2018年06月14日 10:42 弁護士ドットコム
是枝裕和監督の「万引き家族」が、カンヌ国際映画祭の最高賞(パルムドール)を受賞したことは記憶に新しい。
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この嬉しいニュースを受け、林芳正文科大臣は6月7日の国会で、対面で祝意を伝えたい意向を示したが、是枝監督が「公権力とは距離を保つ」と祝意を辞退する意思を自身のサイトで明らかにした。「文化庁から助成金をもらっているのにおかしい」との批判もあるが、「公権力と距離を取るのは当然だ」などと擁護の声も上がっている。
6月7日、是枝監督は自身のサイトに「映画がかつて、『国益』や『国策』と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような『平時』においても公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています」と記した。
一方、「今回の『万引き家族』は文化庁の助成金を頂いております。ありがとうございます。助かりました」とも記した。この点について、「税金から助成金をもらっておいて距離を保つというのは筋が通らない」などという批判が出ている。
是枝監督がいう助成金とは、文化庁が所管する独立行政法人・日本芸術文化振興会の「文化芸術振興費補助金」を財源とした助成のことだ。
日本芸術文化振興会企画調査課の担当者によると、「声に出して呼んで」(以前のタイトル案)という活動名で、2018年度に2000万円が交付される予定。「今後、映画製作が終わったという実績報告書をもらって、経費を精査して支払う流れ」(担当者)という。
この助成が受けられるのは561件で、助成金交付予定額は合計約62億円となっている。文化庁の予算を日本芸術文化振興会が受け取ったのち、各団体に支払うスキームだという。基金の運用益から助成が行われる歌舞伎やオーケストラなどとは異なる。
日本芸術文化振興会は「我が国の優れた映画の製作活動を奨励し、その振興を図るため、日本映画の製作活動を助成します」としている。一方、助成金を受け取るにあたって、例えば政府が祝意表明をしたい場合は協力するなどの条件は「当然ついていない」(担当者)。
TwitterなどSNS上では賛否両論が沸き起こっている。群馬県伊勢崎市の伊藤純子市議は「作品の寸評はさておき、是枝監督の『公権力から潔く距離を保つ』発言には呆れた。映画製作のために、文科省から補助金を受けておきながら、それはないだろう。まるで、原発反対の意向を示しながら、国から迷惑施設との名目で補助金を受けている自治体と同じ響きがして、ダサい」と投稿した。(のちに「文科省」を「文化庁」へと表現訂正)
一方、タレントの松尾貴史氏は、上記の市議のツイートを受けて次のように投稿した。
「芸術家に対する補助金とは『政権の都合の良い態度を取るものにのみ支給されるべきだ』という、歪んだ奇妙な考えの市議が、それを隠しもせず自ら拡散する臆面の無さ。安倍氏や林氏のポケットマネーと勘違いしているのか。国民が納めた税金だよ。この人の給料も、市役所ではなく市民が出してやっている」
(弁護士ドットコムニュース)