2018年06月21日 09:42 弁護士ドットコム
米ニューヨーク州の夫婦がニートの30歳息子に自宅からの退去を求めた訴訟で、州裁判所は5月、息子に家を出て行くよう命じた。訴えられた息子は、マイケル・ロトンドさん。報道によると、8年前から両親の家に住んでいたが、仕事もせず、家計にお金を入れず、家事も手伝わなかったという。
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両親はこれまで、5回にわたってマイケルさんに対し、仕事を見つけて家を出るよう通知を出してきた。今年2月に出された通知の一つには、「両親で話し合った結果、すぐにあなたはこの家から出なくてはならないという結論に至りました。あなたには14日間の猶予を与えます。あなたはこの家に戻ることは許されません」とあった。
しかし、これらの通知をマイケルさんが無視したため、両親が異例の提訴。4カ月に渡る裁判の末、裁判所は、マイケルさんに親元を離れるよう命じた。ABCによると、このニュースが報道されてから、マイケルさんにピザの全国チェーン店から仕事のオファーが来たという。
ニートの息子を独り立ちさせたいという親心も感じる裁判だが、日本ではニートの息子を自立のために自宅から退去させることは可能なのだろうか。小田紗織弁護士に聞いた。
成人にもかかわらず、家計にお金を入れず、家事もしない子どもを、親は自宅で扶養する義務はある?
「民法730条は『直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。』と定め、民法877条1項は『直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。』と定めています。つまり、扶養の対象は、未成年か成年か関係がないので、成人した子は『直系血族』として扶養義務を負うことになります。
ただ、その扶養義務の程度や方法について争いがある場合は家庭裁判所が『扶養権利者の需要、扶養権利者の資力その他一切の事情を考慮して』定めることになります(民法879条)。
ですので、親は成人した子でも扶養義務を負う場合がありますが、必ずしも子どもの頃のような方法、程度の扶養をする必要があるとは限らず、親の収入などの資力でまずは親が生活できることを前提に可能な範囲で扶養していくということになります。
精神的な病気があり仕事ができない成人した息子に対して、母親と離婚して別居する父親に月額5万円の扶養料の支払うよう認めた審判例もあります。ただ、心身ともに健康で、働けるのに働かず家計にお金を入れず、家事もしない子に対しては扶養義務は負わないと認められることもあるでしょう」
扶養義務を負わないとした場合、自宅から子どもを退去させることは可能だろうか?
「参考になる裁判例があるので紹介しましょう。
父は、妻、子Aと子Bと共に自身が買った家で同居していたが、家を出て別居をしました。しかし、父は後に身体が不自由になり家を売却して金策する必要が出てきたために、別居から20年ほどして妻、子2人に家からの退去を求めたところ、妻とAは退去に応じたが、Bが拒んだためB(成人)を相手に家の明け渡しを請求しました。
裁判所は、父が家を出た時点で父と妻子との間で建物の黙示の使用貸借契約(暗黙の了解で無償で使用して良いという契約)が成立し、その目的は、Bとの間ではB自身が十分安定した他の住居を獲得するまでの居住の趣旨であるとし、Bは一応仕事をしており他に住居を見つける機会があったことや、父が妻子に対して家からの退去に対して相当額の支払を提示していること、父の病状などを考慮して、使用貸借契約は父により解約され終了したとして、父の明け渡し請求を認めました。
この事例を参考にすると、手続きとしては、使用貸借契約の解約を子に伝え、出て行くように求め、子が任意に出て行かないときには、訴訟をするということになります。
ただ、この事例は、Bは裁判当時は一応仕事をしており、また、父は家の明け渡しと引き換えにそれなりの金額を支払うことを提示しているという事案です」
Bがニートだった場合はどうなる?
「あくまでも私の予想ですが、Bがニートであり、父から当面の生活費も持たされず、出て行け、となれば、日本の裁判では子どものころのような生活を維持させる必要はないにせよ、住める家があるのなら住むぐらいはさせてはどうか、という話しになるのではないでしょうか。
あるいは、Bが平穏に住むならともかく、親に暴力を振るう、家を破壊する、ごみ屋敷にする、といった居住目的を逸脱するような使用をするときは、出て行くように認められる可能性もあります。
アメリカは、高校を卒業すれば自宅を出て当たり前という文化的な背景があるようですが、日本はむしろ成人しても結婚しない限りはいつまでも親と同居するのも珍しくない、という文化です。
ニートを抱える親御さんにとっては大変ですが、アメリカの裁判のようにはうまくいかないかと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小田 紗織(おだ・さおり)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/