トップへ

意識高い「早朝出勤」が「タダ働き」になる可能性も 残業代請求するための条件とは?

2018年06月28日 10:12  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

東京都内のメディア関連企業で働くマユ子さん(30代)は、新入社員だった10年ほど前に比べ、同僚の出勤時間が早まっていることを感じている。本来の始業は9時30分。しかし9時前から働き始める社員の数が年々、増えているのだ。


【関連記事:「週休二日制」と「完全週休二日制」を勘違いして休めない日々…どう違うのか?】


マユ子さんは「長時間労働を抑えようという社会のムード、子育てにかかわる社員の数が増えたことなど要因は色々ありそうです」と、証言する。


実際、東京メトロ東西線の「早起きキャンペーン」など、時差通勤を推奨するキャンペーンも始まっている。しかし早く出社して定時まで働けば、当然本来の勤務時間よりも長く働いたことになる。


一般的に「残業」というと、就業時間後の夜の時間帯をイメージするが、始業時間前も含まれるのだろうか。また満員電車を避けるため、家庭の事情など社員の自発的な早朝出勤の場合、残業代を請求することができるのか。柳澤有里弁護士に聞いた。


●「労働時間」にあたるかどうか

「残業は、始業時間前の早朝の時間帯も認められるものです。始業時間前に早朝出勤した場合、その間の時間につき残業代が請求できるか否かは、その時間が労働基準法上の労働時間にあたるかどうかで決まります。


ここでいう『労働時間』とは、『労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間』をいいます。したがって、始業開始前の時間であっても使用者の指揮命令下に置かれていたと評価されれば、その時間は残業代の支払い対象となるのです」


はっきりと早朝出勤を命じられてはいない場合もありそうです。


「確かに、始業時間前に出勤していても、始業までの準備であったり、プライベートの時間に使ったりする社員もいるため、終業時間後の残業に比べ、指揮命令下にあったと評価されるには一定のハードルがあります。


しかし、明確な早朝出勤命令がなくても、業務量や早朝出勤後の実際の勤務状況に照らし、始業時間前の業務を余儀なくされていたと評価できる場合には、使用者の指揮命令下に置かれた時間として、残業代を請求できます」


●「満員電車を避ける」「子どもの送り迎え」という要因では?

冒頭で取り上げた職場では、業務上の理由だけでなく「満員電車を避ける」「子どもの送り迎え」など個人的な事情もあっての早朝出勤が行われているようです。


「始業開始前の時間帯が、使用者の指揮命令下に置かれていた時間といえるかどうかを判断することになります。


社員の個人的な事情により自発的に早朝出勤をしていたにすぎないのであれば、会社が早朝出勤を命じたり、余儀なくさせていたりしたとはいえません。したがって、今回のケースは、基本的には労働時間性が否定されると考えるべきでしょう。


ただし、自発的な早朝出勤とはいえ、所定時間内では到底終わらない業務量を命じられているが、(退勤時刻後の)残業が禁止されているので早朝出勤をせざるを得ないなど、早朝出勤による業務を事実上余儀なくされていた場合には、労働時間と評価してよいでしょう。


この場合でも、残業について届出や承認等の手続が必要であれば申請を行うなど、自身が業務を行っていることを客観的に視認できるようにすることが必要でしょう」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
栁澤 有里(やなぎさわ・ゆり)弁護士
2011年弁護士登録。弁護士法人龍馬に所属。

事務所名:弁護士法人龍馬けやき野事務所
事務所URL:https://www.houjinryouma.jp/