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KANA-BOON、アジカンとの本気決戦で見せた“ロックの血の継承” 対バンツアー東京公演レポ

2018年06月13日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 まだまだ関東は梅雨入り前だが、珍しく雨模様の、少し落ち着いた気持ちで迎えた5月終わりの平日、水曜日。KANA-BOONが、自分たちと深く関わりのある、青春時代からともにしてきた先輩バンドを招くというコンセプトで行われる東名阪3カ所の『KANA-BOONのGO!GO!5周年!シーズン2 東名阪対バンツアー「Let’s go TAI-BAAN!!」』。初日Zepp Tokyoより、先輩との1対1の本気決戦がスタートした。


(関連:『NARUTO』から『BORUTO』、「シルエット」から「バトンロード」へーーKANA-BOONが描く鮮やかな“継承”


 今回のツアーでは東京でASIAN KUNG-FU GENERATION、愛知ではORANGE RANGE、そしてラスト大阪はフジファブリックと続く。いずれも、KANA-BOONの世代的な意味でも、影響を強く受けてきた3組である。特にこの初日の対バン相手であるアジカンは、KANA-BOONにとっては間違いなく、これまでのバンド人生で最も特別な存在と言い切れる“先輩”だ。


 先攻、先輩であるアジカンが登場すると「サイレン」「Re:Re:」「リライト」などMCを挟むことなく、誰もが聴き馴染みのあるキラーチューンを立て続けに披露していく。基本的には“KANA-BOONの対バン相手”であるはずだが、ここアジカンのライブ会場だったっけ? と錯覚するほど、みるみるうちに会場全体が熱を帯びる。


 「どうもありがとう、ASIAN KUNG-FU GENERATIONです。KANA-BOONは、僕らのオープニングアクトを決めようというオーディションから出てきたバンドですが。すっかり立場も逆転して、今日はオープニングアクトに選んでいただいて嬉しいです。レーベルの後輩であるKANA-BOONが売れたお金で僕らは細々とアルバムを作ってます」と、同じレーベル仲間としてのジョークも交えつつ、フロントマン後藤正文が「いつもKANA-BOONには好きって言ってもらって嬉しいです。好き好き同士が集まっているんだから楽しい夜にしましょう」と話すとオーディエンスも今日のこの対バン主旨をさらに理解し、熱さと同時にとても和やかな雰囲気に。


 アジカンは後半パートでなんと、2003年の1stシングル『未来の破片』に収録されている「エントランス」を演奏(筆者も、あまりに久々に彼らのライブで聴き、イントロのギターソロの時点で懐かしさに息を飲んだ)。


 「音楽は世代を超えてさ、いいよね。こうやって自分たちが作った曲をコピーしてくれていたようなバンドに会って。でも嬉しさ半分、傷つき半分です。中学生の時聴いてました! とかって(あ、じゃあ今はもう聴いていないんだよね)と。その点、(谷口)鮪くんは『Wonder Future』ってアルバムがいいんです! とか話してくれて」と話す後藤。もしかすると先ほどの「エントランス」は、長きに渡り自分たちのことを変わらず愛してくれている最高のファンKANA-BOONへの特別な想いを込めた初期曲の贈り物だったのかもしれない。


 全9曲を演奏したアジカンの後、いよいよKANA-BOONが登場。のっけから「シルエット」「ディストラクションビートミュージック」「Fighter」とおなじみのアップビートな曲たちで会場を大いに盛り上げる。「5周年おめでとう~!」という声がオーディエンスから飛ぶ中、MCで谷口鮪(Vo/Gt)はこう話した。


 「今日はアジカンに出ていただきました。長年の夢が叶いました。俺ら、ずっとアジカンが好きだし、(ASIAN KUNG-FU GENERATION 1stフルアルバム)『君繋ファイブエム』とかは本当に青春が詰まっているんだけど、でもやっぱり最近のアジカンが一番かっこいい。最新が一番かっこいいバンドっていうのが、一番かっこいいな、と思って、僕らも新しい曲を作って、今日出しました~!」


 渾身の5曲入りのミニアルバム『アスター』をこの日にリリースしたばかりの彼ら。これからの季節にぴったりのセンチメンタルを描くと同時に、夏に向けて走り出したくなるような疾走感溢れるビートが詰まった新曲たちも披露し、本編ラストは「フルドライブ」でたたみかけて終わった。あっという間の11曲。 ちなみに『アスター』はこの日リリースされたばかりだが、先行配信されていた「彷徨う日々とファンファーレ」を筆頭に、いずれの曲も会場は大盛りあがり。サブスクリプションで聴く人のスピード感も考えると、“ミニアルバム”というのはライブとの関係性としても最適なサイズ感なのかもしれない、などと意外なことに気づかされた。


 両者ともまさにフルスロットルの状態で披露しあった熱狂の対バン。が、お楽しみはまだ終わっていなかった。2017年にリリースされたアジカンへのトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』に参加していたKANA-BOONが、この日この場所でふたたび先輩の前で「君という花」を演奏してくれることを、オーディエンスも皆、待ち望んでいたからだ。 


 アンコールで再びメンバーがステージへ戻り、谷口が「記念すべきイベントに来てくれて、ありがとうございました。先輩との共演だし、呼びますか!」と口火を切ると、ステージにアジカンから後藤が再び登場し、ZeppTokyoの観衆も大歓声で迎える。谷口が「俺らが高校時代に一番カバーした曲を」と言い、「君という花」を後藤とのツインボーカルで歌い始めた。1度目のサビはユニゾン、2度目はハモり、オーラスは谷口が歌いきる。会場中が、この共演を祝福していた。「すごいですね、本当にありがとうございました!」と、とても嬉しそうなKANA-BOONメンバー4人。彼らの表情は、かつての憧れの存在とともに、夢のような時間を現実のものとして作り出したことによる満足感で充ちていた。


 「中学でアジカンに出会い、高校で軽音楽部に入りアジカンのコピーをして。オリジナル曲を作ったらアジカンにそっくりな曲ばっかりできて(笑)。あの頃の自分たちが聞いたら腰を抜かすぐらいの、嬉しい感動的な日でした。やっぱり続いていくバンドが、かっこいいと思います。俺らまだ5周年ですけど、続けていくんで。今日をまた支えに、糧にして、がんばっていきましょう」と自分たちの同世代や、もっと若い世代へと向けたメッセージを最後に放った谷口。現在の日本のロックシーンを支えるバンド界の中でも、一際あたたかで象徴的なストーリーが、この日またひとつ紡ぎ出された。


 “KANA-BOON 5周年”とツアータイトルに銘打っているものの、彼ら自身がここまでの5年という日々をじっくり振り返るような場面は皆無。最後の一度きりの決意表明だけだった。きっと彼らは、この新しい『アスター』とともに、今夏もひたすらに駆け抜けていくのだろう。そして9月には、4年ぶりとなる彼らの地元・大阪堺でのワンマンイベント『ただいまつり!』が待っている。


 2018年現在、“アジカンに強く影響を受けた”と公言するバンドは数多く存在していることだろう。その中でもKANA-BOONは、さらにずば抜けて影響も愛も強く受けてきたに違いない。アジカンがいなかったら存在していないバンド、といっても過言ではないはずだ。そんなことが、アンコールの「君という花」一音一音から強くうかがえた。本人たちはいたって笑顔で楽しそうに演奏していたが、そこには明らかにロックの血の継承が感じられたのだ。


 憧れの存在に引っ張り上げられてきたことを感謝する後輩と、好きと言い続けてもらってそれが確実に誇りとなっている(けどそれをそんなに大っぴらに示さない、しかし嬉しそうな)先輩。これまでにも数えきれないほどの、盟友同士/先輩後輩/同郷同士/同世代同士の対バンライブを観てきたが、その中でも屈指の純度の高い愛のある対バン(TAI-BAAN!!)だったように思う。


 この日、あの場に居合わせたオーディエンスはもちろん、当日にGYAO!で生配信を観ていた視聴者も皆、幸せな気持ちであったに違いない。改めて、日本にはこうして確かな手応えを感じることのできるロックミュージックの系譜が脈々と繋がっているという事実を、喜びをもって感じられるような夜だった。(取材・文=鈴木絵美里)