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THE ORAL CIGARETTES、新たな“逆転劇”のきっかけ掴むか 人気拡大の2つの要因を考察

2018年06月15日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2010年、奈良県にて結成。現在のMASH A&Rによるオーディション『MASH FIGHT vol.1』でグランプリを獲得した約1年半後、2014年7月にメジャーデビューした4ピースバンド・THE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)。ワンマンライブの規模は日本武道館や大阪城ホールを即日ソールドアウトさせるほどで、『COUNTDOWN JAPAN 17/18』や『VIVA LA ROCK 2018』をはじめとしたフェスではメインステージを任せられるほどの存在。さらに先日リリースされた最新アルバム『Kisses and Kills』は、店着日である6月12日、そして発売日である13日のオリコンデイリーアルバムランキングで首位を獲得した。この記事では、飛ぶ鳥を落とす勢いのこのバンドが人気を集めていった経緯を改めて考察していこうと思う。


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 結論から言うと、(1)“ダークファンタジー”と呼ばれるこのバンドの世界観が若いロックファンの目に新鮮に映った、(2)“BKW”を地で行くドラマ性の高いバンドの歩みがファンの心を掴んだ、という2点が大きな要因だろう。順に説明していきたい。


 まず、“ダークファンタジー”を形成する上で重要な役割を担うのが、作詞作曲を手掛けるフロントマン・山中拓也(Vo/Gt)。彼の作るメロディは90年代の歌謡曲的な匂いを感じさせるものであり、2010年代を生きる若者たちにはかえって新しく聞こえるのだろう。そこに自身の葛藤・悩みと架空の物語・空想を掛け合わせた歌詞が重なり合うことにより、リアルだがロマンティックな世界観の土台が築かれていく。そんなボーカルと同様に聴き手に強い印象を残すのが、鈴木重伸(Gt)のフレーズ。特にイントロや間奏のリードギターは耳に残るものが多く、ライブ(ワンマンに限らずフェスや対バン形式のイベントでも)の待機時間中、それらのフレーズを楽しそうに口ずさむファンの姿を目撃し、驚いたことが何度もある。そんな癖の強い上物を支えるのが、最年長・中西雅哉(Dr)による頼もしいドラムと、時に奔放で時に冷静なあきらかにあきら(Ba/Cho)のベースライン。そうして完成した、ノりやすいけれど何だか一筋縄ではいかないバンドサウンドは、全国各地のライブキッズを大いに踊らせたり翻弄させたりしながら、その好奇心を根こそぎ掴んでみせた。


 さらにMVやアーティスト写真、ステージ衣装、CDジャケット等のビジュアル面も“ダークファンタジー”のイメージを損なわないよう演出されている印象。個人的には、シングル『BLACK MEMORY』リリース時のアーティスト写真を初めて見た時、かなりの衝撃を受けたことを憶えている。4人の立つ真っ赤な地面から無数の腕が生えているなんて、いったいどんな舞台を想定していたのだろうか。あんな画は初めて見たし、彼らの同世代、というか現在の邦楽ロックシーンには、オーラルと同じようなテイストでイメージを固めているバンドはなかなかいないように思う。


 そして、オーラルを語る上で欠かせないのが“BKW”というワードだ。“BKW”とは“番狂わせ”の略語。それを掲げ始めたのはバンドがメジャーデビューしたタイミングだったが、これが言霊というのだろうか。例えば着実にライブ会場のキャパシティを拡大させていったこと、そして山中の声帯ポリープ発覚~復活までの流れなど、“逆転劇”“復活劇”といえるような出来事とともにこのバンドは歩みを重ねていくこととなった。ハングリー精神を隠さない人たちが有言実行を果たしていく様子は、見ているとスカッとするし、勇気をもらうこともできる。そうして観る者の感情に訴えかけ、共に成長していくような物語を築くことによって、ファンとの関係性をより深いものにさせているのではないだろうか。余談だが、この“BKW”は物販で販売されているグッズにも用いられており、そのロゴマークはかなり目立つ。彼らを応援するファン同士を見つけやすくする、あるいはファン以外の人の印象に残りやすいデザインにすることも、人気を拡大させるうえで重要な戦略の一つなのかもしれない。


 こうしてバンドシーンにおける存在感を確立していったオーラルが、今夜、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演し、「BLACK MEMORY」を披露する。2017年6月にはKEYTALKとともに「VS LIVE」という番組内企画に出演したが、単独での出演は今回が初。お茶の間にもその爪痕を残し、バンドシーンの外側にまでその名を轟かせることができるのだろうか。今夜の放送が新たな“逆転劇”のきっかけになることを期待したい。(蜂須賀ちなみ)