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AIがパフォーマンスとクリエイティブで表現した“和”と“洋” 最新ツアー映像作品を観て

2018年06月20日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年6月に通算11作目となるオリジナルアルバム『和と洋』をリリースしたAI。日本人の父親と、イタリア系アメリカ人のハーフである母親との間にロサンゼルスで生まれ、4歳の時に鹿児島に移住(周囲には日本舞踊や三味線の先生がいたそうだ)、中学卒業後単身渡米し、ゴスペルやR&B、ヒップホップやダンスにどっぷりつかった高校生活を送る……というAIの生い立ちや音楽的バックボーンをそのまま反映したかのような、まさにタイトル通り“和と洋”な内容となった作品だ。バラエティに富んだゲスト陣ーー和太鼓集団・鼓童や、東北地方の民謡や民族音楽に影響を受けた楽曲を作り続けている姫神、日本語ラップシーンからJinmenusagi、そしてクリス・ブラウンやジュニア・リードなどーーも含め、その斬新さには驚かされたものである。といっても、AI本人がこのコンセプトにいきついたのは実はとても自然なことであり、彼女も決して奇を衒って作ったわけではないだろう。非常にコンセプチュアルなアルバムにもかかわらず、ナチュラルにさらりと聴かせる内容になっていることも、彼女が肩肘がらずに本作を作ったことの証明になっていると思う。


 そんな最新アルバム『和と洋』を携えて全国を回ったツアー『AI TOUR「和と洋」』。延べ4カ月、全国34公演、約75,000人を動員したこのツアーの模様が映像作品となってリリースされることとなった。アルバム同様、和洋折衷をテーマに「WA Stage」と「YO Stage」の2つのセクションで構成されたステージとなっており、その2つの要素のコントラストや有機的な融合に圧倒される内容となっている。「WA Stage」では和太鼓や三味線、篠笛(しのぶえ)といった日本古来の伝統楽器を前面に押し出し、最新作から「Wonderful World feat.姫神」や「最後は必ず正義が勝つ」などを披露。特筆すべきはコーラスの女性のお母さんを舞台に上げてエモーショナルに歌った「ママへ」と、難病ALSと闘うAIの友人、ヒロさんを招いて歌った「IT’S GONNA BE ALRIGHT」。ともにAIの温かい人柄が溢れた感動的な演出となっている。


 一方「YO Stage」ではサウスヒップホップライクな「Welcome To My City~MORIAGARO」や、Jinmenusagiが登場し、AIとともにシャープなラップで観客を魅了した「WHAT I WANT」など、現行ヒップホップ/R&Bテイスト満載なステージを展開。こちらのAIもキレッキレで格好良いの一言だ。もちろん、「Story」「ハピネス」「みんながみんな英雄」といった代表曲も随所で聴くことができるし、“和”と“洋”の融合が見事になされたインタールードも見所のひとつである。また、アルバムのビジュアルプロデューサーでもあるロンドン在住の世界的デザイナー、ケイト・モロスが今作のアートワーク及び映像デザインも担当。彼女のポップでキュートなグラフィックがライブ映像に加わることで、ただ単に「ライブをパッケージ化しました」という作品とは一線を画す、非常にクリエイティブ性の高い作品となっている。そちらにも注目しながら見てほしい。


 AIのダイナミックかつエモーショナルなパフォーマンスはもちろんのこと、斬新で迫力あるステージ演出、心温まるゲストとの交流、そしてアーティスティックな映像デザインと、どこを取っても楽しめる最高の一作。個人的にもこれまでAIのライブ映像作品の中で一番の出来栄えだと思う。日本にもこんなに凄いライブパフォーマンスをするアーティストが、こんなに凄いライブ映像を作るアーティストがいるんだということを、もっともっと世に知らしめたい気持ちでいっぱいだ。(文=川口真紀)