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the GazettEが語る、9thアルバムで提示した独自の美学 「“名を残せるバンド”でありたい」

2018年06月14日 13:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 the GazettEというバンドに、どういったイメージを持っているだろうか。移り変わりの激しいヴィジュアル系シーンの中で、時流に流されることなく、ただひたすら自分たちのスタンスを貫いてきた。その反面、音楽面では貪欲の姿勢を見せ続けている。『LOUD PARK』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』といった他ジャンルイベントへの攻勢も、そんな彼らの飽くなき探求心ゆえのことなのかもしれない。


 6月13日にリリースされる9thアルバム『NINTH』にはそんな彼らの魅力が集約されている。従来のファンはもちろん、これからthe GazettEを知る人にこそ聴いてみて欲しい、訴求力の高い作品だ。


 重厚なサウンドと、狂気的な叫び、胸が苦しくなるような歌詞……、それでいて、どこか懐かしいような、情緒ある旋律は、紛れもなく日本のバンドにしか出せない音ーー。世界に轟く“Visual Rock”の最高峰がここにある。


 メンバー5人へのインタビューを通し、ニューアルバムのことはもちろん、“魅せる”ことに定評のある彼らだからこその“美学”に迫ってみた。(冬将軍)


■RUKI「現在作りたいものが自然と集まった作品」


ーー前作『DOGMA』はダークな世界観を模したアルバムでしたけど、今作はそうしたアルバムの全体像みたいなものは事前にあったのでしょうか?


RUKI:ああいった色の『DOGMA』の次のアルバム、ということもありまして。曲作りの中で、メンバーそれぞれの現在作りたいものが自然と集まった感じですね。そこにコンセプトや、見えていた全体像自体はなく。ただ、ちゃんと「“9枚目”のアルバムである」というところは出したかったんです。


ーーそういう意味でも、これまでやってきたことを踏まえての、“現在のthe GazettE”を提示している印象を受けました。タイトルは直球に「9番目の~」を表す『NINTH』ですし。M1のインスト曲が「99.999」であったり、M3「NINTH ODD SMELL」では〈第九〉や〈向かう九段の欲〉といった、“9”にかけたような歌詞も見受けられますが。


REITA:この〈九段〉って、“九段下”のことなんだよね?


RUKI:そう、具体的な地名を歌詞に入れたのははじめてなんですよね。この、「“9枚目”のアルバムに向かうまで」という意味合いを込めて、自分たちのこれまでの経歴と、これからを、という感じです。


ーー個人的に、「分厚くて荘厳」というような“the GazettEサウンド”というものがあると思ってまして。本作では、チューニングや歪みだけでは得られないアンサンブルによる重心の低さ、ダイナミックレンジの広さや各パートのバランスなど、これまで以上にそれが強調されてる音像ですね。


麗:今回、エンジニアさんを変えたんです。そこは大きかったと思いますね。


戒:時間がない中ではあったんですけど、試してみたかったことは一通り試してみたんです。過去に録り方で失敗してしまった部分を踏まえ、新しいエンジニアさんと相談しつつあらためて試してみたり。コミュニケーションも取りやすい方だったこともあり、時間がないなりには、結構いろいろやれた実感はありますね。そういう意味で、収穫のあったレコーディングでした。


ーー制作自体はスムーズだったんですね。


REITA:「Falling」だけ、昨年の12月、早い時期に録ったんですよ。そのときに器材周りのこと、たとえばアンプのヘッドとキャビの組み合わせであったり、いろいろ試せたんです。1曲のわりに、かなり贅沢な時間を費やすことができたので。それがあってからアルバム制作に臨みました。逆にいえば、それがなかったら終わってなかったかもしれないです。


ーー選曲自体は、各メンバーがいろいろ持ち寄った中から決めていったのですか?


RUKI:候補曲自体は結構あったよね?


葵:40曲くらいかな? 選ぶのは難航……しましたね。11曲目の「ABHOR GOD」は選曲会のときはなかった曲ですし。


戒:ドラム録りの前日に、急に追加になって。ドラム録りとアレンジを一緒にやるっていう……。


麗:前代未聞だったよね。それくらい間に合ってなかったです。


RUKI:曲順もスケジュールに追われて、決めざるを得ない状況の中、決めたくらいだったので(笑)。終わりの曲は決まってたんですけど、その終わりに向かう曲がなくて。


戒:ウチは選曲会のとき、同時に穴埋め方式で曲順を決めていくんですね。だから全体のバランスを見つつ、「タイプ的に足らない曲はないかな?」「じゃ、こういう曲を作ろう」みたいな感じで進めるんですよ。


ーー結果として、この「ABHOR GOD」が、アルバムラストへ向かういいフックにもなってますよね。そして、ラスト曲「UNFINISHED」も印象的でした。「終わりの曲は決まってた」ということですが、あえてのJ-ROCK感のあるビートロックナンバーでアルバムを締めた狙いはありますか?


RUKI:「UNFINISHED」というタイトル自体もそうなんですけど、アルバムを聴き終わった後に、なんか残る……というか、バラードとは違った意味での“儚さ”のようなものですね。


ーーオープニングSE的な「99.999」の不穏さを煽るようなはじまりも印象的で。


RUKI:これは、マスタリングのスケジュールギリギリまで作業してた曲でして。


麗:前日まで徹夜で作業して、ブーストかけてやったという。


RUKI:良い言い方すれば、“ブースト”だけどさ(笑)。


葵:13時までにマスタリングスタジオに送らなければいけないのに、12時くらいまで作業してたんです。


麗:どうしても、SEは最後になっちゃいますからね。


■麗「メンバー全員の基準が高い」


ーーこの曲もそうですが、M5「THE MORAL」、M8「BABYLON’S TATOO」と、麗さんはミックスエンジニアとしても制作に参加してますね。


麗:前回のバラードベスト(『TRACES VOL.2』2017年)から自分の曲だけ、ミックスをやらせてもらってます。デモの段階から自分が表したい音像がはっきりしていたので、それを再現したかったんです。誰かに仕上げてもらいたいという気持ちはなくて、どちらかといえば、崩されたくなかった。人にやってもらった完成型が想像ができなくて。やってもらったところで、たぶん否定的なところしか出てこないんだろうな、と。なら、いっそ自分で仕上げたいと思ったんです。


ーーそこは、他メンバー含めたバンドの総意でもあるんですか?


麗:「自分でやるべき」という思いが強いわけですし、そこは承認してもらうしかないんですよ。ただ、メンバーも最初は不安だっただろうし……。だけど、メンバーに認められることも含めて楽しかったし、勉強になりました。


葵:僕らにとっても、いい経験でしたよ。いやぁ、気使ったわー(笑)。


(一同大笑)


葵:ずっとやってきたメンバーだし、いろいろ考えてやってるのがわかるから。それに対して意見を言うのは、やっぱり気を使いますよ。


麗:メンバーの意見も頭に置いて、柔軟にやろうとしましたね。戒とか、かなり意思が強くて。


戒:いやいやいや(笑)。


麗:それが、ありがたくて。固まってる自分のイメージがある中で、それを超える“なにか”を投げてくれることはなかなかないことなので。the GazettEって、メンバーみんなの基準がそもそも高いから。この現場で音を作れるのはすごいことですし、どこよりも厳しい環境なんだろうなとも思います。だから、ものすごくやりがいはありますね。


ーーみなさん、自分の音だったり、こだわりをもっていろいろ言うタイプなんですか?


RUKI:俺はあんまり……。


他4人:ウソつけっ!!(笑)。


ーー(笑)。バンドによっては、サウンドプロデューサー的なメンバーがいて、「お任せで」という場合もあるじゃないですか。


葵:ウチは基本、作曲者が楽曲の全体像を見ることが多いですね。デモの段階でみんなバッチリ作り込んだものをたくさん持ってくるんです。僕は作業自体が遅いのもあって、いつも感心してますね。


ーージャケットのアートワークや、「Falling」のミュージックビデオも“赤”の使い方が印象的ですが、これはアルバムを象徴とするものとして制作段階からあったものなのでしょうか?


RUKI:そうですね、イメージとしてはありました。『DOGMA』のときのように、頭の中に明確な絵が浮かび上がっていたわけではなかったんですけど。そうすると、逆に作り上げる時間が掛かるので。


ーーそして、アルバムを引っ提げた全国ツアー『the GazettE Live Tour18 THE NINTH PHASE #01-PHENOMENON-』が7月から始まりますが、どんな内容になりそうですか?


RUKI:タイトルにある「PHASE #01」は第1層目、だんだんと“PHASE=層”を重ねて行く……という意味合いを込めてるんです。


葵:演出は別として、ウチらはステージングにしても、ゲネプロで決めたりもしないんですよ。「どんなライブになるのか?」「どんなツアーになるのか?」は、実際はじまってみないとわからないですね。


RUKI:毎回、ツアーが終わって、映像化されたときに「こんなライブだったのか」と思うことが多いです(笑)。


■RUKI「常に“自分たちのバンドが一番”と思えていることが大事」


ーー今年3月で16周年を迎えたわけですが、この先のこと、バンドの目標や野望みたいなことをバンド内で話したりしますか?


葵:あまりそういう話はしないよね?


RUKI:常に「自分たちのバンドが一番」と思えていることが大事。だから「こうなりたい、ああなりたい」みたいなものはあまりなくて。ただ、「“名を残せるバンド”でありたい」とは思ってますけど。


戒:俺個人としては「こうなりたい」というよりは、「こうなりたくないな」と考えるほうが多いかもしれないですね。具体的になりたくないものがあるわけではないんですけど、消去法とでもいうか、「ダサい」「カッコ悪い」と思われたらイヤだなと思うことを削除していくような。


葵:ありがたいことに、常に先のスケジュールが決まっていることが多いので、そういうことを考える余裕がないのかもしれないです。次のライブに向かっていく中で「どう見せよう? どう作り込んで行こう?」ということはいつも考えてますけど。それも「カッコ悪いところは見せたくない」というところなのかもしれないですね。


麗:いまのthe Gazette自体が、あまりそういうことをバンドで話すような時期ではないのかもしれません。


ーー確かに、16年以上一緒にやってきてるわけですし、「今さら話さなくとも、」みたいなところもありますよね。


RUKI:後ろを振り返らず、下を向かずに走り続けてきたバンドですし、あまり“周年”みたいなものを気にしないバンドなんですよ。まわりに言われなきゃ、10周年すらやっていない可能性もある。実際、あのときもほとんど何もやってないんですよ、ライブ1本やったくらいで。昨年の15周年のとき、ようやく見直す機会をしましたけど。


■REITA「いつまでも1st聴いたときの衝撃を感じていたい」


ーー今回、LIMITED EDITION BOX A・Bには、その初期コンセプトを掲げた『the GazettE 十五周年記念公演 大日本異端芸者「暴動区 愚鈍の桜」』が映像収録されていますが、実際ああいったライブをやってみてどうでしたか?


RUKI:やってみてあらためて思ったこともあるし。あれをやらなかったら、今回のアルバムもこうはならなかっただろうし。


ーービジュアルのコンセプトしかり、ダークでヘヴィなサウンドやデジタルビートの同期であるとか、サウンド面含めていろいろなことを追求してきたバンドだと思うんですけど、そういうことが、ちゃんと現在の姿として昇華されてアルバムに表れてますよね。


RUKI:“大日本異端芸者”もそうですけど、その時々によって、バンドの旬というか、“今あるべき、the GazettEの姿”みたいな理想があって、そこにそぐわないものを省いていったんです。逆に今回は、そうして作られてきた9枚がたどってきた道、ノンフィクションのストーリーのようなものを形として残す、というのがありましたから。


ーーそして、the GazettEといえば、フェス出演も多く、近年はヴィジュアル系のイベントよりもアウェイ的な場に出て行くことが多いと思うのですが。バンドとしての“見られ方”に関してはどう考えてますか?


REITA:客観的に見るようにはしてますね。自分がいち音楽ファンとして「好きなバンドにはこうあってほしい」みたいな姿を考えてます。今回のアルバムはとくにそうですね。『DOGMA』の延長のままで行ったら、「ああ、味しめてんのかな」と思うはずなんですよ。でもそうじゃない、「やっぱり、the Gazetteやってくれたな!」という期待に応えたいんです。


ーー海外からのジャパニーズカルチャーの評価もあったりで、ここ10年くらいかけてヴィジュアル系シーンが徐々に確立されていったところがありますけど、the GazettEがメジャーデビューした2000年代中頃って、シーン自体が全体的に元気なくなってたじゃないですか。中にはメイクをやめてしまったバンドもいたり。でもそんな中、the GazettEはスタンスを崩さずに己をずっと貫いていたのが印象的でした。


REITA:「シーンが元気ない」って言われるのは、俺らからすると逆にご褒美なんですよ。


麗:「いただきます」って(笑)。


戒:独り占めできる(笑)。


葵:そういうところは昔からハングリーなんですよ。


RUKI:「メイクが濃くなきゃダメ」みたいな話はしたことないんですけど、みんな自然と厚化粧になっていく(笑)。


REITA:年々、メイクが濃くなって、楽曲が激しくなっていくアーティストを俺は見たことがない。結構「1st 、2ndが名盤」と言われちゃうことも多いじゃないですか。「やっぱ初期がいいよな」と言われながら。そうはなりたくなかった。


葵:あるよね、だんだん聴きやすくなっちゃったりとか。


RUKI:変に玄人っぽくなっちゃうのもイヤだな。


REITA:そうそう、計算高くなっちゃって。それはロックの“中二病心”をくすぐらないんですよ。いつだって、1st聴いたときの衝撃を感じていたいんです。それが、9枚目でも感じられたら最高じゃないですか。今回、まさにそういうアルバムができたと思います。(冬将軍)