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「市長の不倫で精神的苦痛」市民が損賠請求、狙いは「逃げ切り阻止」か…滋賀・長浜

2018年06月17日 09:02  弁護士ドットコム

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「週刊新潮」で不倫が報じられた藤井勇治・滋賀県長浜市長に対し、市民などが「市長のスキャンダルにより精神的苦痛を受けた」などとして総額約3650万円の損害賠償を求める訴えを大津地裁長浜支部に起こしたことが5月30日、関西テレビにより報じられた。


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原告は、市民や市議会議員ら73人という。不倫相手の女性が、長浜市が多額の税金を貸し付けている第三セクターが運営する飲食店の幹部(月給40万円ほど)として抜擢され、「市長に仕事を紹介してもらった」と友人に話していたとの内容が伝えられている。


不当な公金支出の差し止めなどを求める行政訴訟ではなく、精神的苦痛を理由とした損害賠償請求をするというのは、どういった狙いだと思われるか。行政事件に詳しい湯川二朗弁護士に聞いた。


●市長の不倫疑惑、監査請求や住民訴訟にはなじまず

ーー通常、市長に対して、市民はどのような請求をできるのでしょうか


「市長が違法不当な契約を締結したり、違法不当な公金を支出して市に損害を与えたときは、市民は市長に対してその損害を市に支払うように請求できます。地方自治法で認められた住民監査請求権であり、裁判所に住民訴訟を提起することもできます。


ただし、それはあくまでも地方自治体の財務会計上の義務に違反して、しかも市に損害を与えた場合に限られます。ですから、普通は、市長の不倫疑惑は、監査請求や住民訴訟にはなじまないものです。


もっとも、ごく例外的に、市長の不倫疑惑の対応に職員の手がとられ市の業務に支障が生じたり、市長の不倫疑惑の故に市の観光物産の売上げが落ちたりしたような場合は、市は市長に対する損害賠償請求が可能であり、住民も監査請求や住民訴訟をできるかもしれません。しかし、これはあくまでも特殊なケースであり、ハードルも高くなります」


ーー今回のようなケースはこれまであったのでしょうか


「まず、今回のケースは、市民が市長の不倫疑惑によって精神的苦痛を被ったとして民事の不法行為訴訟を提起したものと考えられます。実は、こういう訴訟は、ないわけではありません。


過去には、当時の小泉首相が靖國神社の参拝をしたことで、『戦没者が靖國神社に祀られているとの観念を受け入れるか否かを含め、戦没者をどのように回顧し祭祀するか、しないかに関して(公権力からの圧迫、干渉を受けずに)自ら決定し、行う権利ないし利益』が害され、精神的苦痛を受けたとして国や小泉首相個人に対して損害賠償請求訴訟を起こしたことがあります」


●税金から給料をもらう市長、公人で説明責任あり

ーーどのような判決になったのでしょうか


「最高裁平成18年6月23日判決は、人が神社に参拝する行為自体は、他人の信仰生活等に対して圧迫、干渉を加えるような性質のものではないから、他人が特定の神社に参拝することによって、自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとしても、損害賠償請求が認められるものではないとして請求を退けました。


宗教上の感情はまさに内心に係るものであり、しかも、これを認めると誰もが損害賠償請求訴訟を提起できることになってきりがありませんので、この最高裁判決の結論はやむを得ないかもしれません」


ーー今回のケースで、市民が抱く「不快感」は保護に値するものと考えられますか


「本件のような事案であれば、原告の範囲も長浜市民に限られますし、市長の不倫疑惑によって他市町民から変な目で見られたり、『あんたとこの市長さんは・・・』と言われたりすることもあって、その不快感が保護に値しないとは言えないと思います。


やはり市長は公人ですし市民の税金から給料をもらっているわけですから、説明責任もありますし、不倫疑惑が事実無根であるというのであれば、法廷で白黒決着をつけるというのも、現在の市長に課された職責であると考えるべきでしょう」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。
事務所名: 湯川法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/kyoto/a_26100/g_26104/l_123648/