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カナダGPで大きな前進、ガスリーも新型パワーユニットに好印象/トロロッソ・ホンダF1コラム

2018年06月19日 12:31  AUTOSPORT web

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2018年F1第7戦カナダGP ピエール・ガスリー
シーズン開幕前から「一歩、一歩、前へ進んできます」と言い続けてきたトロロッソ・ホンダは、カナダGPで大きな一歩を踏み出した。

 それはもちろんホンダの“スペック2”パワーユニット投入だ。数値で言えば「20kW(約27馬力)に届かないくらい」(ホンダ関係者)の出力アップであり、ラップタイムにして0.4秒弱のゲインということになる。しかしその数値以上にドライバーたちはスペック2の威力を体感し、高く評価した。

 ピエール・ガスリーは旧型から新型への交換で19番グリッドからのスタートを強いられたが、フォース・インディアとハースをコース上で抜いて11位までポジションアップを果たした。


「全体的なパフォーマンスも向上しているし、バッテリー(デプロイメント)やエネルギーマネジメントも良くなっている。本当にすごく良いステップだったと思うよ。旧型仕様のパワーユニットで走っていたら、例え16番グリッドからスタートしていてもここまでポジションを挽回することはできなかったと思う」

 実は、同じ20kWの出力アップでもラップタイムやバトルでの競り合いに同じような効果を発揮するとは限らない。ピークパワーが20kW向上しても、低速トルクが細ければその効果を発揮できる時間は少なくなってしまう。ドライバビリティが悪ければ、加速の時点で後れを取ってしまう。

 昨年レッドブルのリザーブドライバーとしてルノーが投入するアップデートの数値とコース上での効果の違いを目の当たりにしてきたガスリーは、そのことを良く知っていた。だから今回のアップデートに対しても実際に走り出してみるまでは慎重な姿勢を見せていた。

「過去数年間、レッドブルのリザーブドライバーとして見てきた経験からいうと、パワーユニットの何kW上がったというような数字はそのままコース上の速さに直結しないことも少なくなかったんだ。だから僕は紙の上の数字にあまり踊らされすぎたくないし、慎重なんだ。実際に走ってみてそのデータ上での純粋な数字が確認できて初めて、クリアな答えが得られると思う」

 実際に走ってみてガスリーはその効果を実感したが、モナコとカナダではコース特性が全く異なり、マシンの空力パッケージも全く異なるだけに、新旧の差がはっきりと分かるというものではなかった。しかし土曜フリー走行3回目でMGU-Hにトラブルが発生し旧型ICEで予選を戦ったことで、皮肉なことに同じサーキットと同じ空力パッケージでパワーユニットの新旧比較ができることになった。


 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、ピークパワーの向上だけがスペック2の威力ではないと説明する。

「全体的に燃焼が良くなったのでスタート時のトルクも安定して良くなっていますし、ドライバビリティも最初から良かったですし。ドライバビリティは今までの作り込みを入れたりダイナモ上で確認してから持って来るんですが、普通は新しいものを持ってくると最初はブスブスいうっていうこともあるんですけど、今回は最初から良かったしスタート練習でも安定してトルクが出ているというところはありましたね。ですからピークパワーだけでなく全体的に燃焼クオリティが良くなったというところが、実走に投入して確認できたと言えます」

 まさに、ガスリーが実走前に気にしていた部分が良くなっていた。

 予選でその差をはっきりと体感したガスリーは、新型への再交換を懇願した。


 ホンダはトラブル発生直後はその詳細を分析している時間がなかったため「実績のあるもの」ということで旧型に換装したが、次戦フランスがガスリーの地元ということもあってここで新品を再投入しペナルティを消化しておくことを決断した。これが正解だった。

 スペック2を使って予選で12番グリッドを手にしていたブレンドン・ハートレーが、1周目にランス・ストロールと絡んでリタイアしてしまったのは残念だった。ハートレーのポジション取りを非難する声もあったが、ストロールと僚友セルゲイ・シロトキンの車載映像を見比べてみれば、ターン5でストロールは明らかにスロットル開度が高く、オーバースピードでリヤが流れてアウト側にいたハートレーを巻き込んでしまっているだけに、ハートレーにこれを予測しろというのは無理だ。

 いずれにしても入賞圏を争うチャンスを失ってしまったことに変わりはなく、思うように結果の出ていないドライバーに対して必要以上にシート喪失のプレッシャーを掛けることがチームにとって本当にプラスに働いているのかどうか、トロロッソのドライバー人事権を持つレッドブル首脳陣は再考すべきだろう。


 バーレーンと似たようなストップ&ゴーの特性を持つジル・ビルヌーブ・サーキットだったが、トロロッソのマシンは決して最高の仕上がりというわけではなかった。リヤのスタビリティが不足し、ブレーキングでも立ち上がりでもドライバーたちはやや苦労しながらの走行を強いられていた。

 それでもバックストレートでフォース・インディアやハースをオーバーテイクすることができたのは、やはりスペック2の威力があったからだ。

「このパワーユニットのアップデートが今後一貫してトップ10に入るチャンスをもたらしてくれると思っているよ」とガスリーはこれでマシンパッケージの底上げがなされると笑顔を見せた。

 しかしホンダとしてはまだまだこれで満足するつもりはない。

「HRD さくら(栃木県の研究所)で開発を一歩一歩積み重ねてきて、それが今回サーキットでの一歩につながったということです。でも急にドンとパワーアップするというようなことはありませんから、今回は『ちょっとは進歩は見られたね』という感じではないかと思います。2~3戦いろんなサーキットを走って確実にライバルを超えたなと思ったら、その時はお話しできると思います。でも(ルノーに)追い付いたところで(メルセデスAMGやフェラーリ)との並びの中ではどうってことないですし話になりませんから、まだまだ追い付いていかなければいけません」

 一歩一歩前へ進むトロロッソ・ホンダのシーズンは、まだ3分の1が終わったところに過ぎない。残り3分の2でどこまでいけるのか、次の一歩が楽しみだ。