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ワールドカップは4年に1度やってくる映画興行の敵?

2018年06月20日 18:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは是枝裕和監督の『万引き家族』が土日2日間で動員27万人、興収3億4400万円をあげて2週連続1位。前週比も動員、興収共に約77%と高水準で推移していてロングヒットの兆しを見せている。先週末の時点で累計興収は約17億円。現時点での2018年度実写日本映画ナンバーワン作品は『DESTINY 鎌倉ものがたり』(2017年12月公開)の約32億円だが、十分に射程圏内に捕えたと言っていいだろう。初登場2位は本木克英監督の『空飛ぶタイヤ』。土日2日間で動員21万人、興収2億6600万円とまずまずのスタートをきったが、ウィークデイに入ってからは1位『万引き家族』に引き離されているのが気になる。


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 もともとゴールデンウィーク興行と夏休み興行に挟まれた6月は映画興行にとって閑散期。それに加えて、今年は4年に一度のワールドカップ開催年。サッカーファンにとってワールドカップは6月中旬から7月中旬にかけての約1か月の一大イベントだが、日本人の多くにとっては自国代表の初戦から最終戦までが関心のピークというのが実情だろう。今回は、これまでのワールドカップの期間の興行を振り返ってみて、そこに何か法則があるのかを探ってみたい。


 まず4年前の2014年ブラジル大会。奇しくも、その期間に公開されて最も健闘した作品は『空飛ぶタイヤ』と同じ松竹配給、元木克英監督の『超高速!参勤交代』(6月21日公開)。同年の6月公開作品の中でトップとなる興収15.5億をあげて、年間26位という記録を残している。観客の年齢層が比較的高いシリーズだけに、ワールドカップの影響をあまり受けなかったのかもしれない。


 8年前の2010年南アフリカ大会は、これまで日本代表が自国開催以外でグループリーグを突破した唯一の大会。したがって日本代表が試合をした期間も6月14日(初戦のカメルーン戦)から6月29日(4試合目のパラグアイ戦)と長かったが、同期間に公開された作品で年間50位以内に入っている作品は1本もない。期間を6月いっぱいに広げても、初戦の直前となる6月12日に公開された『アイアンマン2』の興収12億、年間41位が最高。次作『アイアンマン3』(2013年4月26日公開)では倍増以上となる25.7億を稼ぎ出した同シリーズだが、2作目での停滞の理由の一つにはワールドカップがあった!?


 12年前の2006年ドイツ大会の開催中には『デスノート 前編』(6月17日公開)が興収28.5億円、年間18位のヒット。このあたりで、「ワールドカップ期間中には映画はヒットしない」という法則はかなり怪しくなってくるのだが、極めつけは日本代表がワールドカップに初めて出場した1998年のフランス大会。実に視聴率60.2%を叩き出した第2戦クロアチア戦の当日に公開された『ディープ・インパクト』が、年間3位となる興収47.2億円の大ヒットを飛ばしている。


 「日本中が熱狂に包まれた」などと言われがちな自国開催の2002年でさえ、『アイ・アム・サム』(6月8日公開。興収34.9億円。年間9位)、『模倣犯』(6月8日公開。興収16.1億円。年間29位)と映画館はそれなりに賑わっていた。また、同時期の公開作としては、ワールドカップを避けるのではなく、逆に便乗を狙ってワールドカップ開催直前に公開された『少林サッカー』(6月1日公開。興収28億円。年間13位)のサプライズ・ヒットも忘れられない。映画興行はそのくらいのヤマっ気があったほうがおもしろい。


 6月19日の初戦で強豪コロンビアを下すという番狂わせを演じた今年のロシア大会の日本代表。これで、少なくとも第3戦の6月28日ポーランド戦が消化試合になることはなくなった。場合によっては、7月2日か3日におこなわれる決勝トーナメント第1戦、はたまた7月6日か7日におこなわれる準々決勝まで……というのはいくらなんでもまだ気が早いが、ベスト16より上は前例がないだけに、映画関係者は気が気じゃないだろう。(宇野維正)