん。
ボブ・ケイン版のバットマン出されちゃ負けだわ、岡崎さんの勝ち! ということでこの流れになりました。

――見ていて「面白いことやったもん勝ち」という印象を受けたのですが、本当にそうやって作られていたんですね。

ボブ・ケインスタイルのオリジナルバットマン
水崎
ああいう一種過剰な展開が生まれたのも、人の意見を否定するのではなく上に乗せることでさらに面白くしよう、というムードがあったからで、そのスタイルでやれたのはよかったです。
そういった形でアイデアを出して描いたストーリーボードを元に、Aパートをアニメーション作家のロマのフ比嘉さん、Bパートを『ポプテピピック』で『星色ガールドロップ』パートを担当してくれた山GEんさん(山元隼一監督)、Cパートを『FREEDOM』『九十九』監督の森田修平さんとそれぞれ3人の方に絵コンテを切ってもらいました。
そこからパート監督として、Aパートを『スチームボーイ』で演出を担当された超ベテランの高木真司さん、B・Cパートはコンテを切った山GEんさん、森田さんにしっかりと演出してもらいました。

――ひとりひとりが監督クラスのスタッフですね。

水崎
他にも『かぐや姫の物語』にも参加した斉藤拓也さん、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の2部以降のOPディレクターを務めてくれた吉邉尚希さん、松井佑亮さんをはじめとしたスタジオカラーのCGチームにもそれぞれシーンを担当してもらいました。
『AKIRA』で原画を務めたうつのみや理さんにも中盤のノスタルジックなシーン、と言えば映画をご覧になった方には分かると思いますが、あのシーンの作画をご担当いただきました。あれはアニメ業界の宝物だと言っていいと思います。そのベテラン勢のカットを作画監督としてまとめていたのは宮本託自さんです。

――あのシーンは3DCGではなくフル作画ですか?

水崎
はい。あの一連のシーンと相撲ベイン対パワードバットマンの戦闘シーンは作画です。その他のシーンは一部を除いてLightwave 3Dで制作した3DCGです。パワードバットマンも3DCGで作っていればフィギュアが出しやすかったんですけどね……。

――荒牧さんデザイン特有の、分離一切なしで完全変形するパワードバットマンの玩具、欲しいですね。それにしても、まさにドリームチームといったスタッフ陣ですが、キャストも非常に豪華ですよね。

水崎
キャスティングは私はノータッチで、全体プロデューサーの里見さんと岩浪美和音響監督が決められました。
バットマンは山寺さん、ジョーカーは高木さん、といった感じで、オーディションなしで全て指名だったそうです。こちらも思いつく限りの人を集めた、いわば声優版ジャスティス・リーグですよね。

――スタッフもキャストも「もし俺がアニメを作るんだったらこんなメンバーで作るんだ」というファンの妄想のようなメンバーです。

水崎
それに近いですね。『ニンジャバットマン』は世界中で見られることになる作品ですから、僕がすごいと思うクリエイターみんなに参加してもらって世界に向けてアピールできたのは、アニメ業界全体にとって有益だったと思います。
作品を監督や自社だけのものにせずオールスターで作るこのやり方は、そういう意味で理想的でした。

■神風動画が実現する「アニメ業界とクリエイター個人への貢献」とは?

――話の視点が少し変わるのですが、神風動画さんに聞いてみたい質問がありました。神風動画さんの作品を見返してみると、尖った作風でありながらいわゆるエログロ表現がほとんど見られないことに気が付きました。これは意図してのことなのでしょうか?

水崎
はい、それは意図しています。要は作品を手掛けたスタッフが、奥さんや子供や親に「最近これ作ったんだ」と胸を張って見せられるか? 自分から「見てほしい」と思えるか? ということです。
それを考えた時、過激な表現や過度に残酷な描写は僕にとっては不要なんです。
特にアニメ業界は今、労働環境などの面で問題視されることが多いですから、スタッフひとりひとりのことを考えた時に、彼らが家族や友達に後押しされ応援されてアニメを作っているという環境を作ることが非常に大事だと思うんです。

――神風動画さんは設立から15年が経過していますが、その姿勢と作風は創業時から変わっていないですね。

水崎
変わってませんね。この仕事をやることで親孝行、家族孝行できるか? ということです。

――アニメーターの労働環境といえば、神風動画さんは『ジョジョの奇妙な冒険』のオープニングの頃辺りまでは、10時出社19時退社、定時には「蛍の光」が流れ、徹夜厳禁で毎日必ず戸締りをして帰るという業界きってのホワイトスタイルでしたが、それは今も変わらずでしょうか?

水崎
『ニンジャバットマン』は初の長編映画でしたし、正直なところこの時期だけは諦めかかっていました。
制作が終わった今はその分のホワイトさを取り戻すため定時出社退社に戻しましたし、給料と採用時の初任給は『ニンジャバットマン』制作開始前よりも上げ、むしろ制作に入る前よりホワイトにしました。今は前以上に誇れる状態になったと思います。
あと『ニンジャバットマン』の制作に入る前に、制作期間の2年くらいは厳しい体制になる旨は全スタッフに説明し、それでもいいというスタッフにだけ参加してもらいました。

――社内で厳しい仕事になるであろう『ニンジャバットマン』チームとその他のチームを分けたんですね。

水崎
当然、定時に帰ってプライベートを大事にできるから神風動画がいい、というスタッフもいますからね。

――アニメ業界の改善について考えるとき、まずはスタッフひとりひとりにとってどうか? という視点から入られるんですね。そこが非常に印象的です。


■『ニンジャバットマン』は後世に残す石造りの金字塔(ピラミッド)

水崎
『ニンジャバットマン』の制作に入る時、スタッフにこんな話をしました。
クフ王のピラミッドは作られてから5000年近く経過した今も綺麗に残っていますが、諸説ありますが、石を切り出して運んであの規模のものを作るのは相当大変だったようで、人的な犠牲もかなり出たそうなんです。
でも苦労して後世に残るものを作ったおかげでピラミッドもクフ王という名前も今に残っています。

一方、後年作られたピラミッドは石ではなくレンガで作るようになり、その分制作は楽になったのですが、風化しやすく今はもう綺麗な形では残っていません。
『ニンジャバットマン』も、レンガで作れば短期的にはみんな楽です。でも数年もすれば風化して忘れ去られてしまうし、それでは作る意味がない。
僕は過酷だけど『ニンジャバットマン』を石でできたクフ王のピラミッドにしたかったんです。世界中で名前が残り語り継がれる作品にすれば、日本のアニメ業界全体の力を世界に向けて見せつけることになりますし、参加した人ひとりひとりにとっても大きな実績と誇りになりますから。
だから妥協せず可能な限りのクリエイターを集めましたし、この話をして賛同してくれた人にだけスタッフに入ってもらいました。

本当に過酷だったので制作終了後に辞めてしまったスタッフもいますが、離れた後も「あの作品、俺が関わってるんだぜ」と誇れる作品にできたと思います。

――手掛けたスタッフにとっても日本のアニメ業界にとっても、後世に残る石造りの金字塔(ピラミッド)的作品、それが『ニンジャバットマン』なんですね。最後に、神風動画さんの次のステップについても伺いたいと思います。『ポプテピピック』と『ニンジャバットマン』とで長編もTVシリーズもできることを証明してしまいましたから、オファーが増えているのでは?

水崎
ありがたいことに長編含めてオファーは今かなり多くいただいています。ですが今回やり切ったので、正直しばらくは『ニンジャバットマン』以上のものはできる気がしませんし、何か電流が走るようなものがない限りは、長編はしばらくいいかなと思っています。
一方、アニメや実写映画の原作になるようなオリジナルの物語を作ることに関しては実現できる手ごたえがあり、着手しているところです。
またアプリ『タテヨコ』を通じて配信インフラの整備もしていますから、次に世を騒がせるとしたらこのふたつかもしれません。

――それが世に出るのが楽しみです。でもまずは日本が誇る石造りのピラミッド『ニンジャバットマン』ですね。本日はありがとうございました。


【2018年5月 渋谷区・神風動画本社にて】

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