2018年06月15日 10:52 弁護士ドットコム
労災問題で悩む人などを対象に弁護士や医師といった専門家が電話相談に応じる「過労死110番」。1988年6月に始まってから30年の節目として6月13日、過労死問題に取り組んできた過労死遺族や研究者、弁護士などの専門家が集まるシンポジウムが都内で開かれた。
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シンポジウムでは、数々の過労死の鑑定をしてきた精神科医・天笠崇医師が講演した。これまでの研究から、うつ病や過労死は「長時間労働」「過重労働」「裁量性のなさ」「ハラスメント」が原因であるとわかっている。しかし、これらを低減するための努力はされてきたが、現場で過労自殺は増え続けている。過労死の予防や対策をどうすればよいのか、天笠医師が語った。
精神医療の分野で過労死が初めて報告されたのは1978年。過労死110番の設置よりもさらにさかのぼり、過労死についての研究が行われてきた。天笠医師自身は、1997年に公務災害の意見書を書いて以来、過労自殺に関わってきたという。
「精神医学的にも社会健康保険的にも、長時間労働や裁量性のなさ、ハラスメントがうつ病や自殺の原因として確立しています。30年を経て、やっと医学が追いつきました。これらを低減する制度設計を、行政も私たちも懸命につくってきましたが、第二電通事件(2015年12月に電通の女性社員が過労自殺した事件)が起きてしまいました」と振り返る。
さまざまな指針や対策は出されているが、過労自殺は減らない。労働者はどのような状況にあるのだろうか。
「『過労死等防止白書』によると、1週間の就業時間が60時間以上の雇用者は、2003年、2004年をピークに緩やかに減少してるものの、2016年では7.7%、429万人となっています。性別・年齢別では、40歳代、30歳代の男性で1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合が高いです。
また、仕事や職業生活に強い悩み、不安、ストレスを感じてる人は約6割でした。特に労働紛争相談件数に占めるいじめや嫌がらせ(セクハラ・パワハラ)は右肩上がりに増えています」
こうした過労死につながりかねない状態を改善するために、長時間労働者面接やストレスチェック制度が導入されているが、天笠医師によると実施状況は十分ではないという。
「10人以上の職場では、ストレスチェックの実施は約35%、職場復帰の支援は約10%しか行われていませんでした。こういう有様を知っていただければ。せめて、職場復帰における支援ができていれば、少なくとも復帰途中での自殺は起きづらくなります。その実態は大変、残念なものです」
では、今後、どのような予防や対策が必要となるのか。
厚生労働省の「労災認定基準」がしばらく見直されておらず、実情にあっていないとして、過労死弁護団全国連絡会議(代表幹事:松丸正弁護士)は今年5月、厚労省に対して、認定基準を改定するよう求める意見書を提出している。
天笠医師は、これについて、「私のところにすでにいくつか事例がきているが、再発の業務起因性について労基署側のハードルが高いように思えます。再発について考察できる知見もあるので、この点を入れてほしいです」と語った。
また現在、政府が導入しようとしている高度プロフェッショナル制度については、研究結果からみて、「高プロ制のような成果主義的賃金制度の下では、長時間労働の規制や職場の『いじめ防止対策推進法』(パワハラ規制法)といった対策が必要」だと指摘した。
「過労死110番」は6月16日に全国一斉電話相談を実施する。東京はフリーダイヤル(0120)666-591、午前10時~午後3時で受け付ける。この他の地方の窓口は、過労死110番のホームページ( https://karoshi.jp/ )まで。
(弁護士ドットコムニュース)