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福山雅治、東京ドームで見せた挑戦的なステージ 柴 那典が新曲&未発表曲から最新モードに迫る

2018年06月16日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 福山雅治が、5月27日、東京ドームにて『FUKUYAMA MASAHARU DOME LIVE 2018 -暗闇の中で飛べ-』ファイナル公演を行った。


 MCで彼自身が何度も「圧倒的ドーム感、圧倒的ファイナル感」と繰り返していたこのライブ。それは、ドームツアーのファイナルらしい壮麗なエンターテインメントでありながら、それ以上に“挑戦”を感じさせるものだった。


 なにせ、セットリストの多くを占めるのは新曲である。彼だけでなく、長いキャリアを持つアーティストのドーム公演と言えば、ヒット曲満載のサービス精神旺盛なセットリストを展開する構成が一般的だ。もしくはリリースされたばかりのアルバムを携えての内容になることも多い。


 が、この日の構成はどちらでもなかった。ここ最近、シングルCDやデジタル配信にて発表された新曲に加え、ツアータイトルにもなった「暗闇の中で飛べ」などの未発表曲も数多く披露する内容だ。しかも、それらの曲がステージ全体における大きなポイントになっていた。


 開演は17時。定刻を過ぎると、ギターバンジョーを手にした福山雅治が大歓声に迎えられて登場し、軽快なカッティングを披露しながらゆったりと花道を歩んでアリーナ中央のセンターステージに向かい「幸福論」を歌う。続くインストゥルメンタルナンバーの「vs.2013~知覚と快楽の螺旋~」では、ストラトキャスターに持ち替えた福山がギターを弾きまくり、キャプテン井上鑑(Key)を含めた凄腕のバンドメンバーが次々とソロを披露していく。歌だけでなく演奏陣をフィーチャーした演出だ。


 「僕のライブでは最大規模、全16名の分厚いサウンドでお届けします」とMCで福山は語る。ギター、ベース、ドラム、キーボードに加えて、パーカッション、ストリングス、ホーン隊、コーラス隊などが加わった大人数のバンド編成だ。


 序盤で代表曲の一つ「IT’S ONLY LOVE」に続けて披露したのは、シングル『聖域』のカップリングに収録された「jazzとHepburnと君と」、そして未発表曲「漂流せよ」。クイーカやギロなどパーカッションが耳をひく情熱的なメロディの「漂流せよ」は、「零 -ZERO-」にも通じるラテン調の楽曲だ。福山自身もガットギターのボディを叩いてリズムを作りパーカッシブなプレイを披露する。


 中盤は「虹」や「蜜柑色の夏休み」など、夏の歌を並べた展開。長崎の子供時代にさかのぼる自身のルーツを示す映像に続けての「クスノキ」、そして昨年の『NHK紅白歌合戦』でも歌った「トモエ学園」と、ピアノと弦楽四重奏のアレンジでしっとりとバラードナンバーを歌い上げる。


 ライブは後半へ。2001年に初めて行ったドームライブのオープニング曲「友よ」をセンターステージでアコースティックギターを抱えて歌い上げると、続いては「一つになりますよ! 東京!」と「HELLO」を披露。紙吹雪が舞いアリーナとスタンドの数万人に一体感をもたらす。


 そして印象的だったのは、そこからの展開だった。福山は再び新曲と未発表曲を続けざまに披露していく。


 まずは四つ打ちのビートと「♪Wow oh oh~」のコーラスが印象的な、ツアータイトルにもなっている「暗闇の中で飛べ」。オーディエンスがタオルを掲げ手拍子で盛り上げると、続いては『聖域』のカップリングに収録された、彼のギターヒーローとしての側面を見せるインストゥルメンタルナンバー「Humbucker vs. Single-coil」。ギブソンのレスポールを抱えた福山がソロを引き倒し、今剛、小倉博和というギタリストとフロントに並んで特攻の火花と共に派手なギターバトルを見せる。


 さらには、スラップベースとホーン隊が牽引するテクニカルなアンサンブルに乗せてポップスターの生き様を戯画的に描く歌詞を歌う刺激的な未発表曲「Pop star」、そして先日配信リリースされたばかりの劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』主題歌の「零 -ZERO-」へと続く。ラテンやフラメンコの要素を絶妙に取り入れた楽曲は、ドームという大きな会場でも大きな熱狂をもたらしていた。


 「立て続けに新曲と未発表曲を聴いていただいて、この圧倒的なファイナル感と一体感、ありがとうございます! 気をよくしております!」と満足気な福山は、「さらに新曲やっていいですか」と、ギターバンジョーを抱え、ドラマ『正義のセ』(日本テレビ系)主題歌の「失敗学」を歌唱。口笛のイントロから目まぐるしく展開するポップソングに会場からは大きな手拍子が巻き起こり、続く「聖域」で盛り上がりはクライマックスに。壮大な「明日の☆SHOW」からスケール感のあるロックバラード「Dear」で本編を締めくくった。


 アンコールは「もっともっと笑顔が見たいんですよ」と「その笑顔が見たい」をあたたかい包容感の中で披露。続く「Peach」ではステージ狭しと走り回り、コールアンドレスポンスを繰り返し、オーディエンスに水を振りかけるサービス精神を見せる。


 大団円のムードで会場を満たした福山は、最後にセンターステージに移動し、「少年」を弾き語る。アリーナとスタンドを埋め尽くしたオーディエンスの合唱、そして幸せそうな笑顔と共に3時間超のステージを締めくくった。


 「今日はファイナルですけど、今年はまだまだ終わらないんですよ」


 MCにて福山はそう告げていた。


 その言葉通り、このツアーはこの日でファイナルを迎えたが、それは同時に一つの通過点でもある。


 昨年12月に行われた『福山☆冬の大感謝祭 其の十七』、1月から4月末にかけて行われた約3年ぶりのアリーナツアー『WE’RE BROS. TOUR 2018』、そしてこのドームツアーと、半年にわたって福山雅治はライブ三昧の日々を繰り広げてきた。


 そして、それは曲作りの日々と並行したものだった。昨年秋にシングル『聖域』をリリースした際のインタビューでも、新作アルバムに向けて曲作りを進めていることを明かしていた福山雅治。実は「暗闇の中で飛べ」や「漂流せよ」も、昨年末の『福山☆冬の大感謝祭 其の十七』以降、たびたびライブで披露してきた楽曲だ。


 そこには自身の今のモードを生演奏で最初にファンに届けようという意図もあるのだろう。そういう意味でも、とても意欲的、とても挑戦的なステージだった。


 エンターテイナーとしての期待に応えつつ、現在進行形のミュージシャンシップを見せるドームライブ。それが数万人に新たな熱狂をもたらしていたのを体感して、とても興奮した一夜だった。(文=柴 那典)