2018年06月29日 10:22 弁護士ドットコム
高い攻撃性と猛毒で知られるスズメバチ。人口動態調査によると2016年は19人が刺されて亡くなっている(ジガバチ、ミツバチを含む)。この数字は、生物が理由の死因ではトップ。たとえば、熊や犬に襲われたものはそれぞれ2件ずつしかない。
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それだけにスズメバチの巣に対する注意喚起は、生命を守るために重要だ。この点をめぐり、武蔵野簡裁で今年5月8日、興味深い判決が出ている。
裁判は、2016年9月につり橋を渡っている途中、スズメバチの群れに30カ所ほど刺されて大けがをした女性が、橋の管理者である長野県飯島町に対し、医療費や慰謝料など計140万円を求めたというもの。橋桁に巣があり、つり橋の揺れに刺激されたと見られる。武蔵野簡裁は判決で、町に約51万円の支払いを命じている。
飯島町役場は6月19日、HP上に「ハチ被害に関する裁判について」とのお知らせを掲示し、控訴しなかったことを明かしている。
判決によると、次の2点について町の責任が認められた。
(1)町は2012年に橋にあるスズメバチの巣を発見し撤去したが、その後、再度巣がつくられていないか確認していなかったこと(予見可能性があった)
(2)2012年に巣を撤去した際に、注意喚起の看板を立てたが、女性が通行した2016年頃には汚れていた上、別の看板と重なる位置にもあったため見づらくなっていたこと
今回のつり橋のように、スズメバチが公共物に巣をつくった場合、行政にはどこまでの対応が求められるのだろうか。前田泰志弁護士に聞いた。
ーー公共物のすべてをチェックするのは難しいようにも思いますが…
法律上は責任があると考えられます。国賠法2条1項には「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と規定されています。
「設置または管理の瑕疵」とは、「営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としない」とされています( 最高裁昭和45年8月20日第一小法廷判決・ 民集24巻9号1268頁)。
過失の存在を必要としないとされているので、基本的には行政が巣の場所を把握していなかったとしても責任は免れないものと考えられます。
ーー仮に見つけた場合、どんな対応を取るべき? 巣の駆除まで求められる?
上記の昭和45年の最高裁判決が参考になると思います。この裁判は、国道への落石事故で、道路の管理に瑕疵があると認められた事例です。
具体的には、国道に面する山地の崩壊によって落下した直径約1メートルの岩石が、たまたまこの道路を走っていた貨物自動車の助手席の上部にあたり、助手席に乗っていた人が即死しました。
最高裁は、この道路付近でしばしば落石や崩土が起きていたにもかかわらず、道路を管理する自治体が対策を取らず、「落石注意」の標識を立てるなど注意を促すにとどまった点を問題視しました。
自治体はたとえば、(1)道路に防護柵または防護覆を設置する、(2)危険な山側に金網を張る、などの措置を取ることもできたはずです。しかし、そうした対応をとっていなかったので、通行の安全性確保に欠け、管理に瑕疵があったと判断されました。
この最高裁判決からすれば、注意喚起の看板を立てるだけでは足りず、危険の程度に応じて、駆除などの対応をしなければならないということになりそうです。
ーー公共物でなく、民間が管理する場所にスズメバチの巣ができたら?
これまで国賠法2条1項にいう「設置・管理の瑕疵」についてお話ししてきましたが、これは民法717条に定める「設置・保存の瑕疵」と同義とされていますので、この点では違いはなさそうです。
そうだとすれば、巣をつくった場所が、建物など「土地の工作物」といえる場合には、その管理者に責任が生じるものと思われます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
前田 泰志(まえだ・やすゆき)弁護士
東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。2010年独立し、事務所開設。企業法務を中心に業務を行いつつ、最近は、NHK受信料問題にも取り組んでいる。
事務所名:前田綜合法律事務所
事務所URL:http://maeda-sogo.jp/