6月16~17日に、フランスのサルト・サーキットで開催された第86回ル・マン24時間耐久レース。このレースで、記念すべき初優勝を飾ったTOYOTA GAZOO Racingの中嶋一貴と、2位に入った7号車の小林可夢偉が6月21日、メディア向けの報告会に出席したが、ここでフィニッシュ時の“秘話”が語られた。
今季のル・マン24時間では、LMP1のライバル勢に大きなマージンを築き、終盤トラブルを警戒しながらチェッカーに向けて周回を重ねていった2台のトヨタTS050ハイブリッド。トップの8号車のアンカーは一貴、2位の7号車のドライバーは可夢偉が務めた。
7号車はレース序盤からセンサーのトラブルを抱えており、8号車とのマージンもついていたため、フィニッシュに向け可夢偉は「一貴のうしろでチェッカーをしっかり受けることと、8号車に何かあったときにバックアップすること、そして“記念撮影”をしっかりやるつもりでいた」と切り替えていく。
ル・マン24時間をはじめとした耐久レースでは、2番手以降とある程度の差が開いていた場合、優勝したマシンとチームメイトが並んでチェッカーを受ける、“デイトナフィニッシュ”を飾るのは良く見られる光景。かつてデイトナ24時間でフェラーリが並んでチェッカーを受けたのが語源で、その車両の強さを大きく世界中にアピールできる。可夢偉の言う“記念撮影”とはこれのことだ。
チェッカーの数周前から8号車の背後につけていた可夢偉は、この日のメディア向け説明会で、この時の状況について「最後、急に減速するのは良くないらしいんですが、ファイナルラップの中嶋さんが、ポルシェコーナーくらいからゆっくり走ってくれたらいいのに、4台くらい一気に抜いていってしまった」と“秘話”を明かしてくれた。
「『行く必要ないだろう!』ってくらいの勢いで行ってしまった。僕、無線で慌ててピットに聞きましたもん」と一貴が勢いよく周回遅れをかわしていった状況を語る可夢偉。
「最終ラップまでとことんアグレッシブにいった中嶋さんを、アタフタしながら追いかけてチェッカーを受けたんですが、気づいたらうしろに(GTEクラスの)フェラーリとかがわんさかいて、『よく中嶋さんやってくれたな』というのが最後の気持ちです(笑)」
デイトナフィニッシュは、まわりにクルマが何もいない方が写真うつりとしてはベター。本来トヨタの2台としては、うしろについていて欲しくはなかったのだが、ラップダウンにされたマシンたちも、首位のマシンの後方につけてチェッカーを受ければ、もう1周こなさなくても済む。そのためあの構図になったのだ。ただ、一貴がアグレッシブに行かなければ、うしろはキレイだった可能性もあるかもしれない。
一方、「ホントは無線で冗談を言おうと思っていましたし、チームもそれを期待していたらしいんですが(笑)、その余裕はなく、チェッカーを受けた後も気の利いたことは言えませんでしたね。良い意味で集中していたんだと思います」とファイナルラップの状況を思い出す一貴だったが、可夢偉の指摘に「まわりの人たちが減速したんだよ」と今度は一貴がアタフタ。
「なんせ今までチェッカー受けたことないんで(苦笑)。どうしたらいいのか分からなくて」と一貴はこれまでの苦労を交えつつ答えたが、ウイナーとなった今だから笑顔で交わせる会話だろう。
ふたりのドタバタ(?)なデイトナフィニッシュだったが、最後は「ピットでちょっとヒヤっとしましたが、ふたりのコンビネーションのおかげでマーケティング的にはいい写真が撮れました(笑)」と北澤重久GRマーケティング部長が語るとおり、マーケティング面でも記念すべき写真がバッチリ撮れたようだ。