トップへ

LM GTEマシンとGT3マシンの違いに見える、ポルシェのフィロソフィー【ル・マン24時間連載企画2回目】

2018年06月14日 10:21  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

ポルシェのモータースポーう開発拠点、ヴァイザッハで空力テストを行う911 RSR
今年から来年にかけて、2回のル・マン24時間を含む『スーパーシーズン』を迎えているWEC(FIA世界耐久選手権)。いよいよ6月16日にレーススタートを迎えるが、LMPクラスとともに注目したいのが、自動車メーカーが多数参加しているGTEクラス。ポルシェ911 RSRがランキングトップに立つが、GTEマシンの911 RSRとGT3マシン、911 GT3 Rはどのように違うマシンなのか。

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 世界最大のスポーツカーメーカーであるポルシェは、市販レーシングカーのラインナップでも世界最大規模を誇る。しかも、その多くは半世紀以上にわたって連綿と作り続けられてきた911をベースとしている点に、レーシングカー作りに対するポルシェのフィロソフィーと情熱が表れているようだ。

 現在、ポルシェが生産している市販レーシングカーはLM GTE規則に準拠した911 RSR、GT3規則に準拠した911 GT3 R、ワンメイクレースのカレラカップに用いられる911 GT3 カップ、そしてGT4規則に準拠したケイマンGT4クラブスポーツの4モデルである。

 LM GTEとはル・マン24時間に代表される世界耐久選手権(WEC)に設定されたクラスのことで、WEC以外ではアメリカのスポーツカーレースシリーズ“IMSA”にも採用されている。これに対してGT3はヨーロッパを中心とするブランパンGTシリーズがもっとも有名だが、我が国のスーパーGTを始めとしてGT3規定を採用するレースシリーズは世界中で数多く運営されている。

 では、LM GTEとGT3ではレギュレーションにどのような違いがあるのか?

 もともと各自動車メーカーが独自に開催するワンメイクレースシリーズをひとつにまとめることをコンセプトとしたGT3と、ル・マン24時間を主催するACOが中心となって耐久GTレース用に策定されたLM GTEとではレギュレーションの成り立ちが根本的に異なる。

 単純な比較は難しいが、ふたつの規則を元に開発された911 RSRと911 GT3 Rを比較すると、LM GTE規定に準拠した911 RSRのほうがGT3の911 GT3 Rよりもパフォーマンスは高そうだ。

 たとえば全幅は911 RSRのほうが911 GT3 Rより50~70mmほど広く、メカニカルグリップの点でもエアロダイナミクスの点でも有利に思える。実際、2台を写真で見比べると、911 RSRのフロントスポイラーは一体感の強い洗練された形状に仕上げられているほか、リヤウイングのサポートにもいわゆるスワンネック式が採用されており、ステーがウイングを下側から支えるコンベンショナルな911 GT3 Rの方式よりも高度な空力設計が施されていることがわかる。



 それにも増して印象的なのが、911 RSRのリヤディフューザーだ。911 GT3 Rのリヤディフューザーに比べると、911 RSRのものははるかに長さがあり、いかにも大きなダウンフォースが発生できる形状に思える。実は、このリヤディフューザー形状を実現するために、911 RSRでは水平対向6気筒エンジンを後車軸の後方から前方に移設。すなわち、いわゆるミドシップとすることでボディ後端の下側に空間を設け、ここに巨大なリヤディフューザーを取り付けたのである。

 エンジン・ポジションの変更はリヤタイヤにかかる負担を減少させ、リヤタイヤのライフを延ばすことにも役立った。この結果、耐久レースのスティント後半に見られるタイヤ・デグラデーションが軽減。ピットストップを行なう直前まで安定したラップタイムを刻めるようになったという。

 なお、2台ともエンジンはロードカーの911 GT3 RSと基本的に同じ水平対向4.0リッター自然吸気を搭載。この点も、市販車とレーシングカーの技術的な関連性をできるだけ深く持とうとするポルシェらしい判断といえる。

 911 RSRや911 GT3 Rに比べると、はるかにロードカーの911 GT3 RSに近いスペックとされているのが、ワンメイクレースのカレラカップで使用される911 GT3 カップだ。ボディサイズを比較すると、911 GT3 カップのほうが全幅が100mm広いことを除けば全高やホイールベースはほぼ同一。

 前述した2台のレーシングカー同様、911 GT3 カップは911 GT3 RSと基本的に同じ水平対向4.0リッター自然吸気エンジンを搭載するが、その最高出力は911 GT3 RSよりもむしろ小さい485psとされている。これは、カテゴリーごと、目的別にポルシェがそれぞれレース車両を製造していることの表れでもある。

 911 RSRは耐久レース用で長時間レースでドライバーの負担が少ないように設計されている。GT3 RはFIA GT3 規格に従って設計され、耐久レースパッケージを導入することで、長時間レースにも対応可能なモデルで、GT3 カップカーはヨーロッパではハコのF3とされるスプリントレースのシリーズに参戦するための車両設計であり、それぞれのレーススタイルに合わせて、車両が分かれているのだ。




 もうひとつ興味深いのは、911 RSRと911 GT3 Rがヴァイザッハにあるポルシェ・モータースポーツセンターで生産されるのに対し、911 GT3 カップはロードカーの911が生産されるポルシェ・ツッフェンハウゼン工場のラインで生み出される点にある。カップカーの年間生産台数は500台を超えるため、車両ごとの生産品質にばらつきがでないよう、市販車レベルでの生産品質管理がされているのだ。

 現在のポルシェ市販レーシングカーのなかで唯一、911をベースとしていないのがケイマンGT4クラブスポーツだ。GT4はGT3のひとクラス下に位置するカテゴリーで、プロレース化が進行してコストが急騰しているGT3よりも改造範囲を狭め、車両価格をできるだけ抑えてエントリーとしての間口を広めている点に特徴がある。

 すでにGT4に参戦するジェントルマンドライバーが続出しており、今後GT4がかつてのGT3のような地位を確立すると予想する関係者は少なくない。ケイマンGT4クラブスポーツの車重は1300kg。エンジンは3.8リッター水平対向6気筒で最高出力は385psで、入門用レーシングカーとして理想的なパフォーマンスの持ち主といえる。