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特大ヒット『万引き家族』 その「前例のなさ」を紐解く

2018年06月14日 15:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督『万引き家族』が大ヒットしている。6月2日、3日にまずは全国326スクリーンで先行上映されて、動員15.3万人、興収1億9371万円を記録。続いて6月8日(金)には全国334スクリーンで正式公開。その週末の2日間では動員35万人、興収4億4500万円を記録。6月10日(日)までの5日間で動員61万人、興収7億7000万円を記録。注目すべきは、先行公開の週末とその翌週の週末を比べると、ほぼ同じスクリーン数にもかかわらず倍増以上の数字をあげていることだ。


参考:『万引き家族』は、なぜカンヌ最高賞を受賞したのか? 誇り高い“内部告発”を見逃してはならない


 カンヌでのパルムドール受賞はもちろん大きなニュースだったが、20年前に同賞を受賞した今村昌平監督『うなぎ』の興行がそれほど伸びなかったように、アカデミー賞などと比べてもより芸術性が重視されるカンヌでの受賞は、必ずしもそのままヒットに結びつくわけではない。今回はパルムドール受賞を受けての公開直前の各マスメディアにおける是枝監督や出演者の大量露出によって、作品及びそのテーマへの関心が一般層にまで確実に広がっていることがわかる。ウィークデイに入ってからも客足は止まらず、6月12日(火)には早くも興収10億円を突破。公開7日間での10億円突破は、今年公開された実写日本映画の最速記録だ。


 『万引き家族』はギャガの単独配給作品。独立系(非メジャー)配給会社の作品が週末の動員ランキングでトップになるのは昨年10月公開の『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] I.presage flower』(アニプレックス配給)以来、約8か月ぶり。実写作品では昨年2月公開、同じギャガが配給(ポニー・キャニオンとの共同配給)した『ラ・ラ・ランド』以来、約1年4か月ぶり。そして実写日本映画となると2016年2月公開の『黒崎くんの言いなりになんてならない』(ショウゲート配給)以来、約2年4か月ぶりのこと。日本の興行が、いかに一部の大手配給会社の作品に独占されているかがわかる。


 また、テレビドラマの安易な映画化、あるいは放送外収入を目的とする自局番組での大量番宣など、しばしば批判にさらされることのあるテレビ局による映画ビジネスだが、実は2013年以降の是枝裕和作品、つまり、『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『三度目の殺人』(2017年)、そして『万引き家族』(2018年)は、すべてその製作にフジテレビが入っている。今回の『万引き家族』の公開前には過去作品をプライムタイムに連続放送するなど、大ヒットの要因の一つにはフジテレビのバックアップもあったに違いないが、これまであまり一般的に是枝作品=フジテレビのイメージがなかったとしたら、他のテレビ局製作作品のようなバラエティ番組での番宣をあまり露骨にしてこなかったからだろう。フジテレビの映画事業部は、文字通り純粋な「映画事業」として是枝裕和作品を大切に扱ってきた。


 今回はカンヌでのパルムドール受賞という大きなトピックがあったことで、『万引き家族』の製作に名を連ねているフジテレビ系列の番組に限らず、NHKを含む各局がニュース番組などでも積極的に作品を取り上げることとなった。それは逆に言えば、カンヌの受賞でもなければ、本来テレビという影響力の強いメディアが持つ映画の宣伝効果が健全に働かないということを浮き彫りにしたとも言えるのではないだろうか。既に各メディアが報じているように、作品の内外において様々な問題提起のきっかけとなっている『万引き家族』だが、興行においても本作の大ヒットから学ぶべきことは多い。(宇野維正)