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Sonar Pocket、デビュー10周年で挑んだ“新たな音楽の届け方” 「僕らの楽曲もより身近なものに」

2018年06月27日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 9月にメジャーデビュー10周年を迎えるSonar Pocketが、29枚目のシングル『やばば』をリリース。男女の切ない恋愛を切り取った胸を撃つ歌詞が人気の彼らだが、今回は一転して遊び心がいっぱい。10代に人気の動画ソーシャルアプリ「Tik Tok」を使い、“やばばダンス”を踊るMVを公開するといった、マーケティングアイデアも導入されていて話題だ。また「やばば」には、プロデューサーとしてNAOKI-Tが参加していることも、背中を押したと話す3人。10周年を目の前に新たなチャレンジを可能にした、コライト(共同作曲)についても話を聞いた。(榑林史章)


■「僕らが知らないところまで広がっている」(matty)


ーー「やばば」は、楽曲的にもビジュアル的にも、可愛さがあって、“若いな!”という印象でした。


ko-dai:前作の「108~永遠~」という曲は、少女漫画が原作の映画『honey』の主題歌だったこともあって、最近は10代のファンの方が増えたんです。「やばば」は、そういうファンや10代のリスナーを中心にたくさんの人に聴いてほしいと思って、楽曲を「Tik Tok」というアプリで配信して、MVティーザーをSNSでアップして、楽曲・映像・アプリなど、すべてが連動して楽しめる作品にしたいと思って作りました。


ーーキャッチーで耳をひく曲だし、映像映えもするし。音楽版の“インスタ映え”みたいな曲ですよね。


eyeron:それ、いいですね(笑)。MVでは“やばばダンス”を踊っていて、自分たちが10年音楽をやってきて、自ら踊ってMVを撮影したのは初めてです。


matty:めちゃめちゃ練習しましたよ(笑)。


ーー拡散のツールとして「Tik Tok」を選んだのは、どうしてですか?


ko-dai:まず今の音楽は、僕らが学生時代に聴いていた音楽よりも、身近になっています。以前はCDを買わなければいけなかったり、CDウォークマンを持ち歩かなくちゃいけなかったのが、スマートフォンさえあれば、誰でもどこでも音楽を楽しめる環境になりました。僕らの楽曲もそういう時代に合わせて、より身近なものにしていかないといけないと考えました。


 そこで今回「Tik Tok」を選んだのは、僕が個人的に使っていたのもあったし、みんなで踊るということに対して、すごく積極的に受け入れてもらえるアプリだったからです。実際に、Sonar Pocketという名前を知らなくて、「誰の曲?」と言いながら、“やばばダンス”を踊ってくれている人も多くて。曲が一人歩きするというのはこういうことなのかと、実感しています。


matty:僕らが学生時代に音楽を楽しんでいた時は、誰が歌っているか知らないなんて、あり得なかったですから。知らなくても、必ず人に聞いたり調べたりしたし。


ko-dai:でも今は、誰が歌っているかは関係なくて、曲が良ければいいんです。そういう時代であることは、「Tik Tok」を利用して分かったことの一つです。だからこそ面白いと思ったし。


matty:僕たちの名前を知ってもらうきっかけになった、「好きだよ。~100回の後悔~」(2010年)も、最初は「歌詞が良いよね」と、歌詞が先行して一人歩きしていたところがありました。きっとその時の感覚に近いのかもしれないですね。そうやって、僕らが知らないところで勝手に広まって聴いてもらえるのは、とても嬉しいです。


ーーここ数年、動画やダンスが広まったことが、ヒットに繋がった例は多いですからね。


eyeron:きっとこの先も、映像で広がる傾向がますます高くなっていくと思うので、そこを無視することはできないです。


matty:「好きだよ。~100回の後悔~」の時代は、「着うた」だったんですよ。着うたも動画も、携帯端末を介して広まるという共通項があります。


ko-dai:ただ、着うたの時代と圧倒的に違うのは、スピード感ですね。


eyeron:映像の作り方もそうで、テンポ感が速いものが受け入れられやすいし、展開が多い映像とか、短くたくさん面白いところを設けるとかしないと、なかなか観てもらえないんです。


ko-dai:今だったら(編集部注:インタビューは6月上旬に実施)、DA PUMPさんの「USA」が、すごく話題を集めていますけど、あの曲もスピード感があるし、映像にも目に止まる面白さが話題になっていて。「USA」のようにヒットするのは、宝くじを当てるくらいの確率の低さですけど、“たまたま”を狙ってはいたくないですよね。僕らなりにしっかりと理由を持って作って、その上で広がっていけばいいなと思います。


eyeron:もちろんここにたどり着くまでに、トライ&エラーは数え切れないほどあって。その過程も含めて、自分たちの中では、すごく大切な経験だったと思っています。


■「次々と扉の鍵が開いていくような感覚があった」(eyeron)


ーーやばばダンス、アプリを使った拡散など、初めてのことが詰まっている楽曲なわけですが、「やばば」というタイトルも実にキャッチーで耳をひきました。


ko-dai:そもそも「やばば」という言葉は、「やばいの最上級」みたいな意味の造語ですけど、すでにSNSで使ってくれている方が増えていて。僕らは、もともと歌詞や言葉が注目されてきたアーティストなので、言葉が注目されることは、僕らの原点でもあるので、すごくうれしい状況だと思っています。


 歌詞としては、人が恋をして相手に惹かれていくスピード感とか、恋をしたことで普通だった毎日が色鮮やかでカラフルなものに変わって見えていく様子を表現しています。「恋をしたときの楽しさを音楽に落とし込んだら、こんなに楽しい曲になりました!」という感じです。


eyeron:トラックもすごく色鮮やかだし、ラブソングではあるけど、すごくキラキラとした言葉を意識して使っているので、今までとは違ったSonar Pocketの一面を見てもらえる曲です。最初は難しく考えていたんですけど、シンプルな言葉とか聴感的によりみんなの耳をひく言葉選びを心がけました。そうやってシンプルにそぎ落としていった結果、10周年を前にして新たな表現ができたのは、自分たちとしてまた一つ技が増えたと思っています。


ーー今回は、NAOKI-Tさんが作詞・作曲・プロデュースで参加していますが、そのことは曲に対してどんなものをもたらせましたか?


ko-dai:NAOKI-Tさんとは同じ事務所でファンだし、ずっと一緒に制作したいと思っていて。今までの10年間でプロデューサーという立場の方を外部から招いたことはなかったんですけど、Sonar Pocketが10周年を迎えるにあたって、新たなチャレンジとして一緒にやっていただきました。作業自体は昨年から一緒にやっているんですけど、楽曲としてリリースしてみなさんに聴いていただくのは、この曲が初めてになります。


matty:NAOKI-Tさんという存在は、トラック制作においてはすごく大きかったです。昨年第二章を迎えて、たとえば「段々男女物語」とかは、引き算の考え方でトラックを作っていました。それがNAOKI-Tさんは、プラスする考えと言うか、段を積み重ねていくかのようなトラックだったんです。第二章は引き算でやっていくと、どこか考えが固まっていた部分があったので、NAOKI-Tさんから最初に「こういう感じでどうだろう」とアプローチがあった時は、意外だったし驚きました。


ーー単純に引き算ではなく、足し算になったと。


matty:音数がすごく多いトラックになっています。それもただ多いだけじゃなくて、ギターのカッティング一つ取っても、石成正人さんに弾いていただいたんですけど、ベーシックでしっかり刻むファンキーなカッティングが随所に散りばめられていて。かといって古めかしくはなく、シンセは今風のEDMの音色を使っています。つまり、いろんな時代の“いいとこ取り”のトラックができていて、そういう音作りの部分は、すごく勉強させていただきました。


ーーNAOKI-Tさんからトラックのアイデアが出た時点で、すぐ「やばば」というタイトルや歌詞のイメージは浮かんだのですか?


ko-dai:最初はまったく違っていて。人を好きになってしまう気持ちは同じだけど、好きになるのを逆に抑えようとする歌詞だったんです。「好きになっちゃうから、思わせぶりな態度はやめてくれよ!」みたいな。Aメロなんかも、今より可愛い雰囲気で、「ドキッとしちゃうよ~」みたいな(笑)。でもNAOKI-Tさんと話していくうちに、「トラックの持つスピード感を歌詞でも表現しないと、もったいない」と提案していただいて、どんどん書き直していって。その上で、キラキラとした言葉のアイデアは、多田慎也さんからもアイデアを出していただきました。


eyeron:僕なんか、途中でゴールを見失っていましたから(笑)。NAOKI-Tさんと相談しながら、言葉がどんどんシンプルになって行く過程で、「僕が目指してるゴールは、みんなが目指してるゴールと合ってるのか?」と、不安になる時もあって。でも話ながら作っていく間に、次々と扉の鍵が開いていくような感覚もあったので、これでいいんだと徐々に確信を持つことができました。


ーー逆に、こういう曲が、今までの10年の間になかったのは、どうしてだと思いますか?


ko-dai:きっと、今までは真っ直ぐにしかものごとを見ていなかったからだと思います。音楽に対して、ただ真っ直ぐひたむきに向き合ってきた。そこで、NAOKI-Tさんから「もっと楽しんでもいいんじゃない?」と言われたんです。確かにそうで、今まではどこか「Sonar Pocketだから」という目線で、制作してリリースを続けてきたところがあって。Sonar Pocketだからこれは歌えないとか、Sonar Pocketだから歌える内容とか。結果として10年の活動の中で、気づかないうちに“縛り”を作ってしまっていたと思います。でも、もう10年もやってきたんだから、「Sonar Pocketだから」と言うことを考えなくても、僕らがやればそれはSonar Pocketの音楽になる。縛りをなくして、もっと楽しむことが大事なんじゃないかと、NAOKI-Tさんに教えてもらいました。


ーー縛りから解き放ってくれる手伝いをしてくれたのが、NAOKI-Tさんなんですね。


eyeron:キャリアを積んでいくと、初めてのことをやる怖さを感じるのが当たり前だと思うんですけど、そこにチャレンジするきっかけを与えてくれたのがNAOKI-Tさんです。自分たちが表現する部分でも、もっと楽しんじゃったほうがいいと教えてくれましたしNAOKI-Tさんと一緒に制作をさせていただいたことで、気持ち的にも原点回帰できたと思います。


ko-dai:だから最初は、「やばば」って自分からアイデアを出したはいいものの、実際のところ「これってどうなのかな?」って、どこか疑問とか不安を感じていたんです。ファンの人たちにどんな受け取られ方をするのか、すごく気になっていました。でもフタを開けてみたら「すごく楽しい」とか「早くライブで聴きたい」といった反応がすごく多くて。チャレンジして良かったと思います。


eyeron:最初に話した「Tik Tok」やSNSを通じて、Sonar Pocketとは知らずに、この曲に触れている方もたくさんいて。従来のファンだけではない、初めましての方にも出会える曲を、10周年を前にして出せたことが、僕たちが楽しめている一番の証拠じゃないかと思います。それこそ、11年目以降のSonar Pocketが、今から楽しみになる曲です。


■「感謝の気持ちという花束を届けたい」(ko-dai)


ーー10年もやると、ある程度守りに入ることのほうが多いですからね。そこを逆手に取って、攻めることに意義がある。


matty:それに攻めることが、守ることでもあるのかなって思います。「攻撃は最大の防御」って言うじゃないですか。今の僕らが、まさしくその時だなって思うんです。だから僕らも、10年だからと変に守らずに、攻めるべき所はしっかり攻めていきたいと思っています。


ko-dai:前作「108~永遠~」がSonar Pocketの王道だったし、ずっと同じ側面ばかりを見せていても、聴いてくださる方にとっては面白みに欠けると思います。僕ら自身も楽しみながら活動することが、10年目の今だからこそやれることなのかなと思いますね。


ーーカップリング「Be Alright」は、Army Slickさんが作曲に参加。第二章に入ってからはコライトでの制作が増えていますが、コライトのメリットはどういうところに感じていますか?


eyeron:コライトに対して抵抗感はまったくないし、それによって楽曲が良くなるのであれば、やったほうがいいという考え方です。自分たちにはなかった引き出しを増やしてもらって、新たな表現方法を見いだせたほうが、Sonar Pocketの新しい魅力につながると思うし。


ko-dai:たとえば「Be Alright」は、2番がないんですけど、今までの僕らなら、2番は作ったほうがいいと考えたと思うんです。でもArmy Slickさんとのコライトで、Armyさんから「なくても成立しているし、歌詞でも言いたいことが言えてるから、無理して作らなくてもいいんじゃないか」と助言があって。それで、こういう今までになかった構成にもチャレンジできました。


matty:こういう構成で作ったのは初めてで、すごく新鮮でした。この曲は3分台なんですけど、曲って長いとか短いとかじゃないんだなと改めて思いました。それに今後の音楽の聴き方は、ストリーミングがより広がっていくと思うので、そういう聴き方をする時に、このくらいの長さの曲のほうが聴きやすいと思うんです。そういうことに気づかせてもらえるのも、コライトのいいところだと思います。


ko-dai:一昨年くらいから、いろんな方のスタジオに行って、コライトで制作させていただいていますけど、やっぱり音楽的な相性が合うか合わないかもあるし。今回一緒にやらせていただいた皆さんとは、10年目にしてすごく成長させてもらえたと実感がありますね。


ーーそして10月から、10周年ツアー『Sonar Pocket 10th Anniversary Tour flower』がありますが、「flower」には、どんな気持ちを込めたのですか?


ko-dai:昨年のツアーには第二章を始める意味を込めて「Reload」というサブタイトルを付けたんですけど、全国各地を回って種を蒔いてこられたツアーになったと思っています。今回は、その種に笑顔という花を咲かせに行くツアーです。同時に10年応援してくれたことへの、感謝の気持ちという花束を届けたいと思っています。それに僕らの曲の中で、ファンのみんなが一番聴きたいと言ってくれるのが「花」という曲なので、それもあってflowerと付けました。


matty:前回のツアーでは未発表曲も演奏したので、「やばば」だけじゃない新しい曲もやれたらいいなと思っています。「やばば」や「Be Alright」も含め、自分たちがその日に繰り出す楽曲が、各地でどう受け入れられるか、そこがいちばんの楽しみです。その日その地域によって反応が変わるのが、ツアーの醍醐味なので、それを存分に楽しみたいです。


eyeron:ライブはファンの反応を、じかに確認できる場所です。10年間みなさんのおかげで続けて来られましたという気持ちと同時に、「自分たちと共にまた未来を作っていきましょう!」という気持ちを込めた、ライブにできたらいいなと思っています。今の3人が見せられる、最高のパフォーマンスをお見せしたいです。


ーーツアーの中で、何か今後のヒントも見えるんでしょうね。


eyeron:それくらいでかいものを掴んで終わりたいですね。


matty:ライブをやると、何となく“次”が見えてくるものなんです。こういうのもいいな、こういうこともやりたいなとか。


ko-dai:音を楽しむと書いて音楽です。自分たちでも楽しみながら、10年音楽道を歩いてきた中で培ってきたものを、しっかりと伝えられたらいいなと思います。


(取材・文=榑林史章)