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モーニング娘。’18、新曲は“つんく♂流ダンスミュージック”に トラップ取り入れたサウンドを分析

2018年06月20日 13:31  リアルサウンド

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 6月13日、モーニング娘。の通算65枚目、モーニング娘。’18名義では初となるCDシングル『Are you Happy?/A gonna』がリリースされた。彼女らは今年でデビュー20周年を迎え、2月には歴代のOGメンバーが参加したモーニング娘。20th名義でのミニアルバム『二十歳のモーニング娘。』を発表。この作品は2月19日付のオリコンアルバムランキングで初登場1位を記録し、アニバーサリーイヤーに華を添えた。


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 ’18名義での楽曲が発表されるのは、『二十歳のモーニング娘。』に収録された新曲「花が咲く 太陽浴びて」と「お天気の日のお祭り」以来のこと。ハロー!プロジェクト全体としては、先日夏のハロコンにゲストとして参加するOGの顔触れが発表されるなど、20周年祝福ムードが続いているが、このモーニング娘。新シングルは20年の区切りを経た新章の幕開けとも言える作品となっている。つんく♂作詞作曲の楽曲のみでシングルが構成されるのは、2015年12月リリースの『冷たい風と片思い/ENDLESS SKY/One and Only』以来、約2年半ぶり。今作でつんく♂はJ-POPの定型的フォーマットにすり寄ることなく、海外のトレンドを独特のセンスで昇華してみせている。


 モーニング娘。の楽曲は、2012年の「恋愛ハンター」「One・Two・Three」以降EDM路線が長らく続いていた。しかし、12期メンバー加入後初のシングルとなった58枚目『青春小僧が泣いている/夕暮れは雨上がり/イマココカラ』(2015年)からはデジタルプロダクション主体の方法論は継続しつつ、各曲ごとにバリエーションも見られるようになっていた。大きな要因の一つは、シャ乱Qのたいせいが泰誠名義で作曲した「今すぐ飛び込む勇気」(2015年)から本格的に解禁となった、つんく♂以外の作家による楽曲提供。一方で、つんく♂作の楽曲にも様々な試みが見られた。


 例えば、「ジェラシー ジェラシー」(2017年)では70年代ディスコ~黎明期のヒップホップが意識され、「若いんだし!」(2017年)にはトロピカルハウスの方法論が取り入れられていた。その中で、中核となっていたのがポストEDM歌謡とでも言うべきサウンドだ。シンセサイザーのリフを主体に、抑制の効いたビートの上でマイナー調のメロディを展開していくプロダクションは、「そうじゃない」(2016年)や「邪魔しないでHere We Go!」(2017年)などのシングル曲、「花が咲く 太陽浴びて」にも顕著だった。


 このポストEDM歌謡路線の特徴である、BPMの低速化、音数を絞ることによるミニマル化、歌メロを強調したソングライティングは、くしくも現EDMシーンにおける世界的な潮流と少なからずリンクしている。ゼッド、マーティン・ギャリックス、カルヴィン・ハリス、The Chainsmokers、カイゴ、マシュメロなど、ここ数年のEDMシーンを牽引してきたトップランナーたちは、昨年から今年にかけて軒並みポップ化している印象だ。以前のアッパーな作風ではなく、より叙情的なサウンドを志向し、ポップ系、R&B系シンガーとコラボしてポップソングを作る流れが主流となりつつある。


 つんく♂とモーニング娘。はそういった世界的な潮流ともリンクした楽曲を作っており、しばらくはこの路線が続くのではないかとも予想していたが、つんく♂のアーティスト性はそんな一筋縄ではいかなかった。『Are you Happy?/A gonna』の2曲は、歌謡曲的なメロディ、ポップソングのフォーマットを踏襲した歌割とは距離を置き、大胆にダンスミュージックへと振り切った方向性に突き進んでいる。どちらの楽曲も大きな参照点となっているのは、現在世界的なトレンドとなっているダンスミュージック~ヒップホップの音楽ジャンル、トラップだ。


 もともとトラップという言葉自体は90年代のアメリカ南部ヒップホップをルーツに持っているが、音楽スタイルが確立していったのは2010年代以降のこと。音楽性を特徴づけるのは、BPM60~70程度で鳴る極太のキックドラム、そのビートをさらに二倍、三倍に細かく刻んでいく甲高いハイハットとスネア、メロディックなシンセサイザーなどだ。この音楽的特徴にまず目をつけたのは、当時最盛期にあったEDMシーンのプロデューサー。彼らが確立したサウンドスタイルをさらにヒップホップ系のプロデューサーがラップシーンに落とし込むことで、トラップという音楽ジャンルは発展を遂げていった。


 このトラップの発展を踏まえると、「Are You Happy?」は2010年代初頭のEDMトラップを元にしたサウンドになっていることが理解できる。例えば、2013年にリリースされ日本でも動画サイトのネタ曲として話題になったバウアーの「Harlem Shake」は、EDMトラップを代表する曲としても有名だが、この曲を「Are You Happy?」と聴き比べれば共通点が鮮明に浮かび上がってくるはずだ。


 これまでのモーニング娘。によるEDM曲は、サウンドプロダクションの面ではEDMを踏襲しつつ、細やかなコード展開でJ-POP的なフックも保っていた。しかし、この「Are You Happy?」では、コードの展開の少ないパートが多い。Aメロに至っては、完全にワンコードで、それに呼応するように歌詞もミニマルに、同じ言葉のリフレインが多様されるようになっている。この曲の斬新さは、コード、歌詞、ビートといった様々な面で反復を軸にした、ダンスミュージック的な手法に起因するものだ。


 「Are You Happy?」がEDM/ダンスミュージックの方法論を通してトラップを解釈しているのに対して、「A Gonna」はもっと現代的なヒップホップ/R&B系のトラップへの意識が感じられる。特にイントロからAメロで展開されるサウンドの構成は、上述したトラップの特徴をほぼ網羅している。


 また、この曲は「A Gonna」と書いて関西弁の「えーがな」と読ませるタイトル、2018年の日本を予見したような〈責任者が無いならば 組織である意味がない〉という歌詞など、つんく♂独自の言葉のセンスも光っている。今もっとも旬なトレンドであるトラップを、つんく♂流・モーニング娘。流に解釈した一曲と言っていいだろう。


 つんく♂の独特な作家性がかなり大胆に打ち出されたこの2曲が、以前のEDM路線のように今後のモーニング娘。の方向性を決定づけるものなのかはまだ分からない。ただ、ここから20周年以降の“新生モーニング娘。”が始まるのは間違いないだろう。これまで一部のメンバーに極端に偏っていた歌割が、ダンスミュージックの匿名性の下でかなり平等にならされているのも象徴的だ。これまでの歴史を踏まえつつ、新たに引かれたスタートラインとも言うべき作品がこの『Are you Happy?/A gonna』と言えるのではないだろうか。(青山晃大)