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『天命の城』ファン・ドンヒョク監督が語る、時代劇制作への葛藤 「自由がないともどかしく感じていた」

2018年06月22日 14:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1636年、丙子の役での47日間の闘いを描いた、イ・ビョンホン×キム・ユンソクW主演映画『天命の城』が、6月22日より公開となった。本作は、王と民が生き延びることを第一に考え、清との和平交渉を主張する吏曹大臣と大儀と名誉を重んじ、最後まで戦うことを主張する礼曹大臣の対立の中で、朝鮮国王が決断を迫られていく様子を描いた時代劇だ。


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 今回リアルサウンド映画部では、『トガニ 幼き瞳の告発』『怪しい彼女』などの作品で知られ、本作で初の時代劇に挑んだファン・ドンヒョク監督にインタビュー。時代劇制作でこだわり抜いた時代考証や、自身も驚いたという俳優の演技について話を聞いた。


■「現代劇では見られない“美”をみせれくれる」


ーー監督にとって、初の時代劇となる本作ですが、始まりはどんなきっかけだったのでしょうか?


ファン・ドンヒョク:時代劇を撮ろうと思ってスタートしたわけではなくて、「原作小説を映画化しませんか」というご提案をいただき、小説を読みました。その小説に魅了されてとても印象が良かったので、映画化に踏み切ったのです。


ーー現代を描く作品と比べて、時代劇にはどんな面白さがありましたか?


ファン・ドンヒョク:最初はすごくもどかしかったんです。時代劇の場合だと、現代劇の様に登場人物たちが自由に話したり行動したりすることが制御され、現場で思いついたことを即興で入れることができません。セリフについても時代劇に使われている言葉を選んで使わなければならず、常に格式を念頭に置く必要があり、自由がないなとちょっともどかしく感じていました。ですが、格式を保つということに慣れていくうちに、すごく美しいものだなと感じるようになったんです。現代劇にはない品格がしっかりとあって、所作、言葉遣い、衣装に至るまで、現代劇では見られない“美”を見せてくれるものだなと。


ーー自身が好きだったり本作で参考にしたりした時代劇作品はありますか?


ファン・ドンヒョク:時代劇のドラマはよく観ていて、『チャングムの誓い』などは面白いなと感じていましたが、韓国の作品の中では参考にできるような水準が高いものがなかなか見つかりませんでした。ここで私が言っている水準というのは、時代考証に基づいているかどうかということで、どうしても面白さを追求するあまり、現代の人たちの目線に合わせたトレンディな時代劇を作る傾向が強まっています。言葉遣いや着ている服もカラフルなものにしたりと、目と耳を楽しませるような作りが多かったのです。考証に基づいてしっかりと作るというよりも、今の現代の基準に合わせた時代劇がすごく多いことに対して、少し残念に感じていました。本作ではそういったものは排除して、できるだけ考証に基づいて当時の姿を再現できるように、衣装や言葉遣いを本物に近づけるように作っていきました。


ーー監督が一番のこだわりを持って作ったシーンは?


ファン・ドンヒョク:キム・サンホン(キム・ユンソク)とチェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)の2人の対立構造をしっかりと見せようという部分ですね。この映画は、2人の論争で成り立っている作品なので、観ている人が退屈しないように2人の言葉を伝えるところにこだわりました。形式としては、あまり誇張された音楽や美術を使わず、何かを大げさに見せるというのをできるだけ排除して、ドキュメンタリーのようなイメージで観てもらえるようにすることを意識しました。観客にはこの時代の中に入り込んで、後ろで見守っているような気持ちで観てもらえるように、やはり時代考証は徹底しました。


■「朝鮮の歴史の中ではまさに暗黒期」


ーー劇中で描かれた1636年(仁祖14年)「丙子の役」というのは、どんな時代だと考えていますか?


ファン・ドンヒョク:朝鮮の歴史の中ではまさに暗黒期だと思います。中国大陸には明と清という二大勢力があって、それに対して朝鮮はどのように対応すればいいのかををなかなかキャッチできなかった時代です。それ以前は明に忠誠を尽くしていたので、明に対する義理を断ち切ることができず、少し愚かな判断をしてしまったことによって戦争を引き起こしてしまう。韓国の人たちにとっては一番振り返りたくない時代でもあると思います。だからこそ、いろいろと学ぶべき点はあると思いますし、たくさんの教訓が込められている時代でもあると思います。


ーー豪華俳優陣の共演も大きな見どころのひとつだと思います。


ファン・ドンヒョク:今回は大勢の役者が出演しているのですが、みんなそれぞれ重要な人物なのです。2人の主人公以外にも、5~6人くらいがそれぞれ主役として登場するシーンがあります。だからこそ、重要なキャラクターをそれぞれうまく消化できる俳優たちを必要としていました。この映画はいい俳優が出演してくれなければ制作費の出資も募れず、制作もできないとも思っていたので。なので、最初から演技も上手でスター性もある、本当に最高の俳優たちに出演してもらおうと頑張ってキャスティングを進めていたのですが、実は簡単にはいきませんでした。主役の2人にシナリオを渡したら、2人とも「ちょっと演じるのは難しいと思う」と、最初は断りの返事をもらってしまって。その後、私が一人ひとり直接会って説得して出演していただけることになったんです。


ーーキャスティングする前の俳優たちへの期待から、現場でさらに飛び越えてきた瞬間などはありましたか?


ファン・ドンヒョク:キム・ユンソクは、これまで『チェイサー』『哀しき獣』『タチャ~神の手~』などの作品で見せたように、非常に強烈な役や獣のようなワイルドな役がすごく多いイメージでした。彼にとって時代劇はほぼ初めてのことだったので、私としても期待もありつつ、これまで彼が演じてきたキャラクターがあまりにも強すぎたのと、今回朝鮮時代のソンビ(役人)を表現しなければいけなかったので少し心配もありました。ですが、実際に演じてもらったところ、本当に驚くことばかりで。特にナル(チョ・アイン)という小さな女の子と2人で登場するシーンでは、本当に温かい姿を見せてくれました。ワイルドな演技も見せてきた彼がか弱い男の姿を見せてくれ、これほど人間味のある演技をするんだと驚きでしたね。


ーー長い撮影期間に加え、真冬のかなりハードな撮影だったと思うのですが、撮影中はどういう思いでしたか?


ファン・ドンヒョク:早く撮り終えなければと思っていました。この映画は一体いつ終わるのだろう、果たしてちゃんと最後まで撮れるだろうかと……。11月から撮影を始めて、4月までかかったので、実は撮影に5カ月以上時間がかかってしまいました。ずっと撮り終えられるか、うまく撮れるか、いつ終わるかということばかり考えていました。それと、人生で初めて春が来るのが嫌だなと思っていました。この映画は、ずっと冬のシーンを撮らなければならず、寒さも雪も必要だったので、春になってしまうと撮れなかったのです。これほど春が来るのが嫌だなと思ったのは、もう人生で最初で最後だと思いますね。


ーーこの作品が現代にどのようなメッセージを与えると考えていますか?


ファン・ドンヒョク:この映画で描かれていることは、単に朝鮮の中で起きることに限りません。劇中ではいろいろな論争がなされているのですが、今を生きる私たちにとっても重ね合わせることができる内容だと思います。380年くらい前に起きた過去のこととするのではなく、例えば今、学校にいる人たち、職場に勤めている人たち、社会に属している人たちは、皆それぞれなんらかのジレンマを抱えていると思うのです。屈辱的だけれども今を堪え忍んで未来に繋げたほうがいいのか、耐えしのぐことはせず、自らの自尊心や信念を守るために声を上げていったほうがいいのか。それらの選択も迫られると思います。自分がこういう状況に立ち会ったとき、どういう選択をするだろうかを考えながら観てもらえたら嬉しいです。また、アメリカやヨーロッパの映画祭などでの感想を聞くと、「どういう組織にいても、キム・リュウ(ヨンイジョン・領義政)みたいな人いますよね」という意見が非常に多かったんです(笑)。きっと、皆さんの周りにも絶対に彼に似た人がいると思うので、どこにいるかな?と探してみるのも面白いと思います。


(大和田茉椰)