第86回ル・マン24時間耐久レースは6月17日、フィニッシュを迎え、TOYOTA GAZOO Racingのセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロンソ組8号車トヨタTS050ハイブリッドが優勝を飾った。日本人として3回目のル・マンウイナーとなり、日本車を駆っての初優勝を成し遂げた。レース後、一貴は「『ホッとした』というのが正直な気持ちですね」と感想を語った。
2012年、トヨタがハイブリッドシステムを持ち込むとともに、ル・マン24時間に参戦を開始した一貴。初年度は接触やリタイアにも見舞われたほか、世界中に衝撃を与えた2016年には、トップを快走しながら残り3分でストップ。悲劇の中心となった。
迎えた2018年のレースは、LMP1のワークスはトヨタのみ。優位にレースを進めたが、それでも何が起きるのか分からないのがル・マン。特に一貴は、その恐ろしさを誰よりも知っているドライバーだ。
途中、ペナルティ等もあり7号車に先行されるシーンもあったものの、7号車がトラブルを抱えていたこともあり、ジワジワとその差を詰めていく。
「バランスはその前から良かったですし、クルマは24時間、非常に良い状態で走れていたと思います。スピードという面では僕たちの方が余裕があったのかな、と思います。それがフェルナンド(アロンソ)の夜のスティントから、僕のスティントに継続して最後まで繋げていけたんだと思います」と一貴は振り返る。
7号車との差は1分以上に広がり、迎えた最終スティント。担当したのは一貴だ。「最後まで無事にクルマをもっていかなければならない1時間半は長かったですね……」というスティントで、一貴は淡々と周回を重ねていく。そして後方からは、“デイトナフィニッシュ”を決めるべく可夢偉の7号車が接近。2台はランデブー走行を続けた。
最後は「考えていたのは、とにかく安全第一です(笑)」と一貴は振り返る。
「ホントそれだけですね。乗る前はいろいろ考えてましたけど、乗ってからは意外と何も考えることなく、無線で冗談言おうかな……とか思っていましたけど(笑)、そういうことも飛んでいましたね。良い意味でやることに集中できていたと思います」
■「ちょっと“ツイて”いたのが僕たち」
そして迎えたチェッカー。「まずチェッカーを受けられたことにホッとしましたし、それがワン・ツーという最高の形で、チームとして理想としている形でできたことにホッとしましたし、『やっと勝てたな』という気持ちもありました。いろいろですね」と一貴はその時の心境を振り返ってくれた。
ウイニングランのときは、「ホロっと……は多少はありましたけど、やっぱり冷めてましたね(笑)」と一貴。表彰台でも「何考えていたんでしょうね(笑)。もちろん感動しましたけど、何よりホッとした方が大きいですかね」と、とにかくホッとしたことが先に来て、喜びを噛みしめるのはこれからになりそうだ。
ちなみに、TOYOTA GAZOO Racingの旗がひしめくなかで、一貴がパルクフェルメで受け取りずっと肩にかけていた日の丸は、ずっと一貴を追いかけている上尾雅英カメラマンが、あの2016年以来ずっと“この日”のために毎年フランスまで持ち込んでいたものだ。一貴は記者会見までずっと、噛みしめるように肩にかけ続けていたのが印象的だった。
「2016年もそうでしたが、なかなか途中まで僕たちの方に全然流れがなくて難しい状況ではありました。夜中、フェルナンドのスティントあたりからだいぶ流れが変わってきて、その流れを僕も引き継ぐことができました」
「そこから終わりまで長かったのでどうなるかは分かりませんでしたが、7号車も8号車もかなり近いところで戦っていて、お互いにプッシュしながら、すごく良いレースができたと思っています。どちらが勝つかはちょっとした流れの傾きだったかな、とは思いますが、ちょっと“ツイて”いたのが僕たちだと思います」
一貴は「誰に最初にこのことを報告したいですか?」という質問に「たぶん報告云々の前に、来ているメッセージに返事を返すのはすべてだと思います。見た順に返事します(笑)」とこれまで6回、ル・マンの勝利に届かなかった男は、やっと掴んだ勝利に安堵の表情で答えた。