受動喫煙防止対策が進む中、ネット上で6月半ば、「JTがタバコアレルギー検査薬の製造販売をしていた会社を買収し、検査薬を販売停止に追い込んだ」という噂が広がった。
事の発端は、あるツイッターユーザーによる、「タバコアレルギー(化学物質過敏症)のことを知ってほしい」という呟きだ。このツイートを見た他のユーザーらから、「(タバコアレルギーの認知が低いのは)検査薬を出していた製薬会社をJTが買収し、検査できないようにしたためだ」といった声が上がった。
更に、別のユーザーが、日本禁煙学会が厚労省に提出した、アレルギー薬再販に関する要望書を見つけツイート。
「日本たばこ産業(JT)が、同試薬の特許を持つ鳥居薬品を傘下に収めると、平成15年3月には同試薬の製造・販売が中止されました。現在、『タバコアレルギー』の診断ができない状態となっており、患者に様々な不利益を与えております」
という要望書の内容を見た人から、「闇深案件」「JTやばいな」などの声が多数上がった。
「再販売の是非も、鳥居薬品が判断する」
果たしてこの噂はどこまで本当なのか。JTが過去、タバコアレルギー検査薬を製造・販売する会社を傘下に収めたのは事実だ。
同社は1987年、経営多角化の一貫として、オリジナル新薬の開発を目指し医薬品事業に進出した。93年に自社研究施設「医薬総合研究所」を設立した後、98年、当時アサヒビール傘下にあった鳥居製薬の株式を取得し、グループ会社とした。鳥居薬品はアレルギー検査薬の製造・販売を中心に行う製薬会社だったが、新薬の研究開発機能はJTに移管された。
そして、JT傘下になった5年後の2003年、鳥居薬品は「アレルゲンタタバコ煙エキス『トリヰ』」と、「アレルゲンスクラッチエキス『トリイ』タバコ煙」の製造販売を中止している。
ネットでは、販売中止に至るまでのこうした経緯が、JTが鳥居薬品に圧力をかけた証拠だと捉える人も多い。しかし、鳥居薬品の担当者はキャリコネニュースの取材に対し、これらの噂を遠回しに否定した。
「弊社は、アレルゲンの個別製品の需要減少等を考慮し、製品の販売継続の判断を随時適切に行っております。その一環として2002年12月にアレルゲンエキス103種、165品目の販売中止をご案内し、2003年3月をもって販売中止としましたが、上記2品目は、その販売中止した製品に含まれておりました」
つまり、タバコアレルギー検査薬を意図的に販売中止にしたのではなく、他の数品目と同様に需要や採算を考慮した上での判断だと主張している。
JT側も、「アレルゲン製品の製造や販売中止については、製造販売元である鳥居薬品が個別製品の需要等を考慮し随時適切に判断しており、当社は関与しておりません」と、はっきり否定。「再販売の是非は、鳥居薬品側が判断するものと考えている」と述べた。
検査薬の特許は既に期限切れ 作ろうと思えばどの製薬会社も作れる状態
ネットでは「JTはタバコアレルギー検査薬の特許を自分のものとすることで、現在も検査薬の製造をさせないようにしている」という噂も出ていた。
鳥居薬品に、過去、JTとの間でアレルギー検査薬に関する特許権の譲渡や実施権の契約があったかどうかを聞いたが、「社内で確認作業をいたしましたが、販売開始以降数十年が経過している医薬品であり、過去の情報については確認できませんでした」(鳥居薬品担当者)という回答だった。
ただ、販売停止になった2つの検査薬はそれぞれ、販売開始時期が1964年、65年と、50年以上も前だ。医薬品関連の特許は条件により、特許出願日から最大25年間効力を持つ。時期から考えると、過去に特許が誰の手にあったとしても、既に権利は消滅していることになる。
にもかかわらず、現在どの製薬会社も製造していないのは、タバコアレルギー検査薬の製造・販売は採算が取れないといった事情があるのかもしれない。