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中村倫也が語る、30代の役者としての人生観 「“まーくん”や“江口さん”とインプットされることが名誉」

2018年06月16日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 俳優・中村倫也が、『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)への出演を皮切りに大ブレイクを果たしている。本作で中村が演じているのは、老舗ホテル再建に向け奮闘する従業員の1人、江口竜二。第1話では競艇新聞ばかり読み、総料理長の座に立っていたが、新人パティシエの鳳来ハル(浜辺美波)と総料理長を交代。物語が進むにつれ、江口はハルが行き詰まるとさりげなく助言し、彼女をフォローする立ち回りを務め、“名コンビ”と話題を呼んでいる。


【写真】『崖っぷちホテル!』江口&ハルコンビ


 今回リアルサウンド映画部では、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)、映画『先生! 、、、好きになってもいいですか?』出演時に続き、中村に3度目のインタビューを実施。『崖っぷちホテル!』出演で受けた反響や、本作でコンビを組んでいる浜辺美波について、そして30代の役者としての人生観について話を聞いた。


■「この役をやれてよかった」


ーー以前、自身のTwitterで「江口みたいなツンデレ兄さんは、演じていて楽しいです」と投稿されていましたね。


中村倫也(以下、中村):江口は“ツン”から入っているので、ちょっとしたことでギャップも作りやすいですし、いろんな意味で観ている人の感情を動かしやすい役だなと思います。競艇の話をするだけでコミカルになって面白さも生まれやすいですし、ちょっと優しい顔をしただけで「いい人」と言われるので、得しているなと感じますね。


ーー江口に対してどんなイメージを持っていますか?


中村:江口は結構思ったことを言う人だと思っています。大人のルールや立場があるなか、例えば第7話で誠一(佐藤隆太)が来たときも、直接的に皆は文句を言わないけれど、江口は「ちょっと、待て! お前」と言えてしまう。そういう部分はカッコいいなと感じたし、この役をやれてよかったなと思いました。あと江口って、筋が通っていないことが嫌いなんです。ハルが総料理長になったとき、悔しかったりいろいろな気持ちがあったりしただろうけど、腕を認めたらちゃんとフォローする一面などは気持ちいいなと。僕もいろんなフィルターを通さないで物事を見るようにしたい人間なので、そこは似ていると感じる部分でもありますね。


ーーハルと江口の絶妙な距離感が素敵です。


中村:初めの方では、江口はハルのことを認めていないのですが、台本を読んでいたら、ハルに対して江口がちゃんといちいちツッコミを入れているのを見つけて。さてはこいつら実は仲良しなんだなと思いました。ツンデレなキャラなので、セリフはちょっと尖った言い方になってしまうけど、実はハルのことを面白おかしく思っているという江口の空気感の方が、観ている人もきっと楽しいだろうなと意識しました。あとはコンビ芸なので、ベーさん(浜辺)との呼吸、掛け算で、より作品が面白くなるように。


ーー浜辺さんの“べーさん”というあだ名はどなたが?


中村:大人数でいたときに、おとなしくしていたので、馴染んだ方が楽しいだろうと思って、僕が「べーさんって名付けました」と発表しました。その後、川栄(李奈)ちゃんがレギュラーになって、「えーちゃんって名付けました」と言ったんですけど、それは全然浸透しなかったですね(笑)。


■「現場でやる掛け算のチューニング作業は変わらない」


ーー今回の浜辺さんをはじめ、『半分、青い。』の永野芽郁さん、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』の森川葵さん、『あさひなぐ』の乃木坂46さんなど、最近は若い女優さんと共演されることが多いですよね。若手女優の方と共演する際、中村さん自身の芝居の仕方は変わったりするのでしょうか?


中村:人それぞれ違うので、年齢や性別によって決まった芝居をしたりすることはないですね。若かろうが先輩だろうが、現場でやる掛け算のチューニングみたいな作業は変わらないです。ただ、可愛くて仕方がなくて、「幸せになってくれ!」と親戚のおじさん目線でいるというのはあるかもしれません(笑)。


ーーその中でも浜辺さんに対する印象は?


中村:べーさんは大人っぽいですね。ハルという役は動きも付けられることが多くて、それをドライのときに調整して、セリフもやって、料理もして、テンションも高くして……と結構頭使う役だなと。この前、「厨房の撮影は、しばらく前日眠れませんでした」と言っていました。そのくらい真面目ないい子で、すごく頑張り屋なので、一緒に仕事する人もどんどん応援したくなりますよ。そう感じる人がこれから増えて、世間も大人たちも放っておかないだろうなと。


ーー主演の岩田剛典さんの印象はいかがですか?


中村:目がくりっくりしてかわいい顔していますよね。宇海のキャラクターって、第1話からセリフが多かったので正直大変そうだなと思っていましたが、第2話からはもう宇海役がすっかりハマっていました。頼もしいですし、一緒にものづくりしている感覚がとても楽しいです。この間、岩ちゃんが僕ら従業員の顔を並べたチームTシャツを作ってくれたんですけど、現場でスタッフみんながそれを着ていて、「文化祭みたいで楽しいな」と思いました。こういうのいいなって。


■「隙あらば食べようとして怒られています」


ーーシェフという役どころですが、実際に料理はするんですか?


中村:ちょいちょいしてますね。半年くらい前が1番していた時期で、深夜2時までフライパンを振っていたりもしたんですけど、それが今回驚くほど調理シーンがなくて。きっと世の女性からも、男が料理しているところを見たいと思われていると思うんですけど、プロデューサーに「まだ出さないっすね」と言われていて。なので、そのうち出てくるのかなと期待しています。この前、あまりにも調理シーンがなかったので、ハルが卵を割っているときに、カットがかかる前に1個取って片手で割ったんです。たぶん使われないですけどね(笑)。


ーー美味しそうな料理がたくさん出てきますが、実際に現場で口にしたりするのでしょうか?


中村:隙あらば食べようとして怒られています。スタッフさんに「つながりが……」とか言われても「知るか知るか」と(笑)。第8話の撮影のときに使われた「色とりどりの鍋」を台本で読んで、どんな鍋なのかなと想像して、現場に行ったら海鮮系の鍋を見つけたんです。それをずっとべーさんが食べたがっていました。僕よりべーさんの方が常に食べたがっていることが多くて、「あれ、もういいですかね?」と僕に聞いてきて、僕がスタッフに聞くという……「俺はお兄ちゃんか!」って思いました(笑)。


ーーついに最終話の放送を迎えます。


中村:最終話はきっとすごいことになります。なんでかというと、台本がまだないんです(笑)。僕も乞うご期待状態です。江口らしい終わり方をしたいなと思います。


■「注目される機会も増えて、またちょっと違うステージになる」


ーー『崖っぷちホテル!』の放送開始後、より人気に火がついたように感じるのですが、その反響についてはどう感じていますか?


中村:この2カ月ほどで10万人くらいTwitterのフォロワーが増えて、引いています(笑)。この春は、僕が出演したいろんな作品が公開になっているので、そうなったらいいなと思いつつ仕掛けてはいたんですけど、いざそうなると把握できるスピードを超えているというか、理解が追い付かなくて。仲間たちが上がっていくのは見てきましたけど、自分が注目されるとあわあわしちゃいますね。とても嬉しいことではありますけど。


ーー『崖っぷちホテル!』以外にも、現在は映画『孤狼の血』、ドラマ『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』(Hulu)、そしてNHK連続テレビ小説『半分、青い。』と大活躍ですね。それぞれの作品ではどのようなことを意識して役に臨んでいるのでしょう?


中村:『孤狼の血』では、シャブ中の鉄砲玉のヤクザを演じているんですけど、まさか自分があんなクレイジーなヤクザ役をやるとは思っていませんでした。不安で不安でたまらなかったこともあったぐらいでしたね。『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』では、シリアスな話の軸の中でちょいちょい横から箸休め的に枝を伸ばしてくタイプのコンビを、滝藤(賢一)さんと演じているのですが、全体の作品性を損なわずにほどよく箸休めさせるところを意識しています。『半分、青い。』は、ゆるふわ過ぎて「大丈夫か?」と思われがちな18歳の大学生役。とても緊張しましたし、(朝井)正人というキャラクターはどこにも力が入っていたらダメな役だったので、それを押し殺して撮影に臨みましたね。


ーーそれぞれの作品で全く違う役柄を演じていることを含めて、世間では「カメレオン俳優」とも呼ばれていますね。


中村:擬態の意味ではタコの方が正確なんです。カメレオンよりもタコの擬態をちょっと動画で見てもらいたいなと思っていて、次は「ヒョウモンダコ俳優」と呼ばれるように頑張っていこうかなと今思いました(笑)。


ーー中村さんのことを、「江口さん」「正人くん」など役名のままで呼んでいる人が多い印象も受けます。


中村:この間も飲み屋で「(『闇金ウシジマくん』の)神堂(大道)さんですか?」と恐る恐る話しかけられたり、「(『ホリデイラブ』の井筒)渡さんですか?」とびくびくしながら声をかけられたり。怖い人だと思われているのかなと感じましたが、そういうのは愉快ですね。そのキャラが存在すると思って見てくれているんだなというのは、役者として「おっしゃ!」と思えるポイントなので。“中村倫也”という名前が認識されることはとても大事なことなのですが、僕はそれよりも「まーくん」とか「江口さん」とインプットされることの方が名誉だと思っています。


ーー今年はドラマや映画と出演作が続きますが、役者として今どんな時期であると考えていますか?


中村:結果を残していかなきゃいけないなとは思います。30代の10年間にどういうものができたかで、その後の一生が決まっていきそうな気はしていて。と言っても、結果や評価というのは好みもあるし、流動的でもあって、なので役者としても人間としても自分がやる仕事や演じる役を、関わる人や観てくれる人に対してしっかり誠意を持って、よりやっていかなければいけないなと。結局、芝居の上手い下手ではなくて、その人の魅力が全てなのかなと思うので。今まではダークホース的な立ち位置にいたと感じていましたが、注目される機会も増えて、またちょっと違うステージになるのかなと思うんです。それはまだ自分が見たことのない景色ですけど、人として変わらずにやっていきたいと思っています。


(取材=大和田茉椰、安田周平/文=大和田茉椰)