レース展開に大きな波乱もなく終えた今年のカナダGPは、見ている方たちにとっては、ややもすると少し退屈なレースに映ったかもしれない。
しかし、チーム側にとっては、今シーズンのタイトル争いの大きなターニングポイントとなる一戦として、強烈なインパクトのあるレースとなった。なぜなら、新しいパワーユニットになってから、カナダGPはメルセデスが得意としているサーキットのひとつだったからだ。
5本のストレートを6つのヘアピンとシケインでつないだジル・ビルヌーブ・サーキットは、典型的なパワーサーキット。これまで最強の座に君臨していたメルセデスPUをワークス体制で使用しているメルセデスにとって相性のいいサーキットで、4年連続でポールポジションを獲得し、マシントラブルに見舞われた2014年以外はポール・トゥ・ウィンを飾っていた。
ところが今年は予選でPPを取れなかっただけでなく、レースでも2位と5位に終わった。
その理由はいくつかある。ひとつは、もはやメルセデスのPUがF1界のナンバーワンPUではなくなったこと。これはアゼルバイジャンGPですでにメルセデスのスタッフが認めていたことだが、予選でのパフォーマンスに限っていえば、現在の最強PUはフェラーリに取って代わられたのである。
さらにフェラーリは今回PUをアップデートしてきたことで、予選だけでなくレースでもメルセデスと対等か上回っていたのではないかと想像できる。
そうなると、これまでメルセデスの独壇場となっていたイギリスGP、ベルギーGP、イタリアGP、日本GP、アメリカGPでもメルセデスが苦戦する可能性があり、そうなればタイトル争いも非常に苦しい展開になることが予想される。
またカナダGPで、露見したメルセデスのこんな“ミス”も、今後のシーズンを戦ううえで不安である。それはタイヤの選択だ。カナダGPで最も軟らかいハイパーソフトをほとんどのチームが最も多く選択していた。ところがメルセデスはハイパーソフトとウルトラソフトを同じ5セット選択していた。この選択にはライバルチームのエンジニアも首を傾げていた。
というのも、最も軟らかいコンパウンドは、いわば予選用タイヤとなり、最低でも6セットは必要となるからだ。まずフリー走行2回目での予選シミュレーションに1セット。フリー走行3回目で1セット。予選Q1で1セット。Q2で1セット(Q3のアタックの練習用)。Q3で2セットだ。
5セットしか持ってこなかったメルセデスはフリー走行2回目での予選シミュレーションは2人ともウルトラソフトで行なっていた。さらに予選に向けた最後のチェックとなるフリー走行3回目ではセバスチャン・ベッテルが7周と5周のショートランでのアタックをそれぞれ新品タイヤで行なっていたのに対して、メルセデスはルイス・ハミルトンが10周分の燃料を積んでのアタック1回、バルテリ・ボッタスに至っては14周のミドルランしか行なっていなかった。これでは予選で完璧なアタックはできない。
こういう“ミス”は過去4年間にもあったが、圧倒的な速さのおかげで敗因にはならなかったのだが、このような接戦になると致命傷になる。
レース後、トト・ウォルフ(エグゼクティブディレクター)は、ショックを隠しきれない表情で、こう言った。
「力強い結果を期待してモントリオールに乗り込んだが、今日の結果はこれまで数年間あったチーム間のパフォーマンスの差が、今年はもうなくなっていることを我々は認めなければならないグランプリとなった」
カナダGPでの完敗は、過去4年間、F1を席巻してきたメルセデス天下の終焉の始まりかもしれない。