トップへ

清野菜名が永野芽郁に贈った最後のエール 『半分、青い。』2人の友情を振り返る

2018年06月24日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

「デビューしてもその5年後に漫画家を続けている確率はわずか1割。厳しい世界なのです。2人はどうなる?」


参考:豊川悦司、永野芽郁たちを導く“師匠”に 『半分、青い。』秋風役のブレない両面性


 鈴愛(永野芽郁)とユーコ(清野菜名)の漫画家デビューを優しく天から見つめる廉子さん(風吹ジュン)のこの語りは、結果としてユーコが結婚して漫画家を辞める展開を予見していた。『半分、青い。』(NHK総合)第11週がボクテ(志尊淳)の物語ならば、第12週「結婚したい!」は、ユーコの物語。人の幸せの度合いは物差しでは測ることはできないし、ましてや比べることもできない。鈴愛にとっての幸せが、漫画を描いて人を感動させることならば、ユーコの幸せは、結婚をして家庭を持つことへと変わっていった。どちらが正しくも、間違ってもいない。ユーコがオフィス・ティンカベールを出て行くとき、叶わずに潰えた幸せを鈴愛へと託すシーンからは、苦楽をともにしたからこそ生まれた、親友を超えた戦友のような固い絆を感じさせた。


 「岐阜の猿!」と罵倒するほどの犬猿の仲だった鈴愛とユーコ。両親と距離のあるユーコに対して、実家の両親から毎日のように電話がかかってくる鈴愛。私立の一貫女子校で育ったユーコに、幼じみの律(佐藤健)と正人(中村倫也)と漫画のような展開になる鈴愛。2人はまるで正反対。だからこそ互いに足りないものを補える、少し俯瞰した冷静なユーコと、自然体でお気楽でハイな鈴愛との、絶妙なコンビネーションが生まれていた。


 正人と律、2週間で2度振られた鈴愛の側にいたのはユーコだった。律の恋人・清(古畑星夏)との泥沼の喧嘩のときも、ユーコは鈴愛の隣にいた。鈴愛とユーコの関係性に変化が生まれてくるのは、2人がそれぞれプロとして漫画家デビューを決めた1992年。初めての連載のネームを描きあげる2人は、まるで受験生が互いに寝ないように励まし合っているようだった。


 過去に、『あしたのジョー』のネタにユーコ1人だけが反応しなかったシーンからは、お嬢様として育てられた背景を想像させた。しかし、そんなことはお構いなしに、自分が見た夢の情景として、夜の深い緑の海に浮かぶ描いてみせるユーコには、鈴愛が「天才や」と認めるほどの漫画家としての才能が十二分にあったことを感じさせる。そして、ユーコが原稿を描きあげ、漫画家として“第二の誕生日”を迎えた朝に告げる、「私、鈴愛好きだ」というセリフ。それは自分のことを語りたがらなかったユーコが、友情を超えた心から信頼できる存在に鈴愛がなったという、ぽろっと溢れ出た本心のように思える。


 それから3年後の1995年。ユーコの『5分待って』は連載打ち切りに。そこからユーコは、見る見るうちにすさんでいく。かつて、モスコミュールを鈴愛と物珍しそうに飲み、渋谷や青山は自分たちが行くには厳しいと話していたユーコは、現実を忘れるかのように合コンで飲み明かし、青山にオフィスとマンションを持つインテリアコーディネーターと結婚する。「結婚もできないし、子供も産めない」「漫画を描く機械だ」と自分の中で“苦”になってしまった漫画への積もり積もった本心をぶちまけるユーコに、鈴愛は「世界はわたしのものだってきっと思える。わたしが、わたしたちが秋風先生のような漫画を描いた日には、きっとそう思える。ユーコ、頑張ろ」と希望に満ちた言葉を差し伸べる。


 ユーコに「漫画を描く機械だ」と言わせてしまうほどに、漫画家の世界は孤独で、果てのない世界。だからこそ、いつか人を感動させられたらと、漫画家たちは物語に夢を抱き続ける。ユーコが神様と崇め、何度も口ずさんでいたシーナ&ザ・ロケッツの曲は「You May Dream」。漫画に未練はないと秋風に伝え、自身の部屋で『5分待って』のコミックスを握りしめ泣くユーコの涙には、一度は夢見た漫画家としての幸せを諦めること、長年自分の居場所としてあったオフィス・ティンカベールを離れることへの寂しさが見える。


 だからこそ、ユーコが鈴愛に送った言葉、「君、頑張れよ。漫画。私の分までとは言わない。私の人生は私のもの。鈴愛の人生は鈴愛のもの。みんな、自分の分しか頑張れない。でも、鈴愛は私と熱量が違う。私は鈴愛になれなかった。ずっと思ってた。鈴愛はきっと成功する。みんなの憧れるものをきっと作る」は、それぞれの幸せの在り方を肯定しながら、夢を託すでもなく、鈴愛の夢を戦友として応援しているという、最高のエールのように感じた。(渡辺彰浩)