トライアンフモーターサイクルズジャパンが6月14日、東京都武蔵野市のトライアンフ東京で新型『Speed Triple RS』(スピードトリプルRS)の発表会を行った。新たなスピードトリプルRSの魅力、そして765ccストリートトリプルRSのエンジンをベースに開発されているMoto2エンジンの特性について、この場に登場したモータージャーナリスト、佐川健太郎氏が語った。
■高次元でまとまった1台、新型スピードトリプルRS
新型スピードトリプルRSはエンジンが大幅に刷新された。水冷並列3気筒DOHC12バルブの1050ccエンジンは従来モデルよりもパワーが10馬力引き上げられて150馬力、トルクは117Nmに向上、一方で軽量化も実現している。
佐川氏はスペインのアルメリアサーキットで行われた、このスピードトリプルRSの試乗会に参加。ちなみにアルメリアサーキットはスーパーバイク世界選手権(SBK)などのテストが行われるような本格的なサーキットで、試乗会には全英チャンピオンなどそうそうたる顔ぶれが集まり「エキサイティングな試乗会」だったという。
その試乗会を踏まえ、佐川氏はスピードトリプルRSの全体の印象について「熟成されたモデルですね。パッと見て劇的に変わったというわけではないのですが、元々がレベルの高いモデルで、あらを探すのが難しいですよ」と評価する。
佐川氏が試乗した感触では、ピークパワーが上がって中間トルクがあり、サーキットにおいてはトップスピードの伸びがまったく違うものになっていることを感じたという。3気筒エンジンは、トルクが低・中・高速とフラットであるという特性がある。そういった3気筒エンジンのいいところを継承しつつも、回転のスムーズさがより際立つエンジンになったというのだ。
ここで佐川氏はトライアンフが開発を進めるMoto2エンジンについても言及。スピードトリプルRSと比較して語った。トライアンフは2019年より、ロードレース世界選手権MotoGPのMoto2クラスにエンジンサプライヤーとして参加する。
佐川氏は新型スピードトリプルRS試乗会とともに、このMoto2テスト車両のシークレット試乗会にも参加。トライアンフのMoto2エンジンは、765ccのストリートトリプルRSエンジンをベースに大幅に改良したもの。試乗会のテスト車両は、トライアンフのスーパースポーツモデル、DAYTONA675(デイトナ675)のシャシーにこのエンジンが搭載された。
「(Moto2エンジンを搭載したテスト車両は)レーサーとしての速さは確かにすごいのですが、エンジンがシャープすぎる印象でしたね。同じサーキットで走ったので感じることができたのですが、スピードトリプルRSの方がストリートモデルで中間トルクがすごくあり、排気量も大きいのでこちらの方が速いかもしれません」
「Moto2エンジンを搭載した車両は、シフトチェンジをしっかりしてあげないといけないんです。スピードトリプルRSはイージーに速いんですね」
Moto2エンジンを搭載したテスト車両はレーサー仕様というだけあって、一般のライダーにとっては扱いが難しいバイクという印象だったという。一方で市販車であるスピードトリプルRSはギヤ間のつなぎにも神経質になりすぎずにすみ、そのうえで速さがあるということだ。スピードトリプルRSにはそういった扱いやすさがあるということだが、扱いやすさという点では軽量化によるハンドリングのよさも貢献している。
「右へ左への切り替えしのフットワーク(のよさ)というのはあります。サスペンションのクオリティもありますからね」
スピードトリプルRSはフロント、リヤともにオーリンズ製サスペンションを採用。これも走行時の安定感につながっている。
「アルメリアサーキットにはほかのサーキットにない、直滑降するような箇所もあります。そういうところをハイスピードで越えていくと接地感が抜けることがあるのだけど、オーリンズのサスペンションはそんなことがないんです。猫足というか、接地感を失わないんですよ」
かなり高性能なトラクションコントロールも搭載されており、これは「理論上はフルバンクでもスロットルを開けられる」という。このトラクションコントロールのみならず、ライディングモードも5種類から選ぶことができる。ABSの切り替えも可能だ。また、長距離巡行にうれしいクルーズコントロールも搭載されている。
スピードトリプルRSの特徴は走りの快適性だけではなく、外見から受ける上質感もポイントだ。1994年にデビューしたスピードトリプル史上最上のモデルと位置付けられているだけあり、プレミアム感を高めるさまざまな装備が搭載されている。
フロントマッドガードやラジエターカウルなどにはカーボンが用いられた。2本出しのサイレンサーにはArrow製を標準装備。そしてメーター回りには、5インチのTFTディスプレイが採用されているほか、キーを持っているだけでエンジンをかけることができるキーレスイグニッションが搭載されている。
そんなプレミアム感あふれるスピードトリプルRSは一見すると確かに1000cc超えの重厚感あるバイクなのだが、トライアンフのスタッフによれば「乗ってみたら扱いやすかった、と言う人が多い」のだとか。
佐川氏も「(バイクが)ライダーをサポートしてくれるから、一般道でも快適に乗れます」と太鼓判を押す。
「快適性を持ちながら、サーキットではレーシングマシン顔負けの走りができる、スピードトリプルRSはそんなオールラウンダーですね。高い次元でうまくまとまっています。スポーツ嗜好でありながらもツーリングもしたいというライダーにはぜひおすすめしたいですね」
新型スピードトリプルRSは扱いやすさと快適性、高級感を兼ね備えた1台だと言えそうだ。なお、希望小売価格は185万7000円(税込み)。カラーはクリスタルホワイトとマットジェットブラックの2色展開となっている。
■トライアンフのMoto2エンジン、強みは初速トルク
上述の話のなかでも登場した、765ccのストリートトリプルRSをベースに開発されているMoto2エンジン。そのMoto2エンジンについて、佐川氏により詳しく聞いた。
Moto2エンジンは新型ストリートトリプルRSに搭載される水冷並列3気筒DOHC4バルブ3気筒765ccエンジンをベースに開発され、その最高出力は133馬力、最大トルクは80Nmということだ。2018年シーズンまでのMoto2ワンメイクエンジンであるホンダと比べて、どのような違いがあるのだろうか。
「ホンダの直列4気筒エンジンはかなり高回転型です。僕はデイトナ675でのレース経験がありますが、ホンダの600ccバイクよりも排気量では75cc上回っていても、ストレートでは厳しさを感じることもありました。それだけホンダは高回転でパワーを出しているんです」
一方でトライアンフの3気筒エンジンの強みは、初速トルクがあるという点だ。
「低速からの立ち上がりが速く、力強くスピード乗せることができるんです。短いストレートやヘアピンなどはトライアンフのMoto2エンジンの方が有利だと思います」
「Moto2に開発されているトライアンフのMoto2エンジンは765ccですから、そういう意味ではホンダの直列4気筒600ccエンジンよりも速いと思います。各サーキットのレコードを塗り替えていくのではないでしょうか」
「試乗会のあとに知ったのですが、海外のレポートによれば、テストではありますが今のMoto2よりも速いタイムが出ているらしい、ということでした」
佐川氏がテストライドしたのは、市販車のデイトナ675をベースにしたシャシーにMoto2エンジンを搭載したテスト車両。シャシーに関して言えば、2019年シーズンに向けて各コンストラクターが造りこんでくる。
「そうなると戦闘力はまた違ってくるでしょうね。いかにこのトライアンフのMoto2エンジンに合わせたシャシーを造りこんでくるのか、見どころですね」
ホンダとはまた違ったエンジン特性を持つトライアンフMoto2エンジンで、2019年シーズンはどんなレースが展開されるのか、興味深いところだ。