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5人の女性と5人のアイドル。ドルオタ描く『婚外恋愛に似たもの』がドラマ化

2018年06月21日 13:01  CINRA.NET

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ドラマ『婚外恋愛に似たもの』メインビジュアル ©エイベックス通信放送
■栗山千明主演でドラマ化される小説『婚外恋愛に似たもの』

宮木あや子の小説『婚外恋愛に似たもの』が実写ドラマ化され、6月22日からdTVで配信される。

題材が「アイドルオタク」であること、そしてそのオタクたちを栗山千明、安達祐実、江口のりこといった人気女優たちが演じることから、実写化決定の報道時からSNSなどで大きな話題を呼んでいた本作。

原作は安達祐実主演で映画化された『花宵道中』や、石原さとみ主演でドラマ化された『校閲ガール』シリーズなどで知られる宮木あや子による2012年刊行の同名小説。容姿、収入、境遇などバックグラウンドがまるで異なる5人の女性が、35歳であること、そしてアイドルグループ「スノーホワイツ」のファンであるという共通点から出会い、社会的な「ヒエラルキー」を超えて奇妙な友情を育む、というあらすじだ。

主要キャラクターは、テレビ局勤務の夫と2人で暮らすセレブな妻・桜井、問題ばかり起こす中学生の息子とアルバイトの夫と千葉のアパートで暮らしながら、スーパーのパートで生計のやりくりをする益子、美貌と家柄、収入など全てを手にする独身エリート・隅谷、「普通が一番」を信条に生きてきた専業主婦の山田、「デブでブス」(本書より)の落ち目のBL作家・片岡の5人(ドラマ版では益子はシングルマザーという設定に変更されている)。

■アイドルを介して「ヒエラルキー」を超えて繋がった5人の35歳の女性たち

本書は5人それぞれが語り手となった5章と、初刊時に書き下ろされたという後日談で構成される。彼女たちは赤裸々に本音をぶちまけ、互いを容姿、収入、婚姻ステータスなどの要素でジャッジし合い、自分をヒエラレルキーの中に位置づける。悪意がデフォルメされ過ぎているようにも感じて、果たしてこれが「35歳女性のリアル」なのかというと疑問が残るが、「アイドルオタク」としての彼女たちの悲哀の描写は真に迫るものがある。

桜井、益子、隅谷、山田、片岡は、ディセンバーズという事務所に所属する5人組グループ「スノーホワイツ」の熱狂的ファンだ。グループといってもスノーホワイツはデビューしておらず、事務所の未デビュー組を指す「ノベンバーズ」の一員であり、すでにデビューしている人気グループ「INAZUMA」のバックダンサーなどを務めながら、ノベンバーズ全体の公演に出たりしていつ来るとも来ないともわからないデビューの機会を待っている。ジャニーズ事務所におけるジャニーズJr.と同じ存在だ。

■「推しメン」の愛し方に満たされない心が投映される

メインキャラクターの5人は、女性であること、スノーホワイツのファンであること、35歳であることに加えてもう1つの共通点がある。それは全員どこか満たされない気持ちを抱えていることだ。彼女たちは全員スノーホワイツの中での「推しメン」が異なるが、推しへの愛情の寄せ方にもそれぞれの不満が裏返しとなって投影されているようで面白い。

例えばドラマ版で栗山千明が演じるセレブ妻・桜井は、美貌も頭脳も何においても上から3番目で、決して1番にはなれない人生を送ってきた、というコンプレックスを抱えている(それでも3番目なのだからずば抜けて美しく、聡明なのだが)。そして夫との関係も冷え切っており、夫は浮気をしている。

彼女が「何かを埋めるように」買い物をしていた時に出会ったのが「みらきゅん」ことスノーホワイツのメンバー・神田みらい。夫にも愛されず、自分自身をも愛することもできなくなった彼女にとって「神田君は、持てる愛のすべてを注ぐに相応しい、完璧な存在だった。世界にこれほど美しい少年がいるのかと、彼に出会った夜に検索した動画を見ながら震えた」(P.28、29)。

「どうして出会ってしまったんだろう。あんな完璧な人に。そしてどうして私はこんなに完璧じゃないんだろう」(P.29)と落ち込みながら、自分がなりたい「完璧」になれなかったからこそ、完璧な存在である「みらきゅん」にひたむきな愛を向ける。

反抗期の息子に嫌気がさしている益子もまた、グループ最年少の「ハッチ」こと八王子を「理想の息子」「つねづね夢見ていた息子」として愛でる。美貌、収入、頭脳すべてを手にし、独身を貫く隅谷は11年間「チカちゃん」こと高柳主税に恋し続け、脳内では結婚している。

■アイドルファンの数だけ「推しと私」の物語がある

読者はスノーホワイツのメンバーのキャラクターを、彼女たちの言葉を通してしか知ることができない。「完璧なみらきゅん」も「理想の息子ハッチ」も本当は完璧でないかもしれないし、素行不良ないまどきの10代かもしれない。スノーホワイツは物語の中に実在するが、桜井の目に映る「みらきゅん」や益子が見る「ハッチ」は彼女たちの理想と現実のひずみが生み出した偶像であるとも言える。

現実に期待しない彼女たちは、現実での「足りなさ」に駆り立てられるようにアイドルに狂おしいほどの愛情を注ぐ。BL作家の片岡はスノーホワイツのコンサートに行き、推しである「マッシュ」こと大船眞秀の姿を初めて生で観た時、次のような感想を抱く。

「夢みたいだと思った。そして、ずっとマッシュを見ていたらどうしようもなく胸が苦しくなった。あのとき、あの写真の中で笑っていたマッシュに、翳があると勝手に思って縋った。そういう理想を私は彼に押し付けていた。でも今、マッシュは光の中で眩しいくらいに輝いている。翳なんてどこにも見当たらない」。(P.197)

もちろん一般的にすべてのアイドルファンがここまで内なる混沌を抱えながらファン活動を行なっているわけではないだろう。しかし本書を読むとアイドルファンの数だけ「推しと私」の物語があり、人は落ちるべくして「アイドル」という沼に落ちるのだと感じさせられる。

■ドラマ版にはスノーホワイツも登場。劇中ユニットとして活動も

ドラマ版ではどこまで映像化されるのか、またどれくらい原作に忠実に映像化されるのかはわからないが、原作の最後に彼女たちはアイドルファンとして避けては通れないある出来事を経験する。自分たちの現実は変わらなくても、アイドルは日々成長していく。その事実に5人はどう向き合うのか。ドラマ版ではどんな結論が導かれるのか期待したい。

また原作では5人の視点からのみ語られるスノーホワイツのメンバーがどのように登場するのかも楽しみだ。演じるのは岩岡徹(Da-iCE)、和田颯(Da-iCE)、太田将熙、元α‐X'sの増子敦貴、聖貴の5人で、彼らはドラマの配信期間限定で実際のユニットとして活動することも発表されている。

宮木あや子の小説『婚外恋愛に似たもの』は光文社文庫から発売中。ドラマ版の配信は6月22日からdTVでスタートする。