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大原櫻子が語る、デビュー5周年の充実 「全曲を通して、いまの私らしく歌おうと思った」

2018年06月27日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 大原櫻子が3rdアルバム『Enjoy』をリリースする。2ndアルバム『V(ビバ)』以来2年ぶりとなる本作には、「マイ フェイバリット ジュエル」(作詞・作曲:秦 基博)、「さよなら」(作詞・作曲:水野良樹)など様々なアーティストとのコラボレーションシングルを収録。さらに切なくも愛らしい恋愛感情を描いたポップチューン「ツキアカリ」、シリアスなメッセージ性を備えたロックナンバー「energy」、高橋久美子が作詞、水野良樹が作曲を担当した「夏のおいしいところだけ」などカラフルな楽曲が収められている。


 「ファンの方が聴きたい曲と自分自身がやりたいことを詰められた」という彼女は、デビュー5周年を迎え、シンガー/アーティストしてさらなる充実期に突入しつつあるようだ。(森朋之)


(関連:大原櫻子が見せた、カバーとアコースティックによる新たな挑戦 『4th TOUR』Zepp Tokyoレポ


■「ダンスが加わることで、視覚でも世界観を感じてもらえる」


ーー2年ぶりとなるニューアルバム『Enjoy』がリリースされます。前作『V(ビバ)』以降、初の日本武道館公演を開催、さらにドラマ、舞台にも出演するなど濃密な活動が続いていましたが、2年前と比べていちばん変わったのはどんなところですか?


大原櫻子(以下、大原):そうですね……あまり変わってないかも(笑)。ただ、意志は強くなりましたね。「私はこう思います。みなさんはどうですか?」という話も以前よりできるようになったので。あとは挑戦心かな。失敗を恐れずに挑戦する心を持てるようになったかなって。それは今回のアルバムにも詰まっていると思います。


ーーアルバムの制作に関しては、どんなテーマがあったんですか?


大原:前回の『V(ビバ)』は20代になって初めてのアルバムで、大人っぽさを意識していたんですけど、今回はこれまでの自分のことを客観的に見て「こういう曲を入れたらファンのみなさんは喜んでくれるかな」みたいなことを考えてましたね。それプラス、自分がやりたいことにも挑戦させてもらって。秦さんに作っていだいた「マイ フェイバリット ジュエル」、水野さんに提供していただいた「さよなら」もそうですけど、シングルはミディアム、バラード系が多かったから、明るい曲を入れたいという気持ちもありました。夏の発売だし、はっちゃけるのもいいかなって(笑)。


ーー冒頭(「one」)からエレクトロテイストの楽曲で始まって。


大原:そう、ダンスチューンで始まるんですよね。もともとダンスが好きだし、ずっと「踊れる曲がほしいよね」という話をしていて。リード曲の「ツキアカリ」のMVも、サビは全部ダンスなんです。歌だけで表現することも続けていきたいんだけど、そこにダンスが加わることで、視覚でも世界観を感じてもらえると思います。


ーー「ツキアカリ」はアルバムの軸になっている楽曲?


大原:軸というより、明るくてポップな曲をリードにしたいなって。すごく明るくてポップな曲なので、初めて私のアルバムを聴いてくれる方も、ずっと応援してくれてる方も馴染みやすいと思うんです。リード曲がダンスチューンだったら、「あれ? 櫻子ちゃん、どこにいっちゃうの?」ってなっちゃうかもしれないじゃないですか(笑)。アルバムの入り口は“自分らしさ”を感じられる曲のほうがいいので。


ーー歌詞にも“らしさ”が出てますよね。


大原:そう思います。歌詞はいであやかさんが書いてくださったんですが、2曲目の「泣きたいくらい」(9thシングル)からストーリーが続いているような印象もあって。付き合って何年か経って、女の子が「この距離感でいいのかな?」と迷っているというのかな。2曲とも等身大で表現できました。全曲を通して、いまの私らしく歌おうと思っていたので。


ーー「energy」はエッジの効いたロックナンバー。〈大人ってただ偉そうな子供なの?〉で始まる歌詞も強烈だな、と。


大原:1stアルバム(『HAPPY』)に入っている「READY GO!」と同じように「ライブで煽れるようなカッコいい曲がもう1曲ほしいね」っていう話からできたのが「energy」なんです。大人への反骨精神を歌わせてもらいました(笑)。


ーーそういう内容の歌も等身大で歌える?


大原:そうですね。やさぐれている曲というか(笑)、心の叫びみたいな歌詞もぜんぜん自分とかけ離れていないと思っているので。この歌詞に込められている精神、価値観もすごくわかるし、歌いやすかったです。「なんなんだよ!」みたいな話をすることもありますからね、普段。背景にはいまの社会から感じることも含まれているんですけど、そういう思いを込めていることが伝わったらいいなということは小名川さん(作詞・作曲を手がけている小名川高弘)とも話していて。恋愛ソング、応援ソングも大好きですけど、“いま歌わなくちゃいけない”と思える曲を収録できたのは嬉しいですね。


ーー「夏のおいしいところだけ」は、作詞を高橋久美子さん、作曲を水野良樹さんが手がけたナンバー。〈わがままは 自由の始まりね〉という女子のリアルな気持ちが表現された、かわいらしい曲ですよね。


大原:私もすごく気に入ってます。水野さんがかわいい曲を書いてくれて、高橋さんの歌詞の世界観、言葉のチョイスも大好きです。水野さんが送ってくれたデモに「夏のデモ」という仮タイトルが付いていて、メロディを聴いたときも「夏のライブに合いそうだな」と思ったので、高橋さんにも「夏をテーマにした歌詞にしてください」とお願いしました。とにかく主人公の女性がかわいいんですよ。いちばん好きなのは〈かき氷はいつの間にか/とけて赤い水になる/巻き戻しできない/だからちゃんと生きよう〉というところ。情景で感情を伝えているんだけど、表現がすごく上手で、かわいらしくて。レコーディングではずっとニコニコしながら歌うことを心がけていたんですが、本当に楽しくて。高橋さんとはまたご一緒したいなって思いました。


ーー「甘えてしまうんだよ」はアコギと歌によるバラード。


大原:ひと聴き惚れというか、デモを聴いたときに速攻で「この曲、入れたいです」って言いましたね。これまでにもバラードは歌ってきましたけど、ギターと歌だけで勝負する曲は初めてだし、すごく新鮮だったので。切なさとかわいさが両方入った歌詞も素敵ですよね。


ーー大原さん、ギターのイメージも強いですからね。


大原:もともとはピアノのほうが馴染みがあって、ギターは(映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の)役作りために始めたので、得意とは言えないんですけどね(笑)。ただ、少しずつ弾けるようになってるし、ギターも表現の一部になってきたのかなって。楽器自体が好きだし、表現の幅を広げていきたいという気持ちはありますね。


■「サビの4行の頭文字を縦に読むと“すなぎも”に」


ーースタイルを決めるのではなくて、曲によって表現の方法が変わるというか。


大原:ダンスもそうですよね。小さいころから好奇心が旺盛で、習い事もたくさんやってたんです。この先もいろんなことに挑戦していきたいなって。ちなみに「甘えてしまうんだよ」は、まだ完成形じゃないんですよ。この先に続きがあるので、それはライブのお楽しみにしたいなって思ってます。


ーー「いとしのギーモ」には大原さんが作詞に参加。“ギーモ”っていうのは……。


大原:砂肝ですね(笑)。アルバムのタイトルも「Enjoy」だし、1曲くらいふざけた曲を入れたいねっていう話をして、「じゃあ、砂肝のことを歌おう」って。「のり巻きおにぎり」という曲があって、ファンの人たちにも気に入ってもらってるんですね。そういう楽しい曲がほしいというのもあったし、私の砂肝に対する愛をいろいろ書いて、それを曲にしてもらったっていう。もっと気楽な感じになるかと思ってたんだけど、意外としっかりした曲になりました(笑)。サビの4行の頭文字を縦に読むと“すなぎも”になってるんですよ。


ーーホントだ!


大原:(笑)。取材では「“ギーモ”ってギターの名前ですか?」って言われたりするんだけど、ぜんぜん関係ないです。ファンの方はわかるんじゃないかな。「砂肝が好き」っていうのは、ずっと言ってるので。


ーーこういうユルい曲を収録できるのも楽しいですね。


大原:そう、ユルいんですよ、私のチーム。「やりたいことがあればやればいい」という感じだし、かなり自由だと思います。


ーー「Close to you」は多保孝一さんの作曲。アルバムのなかでもっともバラードらしいバラードですが、このメロディも素晴らしいですね。


大原:メロディを聴いたとき、「多保さんらしい曲だな」と思いましたね。「大きいバラードを1曲入れたい」というところから作ってもらったのがこの曲なんですよ。歌詞はSally#Cinnamonさんなんですが、女性同士の友情がテーマになってます。〈口癖のように/なんか良いことないかな なんて〉という歌詞があるんですが、私の身近に「なにか良いことないかな」が口癖の子が本当にいて。レコーディングのときも「本当にあの子みたいだな」って顔を思い浮かべながら歌ってました(笑)。具体的な人物像があると歌いやすいんですよね。〈折れかけたかかとに 気づかぬまま/日々を駆けていく〉という歌詞もよくわかるなって。


ーー実際にそういう状態のこともある?


大原:ありますね。忙しい日が続くと、自分のことを見られなくなるというか……。でも、どこかに軸はあるんですよ。ルーティンというか、毎日欠かさずにやることを作ることで、見失いそうな自分を取り戻すというか。だから崩れないで済んでるんでしょうね。「たまには自分を見失ってもいいんじゃない?」みたいな気持ちもあるし(笑)。


ーー確かにしっかり自分のペースを持っている印象がありますね。まわりに流されないというか。


大原:人の意見はめっちゃ聞きますけどね(笑)。仕事を重ねていくなかで「さくちゃんはどう思う?」と聞いてもらえることも増えたし、自分の意見を言わせてもらえる環境もあるんですが、逆に「みなさんはどう思いますか?」って聞くことも多くて。自分の意見もあるんですけど、それだけではダメというか、いつも「大丈夫かな?」というところもあるので。


ーーアルバムの最後は「Joy & Joy」。ハッピーな締めくくりですね。


大原:はい。これも多保さんの作曲で、アルバムの1曲目のイメージで作ってくれたみたいなんです。でも、むしろ『Enjoy』というアルバムの締めにふさわしいんじゃないかなと思って、最後にしちゃいました。これも私にとっては挑戦の曲なんです。こういうパーティー感のある曲は初めてだし、歌詞もかなりはっちゃけてるじゃないですか。デモを聴いたときもレコーディング中も「これ、どうなるのかな?」と思ってたんだけど、出来上がってみたらすごくカッコよくて。さすが多保さん! という感じでした。


ーー新しい挑戦も多いし、シンガーとしてやれることのふり幅が広がったアルバムですね。


大原:そうだと思います。作家のみなさんも、いままでの私のイメージに合わせて曲を作ってくれたというよりも、「こういう曲はどう?」と提案してくれた感じというか。それが良かったんだと思いますね。


ーー『Enjoy』というアルバムのタイトルは大原さんのアイデア?


大原:はい。「“Enjoy”みたいな感じって、どうですか?」って言ったら「うん、いいんじゃない」って軽い感じで返ってきて(笑)。今年に入って最初の仕事が舞台(ミュージカル『FUN HOME』)だったんですけど、本番の前に必ず「今日は○○を意識してやりましょう。Enjoy!」って言ってたんです。それが沁みついて、友達とLINEでやりとりしてるときも「今日は仕事? Enjoy!」みたいなことをよく書いてたんです。姉に「最近“楽しんで”とか“Enjoy”が多いよね」と言われたときに「今年のテーマは”Enjoy”なのかな」と思ったんですよね。


ーー大原さんの現在のモードを示す言葉なんですね。


大原:そうですね。いまの私にいちばん寄り添っている言葉というか。もともと楽しいことが大好きだし、「人生楽しんだもの勝ち」みたいなところもあるので(笑)。まわりの人たちの影響もあると思います。友達もそうですけど、心がオープンな人たちに囲まれているというか。


■「“歌い方に正解はない”ということがわかった」


ーー大原さん自身も楽しむことを意識してる?


大原:ふだんは省エネで生きてるんですけどね(笑)。人に対しても変に取り繕おうとしないで、普段通りにしているところがあるんですよ。お芝居や歌のときは「こういうふうに見せたい」「こんな表現をしたい」と思うけど、ふだんはあまり気にしてないので。


ーー今回のアルバムには、そういう素の部分も反映されていると思います。今年12月にデビュー5周年を迎えますが、この5年の間に達成できたことは何ですか?


大原:何だろうな……? まず、音楽の聴き方が変わったと思います。デビューしてから先輩のアーティストの方々のライブを観させていただくようになって、そのなかで音楽の捉え方が変わってきたというか。それは自分の歌い方にも影響していると思います。何て言うか、振り切って表現するようになったんですよ。「歌い方に正解はない」ということがわかって、いろんな歌い方を試せるようになりました。今回のアルバムもそう。たとえばロックテイストの「energy」は訴えかけるように歌っているし、「Close to you」は優しく包み込むように歌っていて。それは1stアルバムのときにはできなかったことだと思うし、お芝居のお仕事をやらせてもらっていることも関係しているんだろうなと。5周年については、あまり実感がないんですけどね。人生まだまだこれからだし、「まだ5年か」という感じもあるので。


ーーアルバムリリース直後からスタートする全国ツアー『大原櫻子 5th TOUR 2018 ~Enjoy??~』も楽しみです。今回はどんなツアーにしたいと思っていますか?


大原:前回のツアーは歌をしっかり聴いてもらうことに重点を置いていたんですが、今回は『Enjoy』というタイトルだし、とにかく楽しみたいなって。一緒に歌って、ジャンプして、汗かいて、夏らしいライブにしたいです。ステージの装飾についても打ち合わせしているところなんですが、ポップな雰囲気にして、見た目にも楽しい、その場にいるだけでテンションが上がるステージを作りたいですね。(取材・文=森朋之)