セバスチャン・ベッテル(以下、VET)「ノーズダメージ! ノーズにダメージだ!」
スタート直後のターン1でベッテルとバルテリ・ボッタスが接触した瞬間、フランスGPの優勝争いは決まったようなものに見えた。しかしベッテルとボッタスは諦めていたわけではない。交換したソフトタイヤで最後まで走り切り、ルイス・ハミルトンのスーパーソフトが終わりを迎えるときに彼のピットストップウインドウ内にいれば、逆転は可能だからだ。
フェラーリ(以下、FER)「HAM(ハミルトン)とは18.9秒差。20秒以内に留まる必要がある。良くやってるよ、やれるぞ!」
レース序盤、ベッテルはまだ“優勝争い”をしていた。タイムシートの上で計算上の優勝争いをしていたのだ。
しかし、ベッテルはボッタスとの接触の責任を問われ5秒加算ペナルティが科された。そして優勝にこだわらないのであれば、最後まで走り切るよりももう一度ピットストップを行い最後にウルトラソフトに履き替えてプッシュするという手も残されていた。
FER「5秒加算ペナルティを受けた。レースに集中しよう。後でピットインするかどうかはまた後で伝えるよ」
ベッテルは中団勢を1台ずつ次々に抜いていく。
FER「落ち着いていけ。次はPER(セルジオ・ペレス)だ。K1を使っても良いぞ」
FER「HAMは25秒前方だ。次はLEC(シャルル・ルクレール)。プッシュし続けろ」
FER「VER(マックス・フェルスタッペン)とは23秒差。プッシュし続けろ」
チームからベッテルには、上位勢とのギャップと彼らのラップタイムが逐次伝えられていた。
FER「HAMは36.4、VERは36.7だ。RIC(ダニエル・リカルド)は37.2。君は良くやっているよ。(ブレーキ・バイ・ワイヤの)マイグレーションをマイナス4にすれば助けになる」
VET「VERのペースは?」
FER「VERは35.9。RICがピットインするぞ、エンジン1」
しかし35周目を過ぎると後方からは第1スティントを長く引っ張り新品のスーパーソフトに履き替えてハイペースで走るキミ・ライコネンが追い付いてきた。38周目にはライコネンに前を譲ると、ベッテルはもう一度ピットストップをして確実に5位をキープすることに頭を切り換えつつあった。逆に言えば、タイヤのマネージメントには不安があったのだ。
VET「後ろとのギャップは?」
FER「BOT(ボッタス)は23.5秒後方。ピットインしても彼の前になる」
VET「リヤタイヤは厳しい状況ではないけど、36秒1では走れない。ピットインする必要があるなら今ピットインした方が良いと思う」
FER「OK、ちょっと待ってくれ」
VET「ピットインすれば簡単にペースアップできるんだ」
FER「しかしピットインすればその場で5秒ペナルティを受けるからボッタスの後ろになってしまう。36.4が彼のペースだ」
VET「ピットインして彼の後ろからプッシュしてもいい」
フェラーリ勢がそんなやりとりをしていた矢先、ペースの上がらないボッタスが先にピットインに動いた。フロアにダメージを負っていたボッタスは、ダウンフォースを失い空力バランスが変わったことでタイヤ摩耗が進み、バイブレーションも出ていたのだ。
これでベッテルもピットインを決断する。
FER「BOTがピットインした。だからフリーピットストップができる。我々もピットインしてここから予選(の走り)だ」
5番手のままコースに戻ったベッテルは、中古のウルトラソフトで猛プッシュ。しかし残り周回数は前のダニエル・リカルドを追いかけるのに充分ではなかった。最終ラップにアタックを行ないセクター1、セクター2とファステストを刻んだものの、セクター3にはランス・ストロールのタイヤバーストとスロー走行のフェルナンド・アロンソによるイエローがまだ残り、ファステスト更新はならなかった。
FER「P5、素晴らしいリカバリーだったよ」
VET「また1コーナーでレースを失ってしまった。前を閉じられて行き場をなくしてしまったんだ。BOTもポジションを守ろうとしたし僕はHAMのすぐ後ろにいたから。みんなゴメン」
失ったレースは元には戻らない。しかし実質ノンストップの戦略でソフトタイヤの走行だったとは言えハミルトンとのギャップが開いてしまったベッテルは、レッドブル勢と表彰台を争うこともできなかった。1コーナーでの接触以上に、フェラーリとベッテルが抱える問題は大きかったはずだ。