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『ハン・ソロ』ロン・ハワード監督が語る、監督交代劇の裏側と興行不振に対する赤裸々な思い

2018年06月28日 18:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『スター・ウォーズ』シリーズのアナザー・ストーリー『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が6月29日より公開される。これまでのシリーズでハリソン・フォードが演じてきたハン・ソロ。本作では、オールデン・エアエンライク扮する若き日のハン・ソロと生涯の相棒チューバッカやミレニアム・ファルコン号との運命の出会いから、謎の美女キーラやカリスマ性を持ったベケットとともに、 “自由”を手に入れるためにハン・ソロが莫大な金を生む“危険な仕事”に挑む模様までが描かれる。


参考:『スター・ウォーズ』疲れが原因? マーベルと比較して考える『ハン・ソロ』が大コケした理由


 今回リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めたロン・ハワードにインタビューを行った。当初は『レゴ(R)ムービー』のフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビが監督を務めていた本作だったが、ルーカス・フィルムとの見解の相違により撮影の終盤で降板。その代役として抜擢されたのが、『スター・ウォーズ』の生みの親であるジョージ・ルーカスとも親交の深いハワード監督だった。いったい映画の完成までに何があったのか。プロモーションのために来日したハワード監督に、その裏側や不振にあえぐ興行面に対する思いなどを赤裸々に語ってもらった。


ーーあなたは今回の作品に途中から参加することになったわけですが、当時の心境はどんなものだったのでしょうか?


ロン・ハワード(以下、ハワード):本当に急な話だったんだ。僕は3日間で決断をしなければいけなかったからね。僕に話がきたときには既に監督を代えるということは決まっていて、ルーカスフィルムは代役の監督を探しているところだった。監督が降板して、それがいい形で作用する現場なんてないに等しいから、それ自体はものすごく残念なことだと思ったよ。それでも、自分にとってエキサイティングなアドベンチャーとして、そして多くを学ぶ経験の場として捉えて、監督を引き受けることにしたんだ。『スター・ウォーズ』がどうしてユニークな作品なのか、また水準の高い技術的な部分がどのようにして成立しているのかを知るきっかけになればいいなと思っていたのだけれど、結果的に期待以上のことを学べたよ。


ーー具体的にどのようなことでしょうか?


ハワード:『スター・ウォーズ』作品は多くの人々を楽しませているけれど、実はその裏側にはとても複雑なものがあるんだ。『スター・ウォーズ』作品はどれも、密度が濃くて、ドラマ性があって、ユーモアもアクションもあって、サスペンス性もある。それら全てがひとつのシーンの中で同時に作用していることがほとんどなんだ。ファンタジー系のアドベンチャーものが目指さなければいけないことが、『スター・ウォーズ』には全て含まれているということを改めて実感したよ。また、日常の世界とはちょっと違うレベルにあるような、どこか逃避ができるような作品を作ることができることの楽しさを思い出したんだ。僕自身が現実的なキャラクターが牽引するようなドラマを今後作らないということではないよ。そういう作品も今後作っていくと思うけれど、こういうタイプの遊び心のあるストーリーテリングにもまた是非挑戦したいなと思わせてくれたんだ。


ーーやはり気になるのは、フィル・ロードとクリス・ミラーが撮り上げた素材をどの程度生かしたかということなのですが……。


ハワード:彼らが撮ったものを結果的にどの程度残したかは言いたくないんだ。僕はフィルとクリスをリスペクトしているからね。でもこれはアドベンチャーでもあるんだ。実際に完成した作品を観た人たちには、「ここからはロン・ハワードだ」とか「このシーンはフィルとクリスのものだ」といったように、作品に身を任せながら想像してみてほしいね。それに、映画製作においてはさまざまな意見が出てくるものだけど、今回の作品のビジョン自体は、ローレンス・カスダンとジョナサン・カスダンによる脚本にあったんだ。クリスとフィルはそのビジョンを追いかけていたけれど、彼らは独特の違った形でアプローチしようとしていた。今回は非常に厳しいスケジュールの中、撮影を終わらせて編集作業に進んでいく段階で、冒険をするよりは最初のビジョンを尊重しようという決断になったんだと思う。とはいえ、彼らが撮った素材の中には僕が気に入ってそのままキープしたものもすごく多いし、同時にクリエイティブな自由も与えてもらったよ。シーンによっては新しいアプローチを試みたりセリフを変えたりもしている。全くそのままのところもあれば、イチからやり直したところもあるといった感じだね。


ーーあなたほどのキャリアを誇るベテランでも、やはり『スター・ウォーズ』シリーズの監督を引き受けるということに対してプレッシャーを感じたのでしょうか?


ハワード:もちろん大いに感じたよ。ドキュメンタリーやTVドラマの1話でさえも、プレッシャーは感じるものだからね。それが『スター・ウォーズ』シリーズという、想像できる範囲で最も大きな作品ということになれば、夜もうまく眠りにつけないし、うなされることもある。今回だったら、作品自体にとっても観客にとっても、どうやったら手元にあるリソースを効率よく効果的な形でうまく活用できるかが重要だったわけだけれど、葛藤は毎回同じだよ。今この話をしていて思い出したんだけど、実は僕は一度だけCMを作ったことがあったんだ。アメリカン・エキスプレスのCMだったんだけど、朝の3時ごろに起きてショットリストを作ってたりしていて、本来ならお金のためにやっているはずなのに、なんでここまで考え込んでいるんだろうって思ったことがあった(笑)。でも結局はどんな仕事でも責任感は抱くもので、やっぱり最高の仕事をしたいと思うんだ。ただ、そのCMは一度もオンエアはされなかったけどね(笑)。


ーーそんなエピソードがあったんですね(笑)。


ハワード:今回の作品の作業的には、初日から、VFXの最終的な承認を行わなければいけなかったり、既に編集作業にも入っていたからエディターたちとも話し合わなければいけなかったりしたんだ。さらに、脚本家たちとの脚本のリライト作業や、自分が撮るシーンの準備……といった感じで、一度に何枚ものお皿を回しているような、本当に盛りだくさんな作業量だったよ。


ーー『スター・ウォーズ』シリーズのアナザー・ストーリーということで、『ローグ・ワン』と比較されることも多い作品だと思いますが、監督自身は『ローグ・ワン』を意識することはあったんですか?


ハワード:いや、それはないね。完全に独立した作品として考えていたよ。『ハン・ソロ』は『スター・ウォーズ』のメインストーリーと全く関係していないし、これまでの作品を観ていなくても完全に理解できる。『ローグ・ワン』は『エピソード4/新たなる希望』につながる内容だったし、そういった意味では、メインストーリーとつながりがない今回の作品は実験的だったとも言えるね。だから、むしろ観客にとってもチャレンジングなんじゃないかな。ルーカスフィルムは、『スター・ウォーズ』ファンに「『スター・ウォーズ』にはこういう物語もありえる」ということを伝えたいということだと思うんだ。これまでにやってきたアニメシリーズやゲーム、小説の展開なんかもその一部だよね。あえてクリエイティブなリスクを取って、実験を続けているんだ。


ーー全米をはじめ世界的には興行面で苦戦していることに対しては、どのように受け止めていますか?


ハワード:公開日や物語の実験性、ファンが期待していたものだったかどうかなど、いろいろな要素があるとは思うけど、興行的に苦戦しているはっきりとした理由は誰にもわからないんじゃないかな。ただ、2つのことははっきりしている。1つは、観客の反応はとてもいいということ。僕の友人や信頼している知人からもとても高い評価をもらっているしね。もう1つは、『ハン・ソロ』の物語はまだ終わっていないということ。日本での公開もまだこれからだろ? それに、例えば1年後に、世界中のファンが『ハン・ソロ』をどう観たのかを振り返るのも面白いと思うんだ。僕自身はもちろん劇場の大きなスクリーンで観てほしいと思っているけれど、待ってでも違った形で観ようと思ってくれているファンももちろんたくさんいる。そういう人たちに“最高の映画体験”をしてもらえないのは残念ではあるけれど、人間的な物語だからこそ、フォーマットに限らず必ず響くとは思っているんだ。現状、興行的には厳しい部分もあるけれど、最終的な結果がわかるのは1年後じゃないかな。日本のファンのみんなには是非劇場で観てほしいね。(取材・文=宮川翔)