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ディーン・フジオカの計画は成功だったのか? 『モンテ・クリスト伯』“復讐”の悲しき結末

2018年06月15日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「人に危害を加えるときは、復讐の恐れがないほど徹底にやらなければならない」。ニッコロ・マキャヴェッリは著書『君主論』の中でこう言った。柴門暖(ディーン・フジオカ)をモンテ・クリスト・真海に変えてしまった3人もこの言葉を知っていれば、運命は変わっていたのだろうか。


参考:懐かしのディーン・フジオカ投獄シーン【写真】


 ディーンが「見ないと損ですよ、絶望の向こう側を」とコメントしていた『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)の最終回第9話が、6月14日に2時間スペシャルで放送された。第9話の視聴率は第1話の5.1%から1.7ポイントアップした6.8%を記録。容赦ない復讐劇に豪華なセットや衣装など、ストーリー面もビジュアル面でも中毒性が高い本作は、物語が進めば進むほどハマる人が続出していった印象だ。


 有終の美を飾った本作だが、真海を陥れた南条幸男(大倉忠義)、神楽清(新井浩文)、入間公平(高橋克典)の3人が1人も殺されなかったのは衝撃的だった。原作では幸男にあたるフェルナンが自ら命を絶つことになっていたが、自殺を試みた幸男は江田愛梨(桜井ユキ)に助けられ、さらに最終話でも火事で焼け死ぬことなくやけどで済んだ。


 また、すみれ(山本美月)にあたるメルセデスも、原作ではきっぱりと夫フェルナンを捨ててしまったのだが、すみれは完全に幸男を見放すことはなかった。「勝手に離婚切り出しといてよく言うよ」と幸男から言われていたが、すみれは娘・明日花(鎌田英怜奈)のことを考え、幸男に「死んでほしい」とまでは思えなかったのだ。


 さらに、暖と再び一緒になる道さえも断ち切っている。復讐をやめる条件として真海から“夫と娘の全てを捨てた結婚”を申し込まれていたすみれだったが、出した答えは「わたしは“真海さん”と結婚します」。第5話で「すみれはもう死んだ」と言っていた真海同様、すみれの中の暖ももうすでに死んでしまっていた。


 すみれの決断は、幸男たちや明日花を守るための愛だったのだろうか。「愛は勝つんだ」と真海は噛み締めていたが、あのシーンからは、かつて暖を待たずにすみれが幸男と結婚したように、目的のために愛してもいない“真海”と結婚を誓ってしまう彼女の軽薄さを皮肉しているようにも見えた。


 別荘にいたすみれたちを解放した真海は、「楽しかった……」とつぶやきながら復讐劇とモンテ・クリスト・真海の人生に幕を閉じる。しかし、“大切なものを壊す”ことを軸に復讐を進めてきた彼の計画は、100%成功だったのかは不明だ。ターゲット3人の名声と家族を再起不能まで壊した真海だったが、彼が最後に海を見つめていた瞳には、どこか寂しさが宿っていたように感じる。


 復讐が完了した今思うのは、真海が計画を進める中で自身も傷ついていったということだ。真海はターゲットの男3人を社会的に抹殺したが、暖時代に大切にしていた幸せまでは取り戻せなかった。さらに、完全に心が壊れてしまった入間以外は相変わらずで、散々痛い目にあっても人間の根底に眠る憎悪は拭い去れていない。むしろ幸男と神楽の暖への嫌悪感は倍以上にも膨れ上がっていたように思える。もちろん真海は暖を取り戻すために計画を遂行していたわけではないが、人を傷つけた彼の手は相手の血ですっかり汚れ、美しき復讐劇の結末は虚しい空気が漂っていた。


 それにしても本ドラマは、最後まで瑛理奈役の山口紗弥加と留美役の稲森いずみの怪演ぶりが見ものだった。両者とも息子への愛を異なったベクトルで表現していたが、最終話で目を見開いて真っ赤に染まったトマトを含んだ瑛理奈の口から、鮮血が豪快に溢れ出るシーンはもうホラー映画の粋。生き残った瑛理奈の息子が、母の仇を打つために真海に復讐するスピンオフすら見てみたい。


 また、真海は留美を誤算だと言っていたが、暖のときから彼はずっと愛に翻弄され続ける運命にあるのではないかと思う。そんな彼を最後に包み込んだのは広大な海だった。海はあらゆる生命体の原点であるゆえ、漢字の中には“母”の文字が入っている。船で遭難しても帰還し、投獄されても海を渡って生還と、思い返してみれば海に愛されてきた真海。最後に彼は第2の母である海に戻り、一途に愛してくれた女性と新たな人生を歩もうとしていた。どうか今度こそは海よりも広く深い愛情を掴むことを願いたい。 (阿部桜子)