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長瀬智也、型破りなキャラクターのイメージを覆す 『空飛ぶタイヤ』で見せた“大人の熱さ”

2018年06月21日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在公開中の映画『空飛ぶタイヤ』で主演を務めるTOKIOの長瀬智也の演技が、これまでの長瀬のパブリックイメージを保ちつつも、グッと“大人”に寄せた魅力として、とても良い味を出している。


 長瀬が演じるのは、トラックの脱輪事故による死亡事故を起こしてしまった運送業者社長・赤松徳郎。彼は、一度は若手整備士を疑ってしまったものの、しっかりとした仕事ぶりを目の当たりにし「自分たちには非がない」という信念のもと、事実究明に奔走する。しかし赤松の前には大企業の圧力や見えない力が立ちはだかり、どんどんと窮地に追いやられてしまうーー。


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 大企業VS中小企業という構図、そして中小企業の熱血社長が、窮地に立たされながらも自分たちの信じる正義のために熱い思いをたぎらせるという展開は、原作者・池井戸潤作品の得意技だ。そして、こうしたやや不器用ながらも人のよさとまっすぐな熱さで正義にまい進するという役柄は、これまでの長瀬が得意としてきたキャラクターと合致する。


 当然のことながら、多くの視聴者は、長瀬の持つ、実直で熱い、カタルシスが得られるような圧倒的な存在感を持った、正義感溢れる社長像を期待していたのかもしれないが、実際、長瀬が演じた赤松社長は、熱い思いはありつつも、できる限りそういった感情は内に秘め、押し殺すような演技をみせている。


 そこには、「自分たちに非がない」という信念に基づいて行動しているものの、死亡事故の加害者という立場であることを常に意識しているキャラクター造形なのだろう。これまでの爆発的な熱さを持つ役柄も、長瀬のはまり役であるが、本作の赤松社長のような、耐え忍ぶ“大人の熱さ”というのも、実に見どころがある。特に悲しみと怒りに苦悩する渋い表情がワンショットで映される場面は、単純に感情を爆発させるよりも、圧倒的な存在感と迫力が伝わってくる。


 長瀬といえば、1996年に放送されたドラマ『白線流し』(フジテレビ系)の大河内渉のような、非常に繊細なキャラクターを演じることもあるが、前述したように、まっすぐな熱さをベースにした、型破りなキャラクターのイメージが強い。


 例えば、2000年に放送された『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)のマコトや、『タイガ―&ドラゴン』(TBS系、2005年)の山崎虎児、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(2006年)の榊真喜男など、バカで単純で暴れん坊でありつつも、ハートフルな役柄を演じたときの長瀬はとにかく魅力的だった。2013年に放送されたドラマ『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)もこうした流れを汲んだ主人公だった。


 本作の赤松社長にも、抑えがきかないほどの、ある意味で大げさとも思えるような熱血漢を想像する人も多かったかもしれない。しかし、前述したように、長瀬演じる赤松社長は、かなり感情を抑えた、大人の戦い方をみせる。


 この点に関して、原作者の池井戸潤氏は、筆者が以前インタビューした際に「主人公に対して、小説では外見を細かく書いていないので、どなたがやっても違和感がない」と前置きしつつ、長瀬の演技を「運送業者の経営者として全く違和感がない」と地に足のついた演技を評価していた。


 『池袋ウエストゲートパーク』のとき22歳だった長瀬は、本作では39歳になっている。地に足のついた“大人”を演じることは、ある意味で当たり前であり、特筆すべき点ではないだろう。しかし本作で長瀬が立体化した赤松社長は、物事が前に進まないときや、被害者家族から鋭利な刃物で切られるような鋭い指摘に対して、内から沸きだす熱い思いを体内で爆発させ、相手にぶつけるのではなく、自分自身に昇華させる。分かりやすいカタルシスが得られるわけではないので、やや物足りなく感じるかもしれないが、のちのちジンワリと心に残る、“大人の熱さ”をみせてくれている。


 池井戸氏が述べていたように、まさに原作の赤松社長には適役のように感じる長瀬の演技だ。


(磯部正和)