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カニエのTシャツはなぜ即完売する? 海外アーティストのマーチャンダイズ人気の背景

2018年06月22日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 キッド・カディとカニエ・ウェストが、コラボアルバム『Kids See Ghosts』のリリースに先駆けて発売したマーチャンダイズが、即完売した。今回発売されたのは、コーチジャケット、フーディ、Tシャツの3つで、ヴァージル・アブローが手がけるブランド「Off-White™」と、現代アーティストの村上隆によるコラボアイテムだったことも、人気に拍車をかけたようだ。


参考:チャイルディッシュ・ガンビーノ、カニエ・ウエスト……ラップで“世の中を揺さぶる”新作4選


 近年、海外アーティストによるマーチャンダイズの人気は高まっており、日本でも熱心なコレクターは少なくない。カニエ・ウェストのような有名アーティストのマーチャンダイズとなれば、プレミアが付いて高額になることも珍しくない状況である。自らもお気に入りのアーティストのマーチャンダイズをよく購入するという音楽ジャーナリストの宇野維正氏に、このムーブメントの背景を聞いた。


「CDが売れなくなって以降、アーティストの収入の柱は興行とストリーミング、そしてマーチャンダイズへと移り変わり、音楽業界は再び活況を呈するようになりました。そんな中、近年は従来のマーチャンダイズの域を超えた展開が目立っています。


 ひとつは、アーティストがスポーツブランドやファストファッションブランドと契約するケース。カニエ・ウェストがadidasとコラボしたり、ケンドリック・ラマーがNikeとコラボしているのがこれに当たります。日本では、安室奈美恵とH&Mがコラボしたのが記憶に新しいところです。こうしたコラボは、アーティストにとっては契約金が入りますし、企業にとってはブランドイメージの向上に繋がります。ファンにとっても、比較的安価に商品を購入できるのが嬉しいところです。


 一方で、今回のキッド・カディとカニエ・ウェストのケースは、そのような展開とは少々異なります。今回、コラボしているOff-White™はハイブランドで、その商品はファッションアイテムとしても価値が高いものです。通常、スポーツブランドと契約している場合、ほかのスポーツブランドと二重に契約することはできないものですが、adidasとOff-White™は競合関係にないため、カニエ・ウェストはこのような展開ができたのでしょう。本当に選ばれたアーティストしかできない方法ではありますが、こうしたマーチャンダイズは人気が高く、プレミアが付くこともあります」


 また、日本では通販やライブ会場でTシャツなどの販売を行うのが一般的だが、海外アーティストは期間限定のポップアップショップで販売を行うこともあるという。


「アーティストのポップアップショップにはファンによる行列ができることも多く、それも含めて宣伝になるため、有効なPR戦略としても認知されています。また、ホームページなどで販売されるフーディーやTシャツにはダウンロードコードが付いていて、いわば“おまけ”として音源が扱われているケースも増えてきています。こうした事例は、アーティストが販売するフィジカルの商品が、すでにCDやレコードではなくなっていることを示していると言えるでしょう」


 さらに、アーティストによるマーチャンダイズの人気の高まりは、ここ数年のファッションの変化とも連動していると、宇野氏は指摘する。


「ここ10年くらいは、いわゆるノームコアと呼ばれる、ごく普通のシンプルな洋服をクールに着こなすのがファッション界における主流のスタイルでしたが、Instagramが流行して以降、変化が生まれてきたように思います。“インスタ映え”を考慮した場合、ノームコアではあまりパッとせず、それよりもわかりやすく“何を着ているのか”を見せるファッションが再び盛り上がってきた印象です。ブランドロゴを前面に出したアイテムの流行はその最たるもので、GUCCIなどの老舗ブランドもそれを意識した路線変更で近年売り上げを大きく伸ばしてます。中国でSupremeが大流行しているのも、ブランドロゴの力でしょう。そして、わかりやすくアーティストの名前やアルバムジャケットをプリントしたフーディーやTシャツも、“何を着ているのか”を見せる昨今のファッションの傾向と合致しています」


 日本のアーティストによるマーチャンダイズも、企業とのコラボなどの幅広い展開をすることで、ファッションアイテムとしての価値が高まる可能性があるかもしれない。(松田広宣)